少年たちの成長を愛でる…ジャニーさんがくれた夢の世界

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 SMAPや嵐など数多くの男性アイドルを育てた芸能プロダクション・ジャニーズ事務所の社長で舞台演出家のジャニー喜多川(本名:喜多川擴、きたがわひろむ)さんが9日午後、87歳で亡くなりました。ジャニーさんが手掛けてきた男性アイドルたちは、テレビやステージでの華やかなパフォーマンスで、女性ファンを中心に幅広い世代の憧れの対象となりました。テレビコラムニストの桧山珠美さんが、ジャニーさんの功績を振り返ります。

「怪しいおじさん」が「親しみあるお父さん」に

 「男性アイドルの帝王」「若い才能を発掘する鋭い嗅覚」「You、〇〇やっちゃいなよ」……。
 テレビや雑誌などでその姿をほとんど見ることがないのに、ジャニー喜多川さんは、その名前を知らない者がいないほどの有名人です。最近では、ジャニーズ事務所のタレントたちが、テレビのトーク番組やバラエティー番組で、デビューの際のジャニーさんとのやりとりを明かしたり、ジャニーさんの語り口調をモノマネしたりすることが多くなりました。
 それによって、長らく秘密のベールに隠れていた「ジャニーさん」の輪郭は少しずつ明らかになり、それまでの「得体の知れない怪しいおじさん」は「男性アイドルのお父さん」のような存在になり、親しみが増していきました。

「ホタテの貝柱」は宝物

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 「オーディション会場で掃除のおじさんかと思っていたら、実はジャニーさんだった」
 「褒められると、ホタテの貝柱のおつまみを渡される」
 こんなびっくりエピソードを聞くと、清掃員のような格好をしたジャニーさんが、いつもズボンのポケットにホタテの貝柱を入れている姿を想像し、思わずにやけてしまいます。
 若い男の子たちへのご褒美がチョコレートやキャンディーではなく、ホタテの貝柱だなんてちょっと常人には思いつきません。黒柳徹子さんだって、あの“たまねぎ頭”から出すのはあめ玉ですから、ジャニーさんのほうが一枚上手かもしれません。
 いずれにせよ、将来のスターを目指した男性タレントにとって、ジャニーさんの「ホタテの貝柱」は、かけがえのない宝物に違いありません。

第1号タレントは「ジャニーズ」

 ところで、これまで数々の男性アイドルを輩出し、今や“アイドル帝国”と言われるジャニーズ事務所ですが、その創成期についてはあまり知られていません。
 ジャニーズタレントの第1号は、その名もずばり「ジャニーズ」(1964年デビュー)。1962年当時、ジャニーさんは草野球チームを持っていて、所属していた少年の中から選抜された4人で結成されました。メンバーには、「水戸黄門」の助さん役でも知られるあおい輝彦さん、現在も「劇団四季」で活躍する飯野おさみさんらがいました。
 その後は、フォーリーブス、郷ひろみさん、川崎麻世さん、田原俊彦さん、近藤真彦さん、野村義男さん、シブがき隊、少年隊、光GENJI、男闘呼組、SMAP、TOKIO、V6、KinKi Kids、嵐、タッキー&翼、NEWS、関ジャニ∞、KAT-TUN、Hey!Say!JUMP、Kis-My-Ft2、SexyZone、A.B.C-Z、ジャニーズWEST、King & Prince……などがデビュー。歌手だけでなく、風間俊介さんや生田斗真さんら俳優業をメインにして活躍するタレントもいます。

「孤児」を前面に打ち出したアイドルも

 ちなみに、私の個人的な体験を恥ずかしながら告白すると、最初にハマったジャニーズタレントは、1974年デビューの豊川誕さんでした。誕生日の「誕」と書いて、なぜか「じょう」と読みます。

 アイドルにはちょっと珍しく、陰のあるところが子どもながらに気になる存在でした。彼は、親から見捨てられた孤児という生い立ちを前面に出し、歌詞には「可哀想な星めぐり~」「ひとりぼっち~」といったフレーズが散りばめられるなど、救いようのないほど暗い世界観を歌っていました。

 ドラマに出演することもありましたが、こうした生い立ちが念頭にあるためか、はかなげな役が多かったように記憶しています。後にも先にも「孤児」を売りにした男性アイドルは、豊川さん以外に思い浮かびません。常識にとらわれることのないジャニーさんだからこそ、彼をスポットライトの当たる場所に立たせることができたのだと思います。

Youたち、「嵐」だから

 これまでのジャニーズタレントの顔ぶれを振り返ると、田原俊彦さん(1980年デビュー)以降は、2~3年の間を空けず、コンスタントに新たな人気タレントを輩出しています。そして、グループのメンバー構成、グループ名、グループコンセプトなどのすべてをジャニーさんが決めてきたというから、改めて驚かされます。

 例えば、「嵐」。今でこそ違和感のないそのグループ名も、結成当初は「?」と思った人が多いはずです。当時は「GLAY」「SPEED」「globe」といった横文字のスタイリッシュな名前のアーティストが世の中を席巻していました。

 「Youたち、嵐だから」。ジャニーさんからそう告げられたとき、なにより嵐のメンバーが驚いたという話は有名です。漢字1文字のグループ名なんて、だれも想像すらしていなかったはずです。

