「アルプスの少女ハイジ」の“悪役”ロッテンマイヤーさんが子育て世代から共感されるワケ

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 名作アニメ「アルプスの少女ハイジ」に登場するロッテンマイヤーさんという女性をご存じですか? 堅苦しく、融通が利かない教育係として、どちらかというと“嫌われ役”ですが、子育て中のママたちから、読売新聞の掲示板「発言小町」に「ロッテンマイヤーさんに猛烈に共感!」という声が寄せられています。母になって感じる子育ての現実が、そう思わせるのでしょうか。作品に詳しい専門家に聞いてみました。

 アニメ監督の高畑勲さんが手がけた「アルプスの少女ハイジ」(1974年放送)は、今年初放送から45周年です。原作はスイスの作家、ヨハンナ・シュピリの児童文学。19世紀のスイス、母親を亡くした少女ハイジが、アルプスの山小屋にひとりで住む頑固者のおじいさん(アルムおんじ)のもとに預けられることから物語は始まります。ハイジは、足が不自由で病気がちの少女・クララの遊び相手として、クララの住むドイツの大都市フランクフルト一のお金持ちといわれた、ゼーゼマン家に連れて行かれ、そのお屋敷で執事(原作では家政婦)として働くロッテンマイヤーさんに出会います。

 ロッテンマイヤーさんは、今でいう“アラフォー”の独身女性。教育も行儀のしつけも受けていない、自由奔放なハイジを口うるさく指導します。アニメの中では、髪を結い上げてめがねをキラリと光らせ、「アーデルハイド!」(ハイジの洗礼名)と、厳しい口調でしかる女性といったら、ロッテンマイヤーさんのことが思い浮かぶのではないでしょうか。

「教えて!おじいさーーーん!!」

 トピ主の「イジ」さんは、子どもの頃から「アルプスの少女ハイジ」が大好きで、子ども心にロッテンマイヤーさんのことを“狭量で柔軟性のないつまらない大人”と思っていたそうです。ところが、十数年ぶりにわが子と一緒に作品を見直して驚きました。「ロッテンマイヤーさんに猛烈に共感している自分に気づいたのです!」とつづります。

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 「そうだよね、そうだよね。子ども部屋のタンスから白パン出てきたら叫ぶよね。食事中コップ叩いたらやめさせる一択だし、すぐに熱を出す足の悪い子どもを急勾配に建つ山小屋に連れて行くって言われたらとりあえず反対するし、村人から全く信頼を得ていないおじさんの所に女の子を預けるなんて青ざめて私もついていきます。ロッテンマイヤーさん、クララを本当に大切に思って心を砕いていたんだ……」など、共感ポイントがたくさんあったそうです。

 さらに、子どものやることなすこと、口うるさく注意してしまう自分の日常生活を振り返り、「私の子育てはなぜお行儀の良さやお勉強ばかりを優先するの?教えて!おじいさーーーん!!」と、心の叫びを吐露しました。

 この投稿に、母親世代の女性たちから、共感の声がありました。

ロッテンマイヤーさんの職業意識の高さをリスペクト

 「大人になってから見るとロッテンマイヤーさんの気持ちが良くわかります。なんというか、通常では想定しないことを連日のようにやらかす子供に対する戸惑いですよね。白パン、タンスにしまってたら湿気があればカビだらけだし、湿気がなければカピカピですよね」(「シトロン」さん)

 「我が子が小さい頃、よくママ友と言ってたのを思い出しました。あんなにキライだった、ロッテンマイヤーさんの気持ちが今はわかるわーと。ハイジのように子どもに自由に行動されたら、そりゃー叫ぶし怒るだろうと」(「はい」さん)

 「ロッテンマイヤーさんは独身ですが、未来ある子供たちを一人前に育てなければという強い思いには、母親と共通するものがあるんでしょうね」(「フランクフルター」さん)

 「たまにフランクフルトにやってきては、ハイジやクララを甘やかすクララのおばあさまも何だかなーって感じです。母親がしつけしてるのに『ほーらゲームだよ、スマホだよ、お菓子だよ』って(子どもに)与えちゃう様なもの。そりゃ『おばあさま、大好き!』になるのは当然ですよね」(「うんうん」さん)と書き込む人も。

 都合のいいときだけ、子どもを甘やかして母親を苦しめる“おばあちゃん”の存在と重なってしまうようです。

 「ヨーゼフ飼いたい」さんは「一貫してクララお嬢様の為だけを思い、小言を言い、闘い、馬にも乗り、ズボンを履いていずり回り、山に登り、やがて異なる価値観に理解を広めて変わっていった彼女には敬意を持ちます」と、ロッテンマイヤーさんの職業意識の高さをリスペクトしました。

原作のロッテンマイヤーさんはどんな人?

 ロッテンマイヤーさん、原作ではどんな人物だったのでしょうか?「10歳までに読ませたい世界名作9 アルプスの少女ハイジ」(学研プラス)などの著書で知られる、ドイツ文学者で、早稲田大学教授の松永美穂さんに、ロッテンマイヤーさんの人となりを聞きました。

 アニメでは、ロッテンマイヤーさんはクララに付き添ってアルムの山までやってきますが、原作ではスイスの山に偏見を持っていて、一度も山に来ることはありません。また、原作のロッテンマイヤーさんは、伝統や格式にこだわり、幼いハイジの環境が変わって戸惑っていることに対しても、理解を示そうとせず、ハイジをトラブルメーカーととらえているふしがあります。

 「ロッテンマイヤーさん自身は、お屋敷の使用人のトップとして、秩序正しく切り盛りする役ですから、原作で厳格な面が描かれているのも無理はないでしょう。お屋敷にはクララやおばあさまやゼーゼマンさんなど、ハイジの味方になってくれる人がいるので、読者としてはハラハラしながらもハイジを応援しつつ読むことができます」と松永さんは話します。

大人になっても感動を呼ぶ名作

 松永さんは、NHKのEテレの番組にも4回にわたり出演し、「アルプスの少女ハイジ」を取り上げました。「この『ハイジ』という小説は、大人が忘れていたことを感じさせ、考えさせてくれるような作品です」と言います。

 松永さん自身、この小説を子どものころに読んだときには、ハイジがフランクフルトに行ったのはとてもつらいことだと思って同情しながら読んだそうですが、大人になって読み直すと、「ハイジがもしあのまま山の上で暮らしていたら字も読めず、礼儀作法も知らず、おじいさんが死んだときには途方に暮れていたことでしょう。フランクフルトに行ったからこそ、読み書きを覚え、礼儀を身につけ、信仰を持ち、裕福な一家の後ろ盾も得られた。そんな読み方もできますね」と言います。

 また、周りの大人たちがハイジとの関係で良い意味で変化していくことも、大人だからこそ理解できる点だそうです。「原作には、アニメ以上にたくさんの感動的なエピソードが収められています。全訳は岩波少年文庫などで読むことができますのでぜひ読んでみてください」と、松永さんは強調します。

 最近では家庭教師派遣会社「家庭教師のトライ」のコマーシャルでも、アニメのキャラクターが登場して、なつかしく思う人も多いでしょう。

 立場や世代によって、登場人物への思いは様々です。ちなみに物語の舞台であるスイスではアニメは放送されておらず、「クララが立った!」や「クララのいくじなし!」という有名なシーンは原作には出てこないそうです。シュピリの原作の翻訳本や解説本も数多く出版されているので、読んだらきっと見方が広がるかもしれません。(メディア局編集部・遠山留美)

【紹介したトピ】
ロッテンマイヤーさん

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