グランドセイコー 女性技術者が支える高級腕時計

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 セイコーウオッチ(本社・東京)の高級時計ブランド「グランドセイコー」から、女性用の新しい小型の機械式ムーブメント(駆動装置)を搭載した腕時計が、6月から販売されます。女性用として約50年ぶりに開発された、この新型ムーブメントは、男性用より一回り小さくするために、高い技術が求められたそうです。開発や製造には多数の女性技術者が参画したといいます。5月、彼女たちが働く、岩手県雫石町の工房を訪ねました。

職人の半数が女性

 盛岡市から車で20分ほど。小鳥のさえずりが聞こえる美しい林の中に、グランドセイコーの製造工場(盛岡セイコー工業)はあります。工場の2階、「雫石高級時計工房」で新型ムーブメントは作られていました。約30人の職人のうち半数は女性です。大きな作業机でそれぞれ部品の組み立てを行っています。

 盛岡セイコー工業の林義明社長は「小さいネジだと直径0.35ミリ、長さ0.5ミリ。作業は非常に精密で熟練を要します」と説明します。

 セイコーウオッチでの高級女性用機械式ムーブメントの開発は、約50年ぶり。2018年に限定モデルとして登場し、19年6月からレギュラーモデルとして一般に販売されます。工房ではまさに、販売直前の時計の組み立てが行われていました。

50年ぶりの新しい女性用機械式ムーブメント

 新型ムーブメントは、直径わずか19.4ミリ、厚さ4.49ミリ。部品の数は、238個もあります。男性用が220個ほどであるのに比べ数が多く、サイズは20~30%小さくなっています。

ムーブメントの部品を組み上げる久保田さん

 この道20年余りという久保田祐子さんも「心臓部のセットのときは、ちょっと緊張します」と話します。「細かいので顕微鏡を見ないと部品を組めません。うまくはまっていることを感覚的にわかるようになるには、まだ時間がかかりそうです」。組み立てやすくするため、久保田さんをはじめ、職人たちは、ドライバーなどの道具を自分で手直ししているそうです。

 難しい作業なだけに、久保田さんは「男性用のムーブメント以上に細かい作業なので、完成したときは感激しました。いつか自分で買うのが夢です」と、話していました。

針を取り付け、チェックをする大對さん

 組み立ての最後の工程となる針の取り付けをしていたのは、14年から工房で働く大對おおつい愛さんです。大對さんは「ジブリの映画で時計の修理のシーンがあって、時計に興味を持ち、この仕事に進みました」と話します。

 文字盤に針が触れて傷つけないよう、息をのむような作業が続きます。「最終工程なので、そこに至るいろんな人の努力があると思うと緊張しますが、やりがいがあります。出荷されるときや、店頭に並んでいるのを見たときにはうれしくなります。早く全工程に携われるようになりたい」と、夢を語ります。

見えないところにも美しさを

 50年ぶりの新型ムーブメント誕生の立役者の一人が、セイコーウオッチ商品開発部の山田さやかさんです。「今までのグランドセイコーのクオリティーを損なわないよう、欧州の著名ブランドの製品検査より厳しい水準の検査を課しています」と、性能の高さを説明します。

開発の道のりを説明するセイコーウオッチの山田さん

 近年、グランドセイコーの女性用機械式腕時計は、女性用の機械式ムーブメントはなく、男性用に開発されたものを搭載するしかありませんでした。しかし、女性の腕になじんで、フィット感を出すためには、ムーブメントそのものを薄く小さくする必要があったといいます。

 「当初は、『部品が作れない』『組み上げられない』などと、製造現場の反発は大きかったですね。一度誕生したムーブメントは何十年も作り続けることになるので、作りやすさも大切ですから、よい仕様を作り上げるのに苦労しました」と、山田さんは振り返ります。結局、主要部品を全て新しくするという、大きな決断をしたそうです。

5枚の花びらに見立てたがんぎ車(左)と、新型のムーブメント

 

 「小型軽量化しつつ、強度や性能はよりよくしたいと考え、組み立ても含め、各所に女性を配置して、女性の意見を取り入れながら開発しました」。持続時間50時間を達成し、「土日に時計を外していても、月曜日にちゃんと動くようにと、こだわったところです」と、山田さん。ほかにも、部品の一つである「がんぎ車」を花びらに見立てた形状にするなど、見えないところでも美しさを追求しています。

ステンレススチールケースのSTGK009(左)と、18金イエローゴールドのケースのSTGK004

 この新型ムーブメントを搭載したグランドセイコー・エレガンスセレクションは、ダイヤを施したものなど5種類あり、価格は56万~310万円(税別)。

 セイコーウオッチでは、腕時計の市場で、数量的には機械式からクオーツへと時代が移り変わる中で、機械式の技術保持に努めてきたそうです。「女性用を作るために、さらに技術を磨くことができました。女性用のシリーズを長く愛されるものにしていきたい」と、山田さんは話しています。

 技術の粋を集め、精緻せいちな手仕事によって生み出された腕時計はきっと、つけた人の人生に寄り添って時を刻んでくれることでしょう。

(読売新聞メディア局編集部 小坂佳子)