 嵐のメンバーに相葉雅紀さんが選ばれたエピソードもユニークです。ハワイでデビュー会見を用意していましたが、数日前になって、ジャニーさんから「You、パスポート持ってる?」と聞かれたのだとか。「はい」と答えた相葉さんは、無事にメンバー加入が決まったそうです。もし、相葉さんが「いいえ」と答えていたら、嵐の顔ぶれが違ったかと思うと、「運」や「縁」を大事にするのもジャニーさんならではの采配なのだと納得がいきます。

有為ある少年の成長を愛でる

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 ジャニーズ事務所のタレント養成方法は、デビュー前の少年たちをテレビやステージに出させて現場を経験させるというものです。少年隊のバックには光GENJIやTOKIOが、KinKi Kidsのバックには嵐やタッキー&翼の踊る姿がありました。「ジュニア」として憧れの先輩のステージを盛り上げ、ステージパフォーマンスを学び、そして、「いつか自分たちも……」と夢見てレッスンに励むわけです。

 ジャニーさんは、ジャニーズ事務所について、「男版宝塚を作る」と発言していました。言われてみれば、ジャニーズのタレント養成システムは、宝塚歌劇団に似ています。才能にあふれた精鋭の中で、さらにトップの座を射止めるのは、ほんの一握り。憧れの先輩の後ろで歌や踊りを磨くだけでなく、テレビ番組で注目を集めるには、トークや演技なども求められます。

 熱心な宝塚ファンが、音楽学校時代から将来のスター候補に目をつけてトップへ育て上げるように、ジャニーズタレントにも、ジュニア時代からお目当ての少年の成長を見守るファンが多くいます。

 ジャニーさんは、まだあどけなく、声変わりもしていないような少年たちのスター性を見いだし、日本を代表するアイドルに育て上げてきたのです。そして、テレビ全盛の時代にあって、お茶の間にいる私たちは、宝塚よりも身近な存在として、「有為ある少年の成長を愛でる」という楽しみ方をジャニーさんから与えてもらったのです。

音楽だけでなく、ドラマ、バラエティー、報道へも進出

 ジャニーズタレントの活躍は、時代とともに変遷していくのも特筆すべきことです。

 田原さん、近藤さん、野村さんの「たのきんトリオ」を一躍有名にしたのは、学園ドラマ「3年B組金八先生」(TBS系)です。これ以降、学園ドラマの生徒役にジャニーズタレントは欠かせない存在となり、先日終了した「俺のスカート、どこ行った?」(日本テレビ系)でも、King&Princeの永瀬廉さん、なにわ男子(関西ジャニーズJr.)からは長尾謙杜さん、道枝駿佑さんが出演し、話題をさらっていました。

 実力の伴わないジャニーズタレントがドラマで主演すれば、批判にさらされることもありますが、最近では映画や舞台などで演技力を高く評価されることも少なくありません。「俺スカ」の生徒役3人は、学園ドラマの華として見ごたえがありました。

 たのきんトリオは、「ヤンヤン歌うスタジオ」(テレビ東京系)や「たのきん全力投球!」(TBS系)といったバラエティーにも挑戦していましたが、バラエティー番組への本格的な進出といえばSMAPです。歌番組の衰退とともに、「愛ラブSMAP」(テレビ東京系)や「夢がMORIMORI」(フジテレビ系)、「SMAP×SMAP」(フジテレビ系)といった番組で、体を張ったコント、スポーツ、料理などに挑戦し、もはやアイドルの枠を超えた活躍を見せました。そして最近では、有名大学出身のジャニーズタレントも多く、情報番組のMCや報道番組のキャスターとしても活躍しています。

巨星失っても続く「ファンの夢」

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 バンドブーム、ビジュアル系、K-POP……。昭和から平成、令和にかけて、流行り廃りを繰り返しながら、様々なアイドルが台頭してきました。移り気の早い世の中にあって、絶え間なくトップアイドルを輩出し続けてきたジャニーさんが日本のエンタメ界に与えた影響は、あまりにも大きいのです。

 過去にも、大手芸能プロダクションの社長が代替わりしたケースはいくつもあります。ところが、ジャニーズ事務所の場合は、少々事情が異なります。今後のジャニーズ帝国がどうなるのか気になるところです。ジャニーさんの経験と勘に基づいた、独自のスター養成システムを今後も続けることは、たやすいことではないでしょう。

 ジャニーさんの後を継ぐため、昨年、芸能界を引退した滝沢秀明さんの手腕が試されそうですが、事務所には近藤真彦さんや東山紀之さんら重鎮もいます。それに、木村拓哉さんと中居正広さんも存在感があります。もちろん、ジャニーさんの姉のメリー副社長や、その娘のジュリーさんの存在も無視できません。お家騒動やいさかいに発展しなければいいのですが。

 エンタメ界の巨星が失われても、なお、ジャニーズファンの夢がついえてしまわないことを願い、ジャニー喜多川さんのご冥福をお祈りします。

桧山
桧山 珠美(ひやま・たまみ)
テレビコラムニスト

大阪生まれ。編集プロダクション、出版社勤務を経てフリーに。現在、「読売新聞・アンテナ」「日刊ゲンダイ」「GALAC」などでテレビ・ラジオ・放送メディアに関するコラムを連載している。