「悩む子供を救いたい」LGBT学ぶ講座開設・鶴岡そらやすさん

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 LGBT(性的少数者)への理解を広め、誰もが自分らしく生きられる社会を子供たちにわたしたいと、埼玉県川口市在住の学習塾経営・鶴岡そらやすさん(46)が、LGBTに関する知識を伝える保護者向けの講座を始めました。鶴岡さんは、女性の体に生まれながら心の性別が一致しないトランスジェンダーです。15年間、トランスジェンダーであることを隠して小・中学校の教員をしていましたが、新たな一歩を踏み出しました。活動にかける思いを聞きました。

「人との違い」に悩む母親たちが受講

――今年3月に「レインボーかたつむり協会」を設立し、講座を開始しました。設立の目的は。

 セクシュアルマイノリティーとして生きにくさを感じている子供たちが、自分を隠さずに生きていける世の中を作る。それが協会の目指すところです。LGBTへの理解を深めてもらうための取り組みには、いろんな切り口がありますが、私は、お母さんたちにLGBTに関する知識を伝える活動を始めました。お母さんが家庭で日常的にLGBTについて話すことで、LGBTの当事者である子供は話ができるようになるし、当事者でない子供もLGBTに対する偏見や差別意識を持たずに成長して、LGBTの友達がいても普通に接することができるようになる。それが当たり前の世の中を作っていきたいと考えています。

――講座は、LGBTに関する基礎的な知識などを紹介する「体験講座」と、基礎知識に加えて、LGBTの人たちが抱えている不安や孤独感を理解し、彼らの心の支えになるためのノウハウなどを伝える「本講座」、さらに、講座で教えるインストラクターを目指す人のための「インストラクター養成講座」があります。

 レインボーかたつむりは、講演活動にも力を入れていきたいと考えています。全国各地の教育現場などから要望があるので、いずれは私だけでなく、インストラクターになった方たちにも講演に行っていただくようにしたいです。インストラクターは現在11人で、養成講座の受講者が14人います。100人を養成するのが目標です。

――受講者は、LGBTの子供を持つ母親が多いのでしょうか。

 そのようなお母さんは、むしろほとんどいません。お子さんのいない方もいらっしゃいます。いずれにせよ、問題意識のすごく高い方が多いですね。彼女たちと話をして感じるのは、LGBTに限らず、「人との違い」に不安を感じているお母さんがたくさんいるということです。例えば、シングルマザーの方や、発達障害のお子さんがいらっしゃる方、ご主人が外国籍の方などで、自分自身が「人との違い」に悩んでいて、それをLGBTの問題に結び付けて考えているようです。

昨年11月にカミングアウト

――活動を始めたきっかけは?

 私は昨年の11月まで、トランスジェンダーであることを隠していました。知っていたのは、ごく親しい人たちだけ。今、付き合っている女性のパートナーがいるのですが、私は子供が大好きなので、できるなら彼女と一緒に子供を育ててみたいという思いがありました。ある時、パートナーに「子供との血のつながりのある、なしは気にするの?」と聞かれたんです。私自身、実の父と、血のつながりのない母という家庭で育ったので、「つながっていても、つながっていなくても関係ない」と答えたら、パートナーはすごく喜んでくれました。

 それで「どういう形でもいいから、子育てに関わりたいね」という話になった時に、「このままカミングアウトせずに、親になっていいのだろうか。トランスジェンダーであることを隠して生きている姿を子供に見せたくない」と考えたんです。

 その頃、性教育のインストラクターになるための講座を受けていて、その講座の中で、トランスジェンダーだとカミングアウトしました。すると、講座を運営している会社の責任者から「LGBTに関する知識を広めることはすごく大事なことだから、講座にしないか」と声をかけていただいたんです。

体験講座で受講生にレクチャーする鶴岡さん

――教師時代の体験も、現在の活動に結び付いているそうですね。

 教師の頃は、トランスジェンダーであることをオープンにする勇気がありませんでした。オープンにしたら、保護者たちから何を言われるだろう。そんなことばかり気にしていました。私がオープンにしていないから、当然、LGBTの子供たちは話してくれるわけがありません。もしオープンにしていたら、私に相談してくれた子は、きっといっぱいいたと思うんです。

