性暴力を許さない 広がる「フラワーデモ」

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 花を手に、性暴力のない社会の実現を呼びかける「フラワーデモ」が、全国に広がっています。今年3月、性的暴行を巡る刑事裁判で無罪判決が相次いだのが発端。デモは4月以降、毎月11日に行われ、今月11日には、東京、札幌、鹿児島など全国9都市で、参加者たちが性暴力に関する刑法の見直しなどを訴えました。活動の背景を取材しました。

「デモに参加して世の中を変えたい」

 「無罪判決が出た時、被害に遭った人たちはどんなにつらかっただろう」「身近な人にも被害者がいるかもしれないと考えてほしい」。JR東京駅前で6月11日夜に行われたフラワーデモには、約300人が参加。性暴力の被害女性などが次々とデモの先頭に立ち、自らの体験を打ち明けたり、意見を述べたりしていました。

 大学時代、声をかけてきた男性から性的暴行を受けたという女性(37)は、「(暴行を受けたのは)自分が悪いのかもしれない」と考えて、警察に行けなかった経験を告白。取材に対して、「無罪判決を知ったとき、『これで無罪になるなら、自分も無理だったな』と考えてしまいました。そんな社会のままではダメだと思い、デモで被害について話しました」と語りました。

 初めてデモに参加したという女性(25)は「自分は当事者ではありませんが、判決には違和感を持ちました。私一人の力は小さいかもしれないけれど、参加することで変わるのなら、世の中を変えたい」と、言葉に力を込めました。

 4月のデモに参加し、今回は進行役を務めた杉田ぱんさん(24)は、フラワーデモについて、「年齢や職業、性別など様々な立場の人が集まる場になってほしい」と話していました。

無罪判決相次ぎ、刑法見直し要望

 フラワーデモは、作家の北原みのりさんらがSNSなどで呼びかけたことから始まりました。きっかけになったのは、今年3月に相次いで無罪判決が言い渡された4件の性犯罪を巡る裁判です。

 中でも議論を呼んでいるのが、名古屋地裁岡崎支部で同月26日に言い渡された判決です。愛知県内で2017年、当時19歳の娘に性行為をしたとして、父親が準強制性交等罪に問われていた裁判で、同支部は、性行為が娘の意思に反していたと認定したものの、「娘は長年、父親から性的虐待を受けていたが、強い支配関係はなく、抵抗できない状況ではなかった」として、父親に無罪を言い渡しました。

写真はイメージです

 このほか、福岡地裁久留米支部や静岡地裁浜松支部などでも、性的暴行を巡る裁判で無罪判決が言い渡されています。一連の判決を受けて、5月には性暴力被害者らで作る一般社団法人「Spring」が、性犯罪に関する刑法の見直しなどを求める要望書を法務省と最高裁に提出。「同意のない性行為を処罰する『不同意性交等罪』を創設するべきだ」などと訴えました。

性暴力に対する社会の見方に変化?

 「各地域でこれほど多くの人が抗議活動に集まるというのは、これまであまり見られませんでした。性暴力に対する社会の考え方が変わってきているのではないでしょうか」。Springの代表理事・山本潤さんは、そう期待をにじませます。

山本潤さん

 山本さん自身、13歳から7年間、実父から性暴力を受けていた被害者の一人です。「訴えた4人の被害者は、無罪判決にショックを受けているはず。『あなたたちは間違っていない』と彼女たちに寄り添いたい」という思いで、フラワーデモに参加しています。

被害者の声が伝わる環境に

 性暴力は、第三者が「嫌なら死ぬ気で抵抗するだろう」と推測したり、「知らない人から受けるもの」などと思われたりしがちです。しかし、山本さんによると、性暴力に遭うと体や心が恐怖によって動けなくなる「フリーズ状態」に陥ることや、被害に遭ったケースの約7割は、知人や親族が加害者であることなど、一般的に抱かれている認識とは異なるといいます。

 誤った認識から発せられた周囲の言葉で、被害者がさらに傷ついてしまうことも。「そんな社会的な価値観が、被害者に責任を負わせてきた。被害者に寄り添った社会構造に変えていくことが大事です」と山本さん。「フラワーデモが、被害者が声を上げて、その声が排斥されることなく伝わる環境になればいい」と願っています。

写真はイメージです

「暴行・脅迫」「抗拒不能」の壁

 性犯罪を巡っては、2017年に刑法が改正され、「強姦罪」が「強制性交等罪」に変わり、法定刑の下限も「懲役3年以上」から「懲役5年以上」に引き上げられました。さらに、被害者の泣き寝入りを防ぐため、強姦罪などを「親告罪(被害者などの告訴が起訴の条件となる犯罪)」とする条文が撤廃されました。

 しかし、強制性交等罪などが成立するための「抗拒不能」「暴行・脅迫」という要件は、法改正後も残されました。性暴力が犯罪と認められるには、「被害者が抵抗できない状態で犯行に及んだこと」「暴行や脅迫を用いたこと」を証明する必要がありますが、改正刑法の付則には、施行3年をめどに制度見直しを検討することを規定しているため、今、この成立要件の除外などを求める声が高まっているのです。

法改正に慎重な意見も……

 一方で、慎重な見方もあります。

 甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は「『抗拒不能』『暴行・脅迫』を性犯罪の要件から外してしまうと、加害者が犯罪性を認識しにくくなり、裁判で『(被害者が抵抗しないので)同意があったと勘違いした』という加害者の主張が認められやすくなるため、被害者にとって不利になるおそれもあります」と話しています。

 様々な立場の人たちが意見を交わし、議論を深める必要がありそうです。

(取材/読売新聞メディア局 安藤光里)

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