災害時に便利な液体ミルク 母乳育児の人が注意すべきこと

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写真はイメージです

今年3月から国内メーカーが販売を始めた乳児用液体ミルク。粉ミルクのようにお湯で溶かして冷ます必要がなく、常温のまま子供に与えることができるため、災害時のために備蓄する家庭や自治体が増えつつあります。東京都内でこのほど開かれた災害時の母子支援がテーマのシンポジウムを取材し、液体ミルクを備蓄する際に注意すべきことは何か、母乳育児の人が心に留めておくべきことは何かを考えました。

ミルクは必要な人に必要な分だけ

NPO法人「子連れスタイル推進協会」主催のシンポジウム「乳幼児支援のための備蓄と液体ミルクのあり方」。医師や防災の専門家らが参加し、自治体の防災担当者などに向けて、液体ミルクを備蓄・配布する際の注意点などを説明しました。

現在販売されている液体ミルク

新生児科医の奥起久子さんは、災害時の避難所などで「赤ちゃんがいる人全員に(液体ミルクを)配布するのがよいと考えられがちですが、それは適切ではありません」と指摘。「乳児用ミルクを飲んでいる赤ちゃんとお母さんに、必要な期間、必要なだけ届けることが大切です」と話しました。

母乳を与えているお母さんが、災害が起きてもそのまま母乳を与え続ければ、限られた乳児用ミルクなどの備蓄が本当に必要な赤ちゃんに届けられることにつながり、より多くの赤ちゃんの健康や命が守られるといいます。「母乳はライフラインが止まっても衛生的に与えられるし、栄養価が変わらず、多くの免疫成分が含まれているなど、災害時にもってこいの特性があるにもかかわらず、不安や避難所の状況などから支援がないと母乳を継続しにくいと言われています」と話しました。

「ストレスで母乳が出なくなる」は誤解

また、被災などによるストレスで母乳が出なくなると言われていることについて、奥さんは「避難所生活で母乳が一時的に出にくくなったと感じる人がいるかもしれませんが、安全と感じられる場所で何度も授乳することで母乳は作られます。『ストレスで母乳が出なくなる』というのは誤解」と話すとともに、女性が安心して授乳できる環境を整えることの必要性を訴えました。

授乳服なら肌が見えないので周囲に気兼ねせずに授乳することができます(モーハウス提供)

母乳をあげている人は、災害時でもふだん通りに母乳を与えることが理想。被災直後の混乱している時は、避難所などに授乳室が用意されないことも想定されるので、避難グッズの中に授乳ケープや、着たまま授乳ができる授乳服などを用意しておくとよさそうです。

母乳育児の人へ食べ物を多めに配布も

アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんは、東日本大震災の時に、避難所などで粉ミルクが配布されたことで、母乳から乳児用ミルクに切り替えた人がいたという事例を紹介。「母乳をあげている人には、(乳児用ミルクの代わりに)食べ物を多めに配布することなどを、あらかじめ自治体側で決めておくことが大切」と話しました。

シンポジウムに登壇した奥さん(左)とあんどうさん

通常、生後5~6か月で始まる離乳食。授乳の回数がだんだん減っていき、離乳食の分量が増えていきます。この時期に、災害などによって離乳食が手に入りにくくなると、母乳をあげている人も乳児用ミルクを与えたくなりますが、奥さんは「まずは母乳をあげてください。生後1年以上たつと、母乳中の栄養や免疫成分が減ると言われていますが、そんなことはありません」と強調していました。

液体ミルク利用者は、自宅でも備蓄を

液体ミルクは便利な一方で、一度開封したらすぐ飲みきらなければならず、保存期間も半年ほどしかありません。

液体ミルクを防災備蓄することを検討している茨城県境町の橋本正裕町長はシンポジウムで、消費期限が近づいた液体ミルクを廃棄しなくても済むよう、学校給食のクリームスープやシチューなどに活用できないか検討していることを明らかにしました。自宅で液体ミルクを備えている人にも、参考になりそうです。

また、自治体が必要とする液体ミルクの備蓄量については、あんどうさんは「赤ちゃんが必要とする乳児用ミルクすべてを備蓄することは難しい」としたうえで、ミルクを使用している人に対して、「被災状況によっては、自治体などが配布している場所に取りに行けないこともある。自宅で安全を確保しつつ、使い慣れたミルクの備蓄を検討してほしい」と訴えていました。
 
シンポジウムを通して、母乳をあげている人は災害時にもできる限り母乳をあげ続けることや、液体ミルクを利用する人は自宅で備蓄を心掛けるとともに消費期限に気をつけること、与える時に使う紙コップも一緒にしておくことなどが大切だと感じました。

(取材/メディア局編集部山口千尋)