 当時の教え子で、戸籍上の性別を女性から男性に変えたトランスジェンダーの子がいます。今はもう成人して幸せそうだけれど、先日、「あの頃は、死にたいと思ったことが何度もあった」と私に打ち明けてくれたんです。私は教師としてその子を見ていて、「男の子っぽい子だな」とは思ってはいたけれど、特に気に留めていたわけではありませんでした。自分自身がトランスジェンダーでありながら、「もしかしたら、この子も悩んでいるかもしれない」とは考えもしませんでした。

 私はもう大人で、理解のある仲間もできて、トランスジェンダーであることをつらいと思わなくなっていたからです。でも、子供の頃を思い出せば、確かに私も死にたいと思ったことがあった。なのに、自分はいったい何をしていたんだろうって、自分自身に腹が立ったんです。それで、カミングアウトした今だからこそ、悩んでいる子供たちを救いたい、力になりたいという思いを強くしました。

親子で遊べるカードゲーム考案

――講座を開くようになって、あらためて感じることはありますか?

 お母さんたちの我が子に対する愛情の深さですね。はじめは「もしも自分の子がLGBTだったらどうしよう……」と話していたお母さんも、講座が進んでいくうちに「子供が幸せなら、それでいいんですよね」と気持ちが変わっていくんです。親子の関係がしっかり作れていれば、子供は何を言っても平気なんだなと。私は、トランスジェンダーだと言えないまま、母を亡くしました。お母さんたちを見ていて、「私も母に言ってよかったのかな」と考えるようになりました。

――LGBTについて親子で学べるカードゲームを考案されたそうですね。

 「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシャル」「トランスジェンダー」を示すカードがあって、それぞれのカードに合うカードを集めていくというゲームです。例えば、体が男性、アイデンティティーも男性、好きになるパートナーも男性という人は「ゲイ」です。このゲイのカードに合うカードを集めていくわけです。アイデンティティーが男性なら、ネクタイを付けるので、ネクタイの描かれたカードが合う、トランクスをはくからトランクスのカードが合うといったようにです。合うカードを最初に5枚そろえた人が勝ちになります。

LGBTについて学べるカードゲーム

 5枚そろったら、そろえた人が説明します。「体が男の人でアイデンティティーも男の人だから、心と体は一緒。一緒の人のことを『シスジェンダー』といいます。男の人の心で、好きになるのも男の人の時は『ゲイ』です。アイデンティティーは男なので、トランクスをはいて、ネクタイを付けます」といったようにですね。小さなお子さんで説明できない場合は、お母さんが説明します。

 こうやって遊んでいるうちに、子供たちは「ゲイ」「レズビアン」といった言葉に慣れていって、「使ってはいけない言葉」とは思わなくなります。LGBTの概念も分かるようになります。ゲームだから、お母さんも子供と会話がしやすい。本講座でも、受講者同士で実際にこれで遊んでみる時間があります。

――今後、取り組んでみたいことはありますか?

 学校や行政機関での講演活動に加えて、企業研修です。トランスジェンダーの子にとって、就職は、この先どちらの性別で生きていくのかを決めるターニングポイントになります。例えば、トランスジェンダー男性だと、採用面接の時に、男性用のスーツを着ていくか、女性用スーツを着ていくかで、すごく迷うんです。もしも体の性別とは違う男性用スーツを着ていったら、そのことを面接官に聞かれるかもしれません。「どこまでカミングアウトしたらいいんだろう」「カミングアウトしたら、不採用になるのではないか」といった不安や葛藤を抱えて、結局、就職をあきらめてしまう人もいるんです。

 意欲のある有能な人材なのに、そのような事情で就職をあきらめてしまったら、企業にとっても大きな損失です。研修でLGBTについて学んでいただけば、その企業は、他とは違う視点を持った人材を受け入れ、新しいものを生み出すことができるのではないでしょうか。

(聞き手・読売新聞メディア局 田中昌義)

鶴岡 そらやす(つるおか・そらやす)

東京都生まれ、埼玉県育ち。埼玉大学教育学部卒業後、公立小・中学校で教員として15年間勤務。株式会社「Terakoya Kids」(本社・東京)の事業として「レインボーかたつむり協会」を設立し、主宰者に。2019年3月から講座を開始。