「子供ほしいから離婚」はアリ? 磯野貴理子さん離婚問題を考える

サンドラがみる女の生き方

 先日、テレビ番組「はやく起きた朝は…」でタレントの磯野貴理子さん(55)が、24歳年下の夫と離婚したことを明かし、離婚の理由として、夫から「自分の子供がほしい」と言われたと語りました。番組でその話を聞いていた松居直美さんは終始涙を流し、ネット上などでは「こんな離婚理由は女性として悲しすぎる」と話題になっています。昔と比べて女性が年上の「年の差カップル」もよく見られるようになった今、この展開に驚きの声があがっているわけですが、今回は海外の状況も取り上げながら「夫婦のあり方」を考えてみたいと思います。

「自分と同じ血」にこだわらないヨーロッパ人

 磯野さん元夫妻の離婚理由を聞いた時、筆者は「なんだか日本的だな」と思いました。何が日本的かって、元夫が「自分の血を分けた子供」にこだわっている、というところです。もちろんヨーロッパでも子供がほしいと考える人は多くいますが、実は「自分の血のつながっている子供」にこだわる人ばかりではなく、自国や他国から養子を迎える人もたくさんいます。

 ちなみに、養子を迎えるのは最近に始まったことではなく、かつてメルケル内閣で副首相を務めたフィリップ・レスラー氏は幼少期にベトナムからドイツの家庭に養子として迎えられています。韓国が軍事政権で経済的に豊かではなかった1970年代には、ドイツやスウェーデンなどの多くの家庭が韓国から養子を迎えています。筆者も70年代生まれですが、同世代で「血筋は韓国だけれど、ドイツ育ちのドイツ人」に会うことがよくあります。ルーマニアの独裁者、チャウシェスク大統領が中絶を禁じ、貧困に苦しむ孤児の増加が問題となった時期には、ルーマニアからの養子を受け入れるドイツ人カップルもいました。このように世界情勢によって、ドイツは様々な国から養子を受け入れてきましたが、もちろん、自国から養子を迎え入れるドイツ人も多くいます。

写真はイメージです

 このようにヨーロッパでは「子供がほしい」と考えている人は必ずしも「自分の血」にはこだわらず、既にこの世に存在する恵まれない子供の親になってあげたいと考える人も大勢いるのです。そういった背景もあり、ヨーロッパでは離婚自体は少なくないのですが、「自分の血を分けた子供ができないから」といった理由で離婚をするというのは、あまりない発想です。

結婚イコール子供を持つこと?

 最近は日本でも多様な考え方が認められるようになってきたものの、「結婚=子供を持つこと」といった昔ながらの“暗黙の了解”のような感覚もまだまだ世間には残っています。だからこそ磯野さんの元夫は「自分の子供がほしい」ことを離婚理由として挙げたのだと想像します。実際に世間では「磯野さんが、あまりにもかわいそう」という声が上がる一方で、「自分の子供がほしいと思うのは自然」という声もあるのです。

 ドイツを含むヨーロッパの場合は、前述のように養子を迎える文化もありますし、そもそも「婚姻をせずに子どもを持つ人」も少なくないので、近年は結婚というものが子供を持つことと結びつけて考えられていません。繰り返しになりますが、そんなことから、ヨーロッパ人は自分の血のつながった子供が持てないから離婚、という思考回路にはあまりならないのでした。

 日本では、結婚というものが「子供を持つ契約」だと捉えられている面もあります。もちろん、子を持てなかったら離婚という契約を本当に交わしているわけではありませんが、なんとなく「結婚=子供を持って当然」という雰囲気があるのは否定できないのではないでしょうか。

 ちなみに、「暗黙の了解」よりも本物の契約を好む人が多いドイツでは、婚姻の際に「元々独身時代に互いが持っていた資産に関しては、結婚後も各個人のものであることを確認する婚前契約書」を交わすカップルが多くいます。これは、日本ではあまり見られない傾向です。そんなこんなで、日本の場合の「結婚=子供を持つ」という思考は、契約を交わしたわけではなくても、代々続いた世間の「暗黙の何か」を当然と見なした結果だといえるのではないでしょうか。

 ところで、自分の血を分けた子供が持てない理由は、今回の磯野さんのように女性の年齢によるものだけではありません。性別や年齢とは関係なく、不妊となるケースもあります。日本では不妊にまつわることの多くが、女性側と関連づけて語られがちですが、いうまでもなく不妊の原因が男性側にある場合もあるので、正確な情報の発信がもっと増えるといいなと、筆者は秘かに思っていたりします。

仏大統領は夫人が25歳年上

 ヨーロッパで、女性が年上の有名な「年の差カップル」といえば、夫人が25歳年上であるマクロン仏大統領がよく話題になります。立場の面でも文化の面でも、磯野さんとは違うので、一概に比較することははばかられますが、マクロン夫妻について、ヨーロッパで「二人は子供を持てない」ということにスポットが当たったことはありません。ブリジット夫人には前夫との間に3人の成人した子供がいますが、マクロン大統領はこの3人と仲が良いことで知られており、大統領が「自分の血を分けた子供がほしい」と考えているといった話は特に聞こえてきません。

フランスのマクロン大統領とブリジット夫人(ロイター)

 そうはいっても今後、何が起きるのかは分からないのが男女関係というものですが、特筆すべきは、ヨーロッパの社会は、「子供がほしいから若い女性と結婚したい」だとか「子供がほしいから、子供の産めない妻とは離婚する」というような発言を許さない傾向があるということです。

 日本では「欧米人は自分の思っていることを直球で言う」といった印象を持たれていますが、このテーマに限っては、たとえそう思っていたとしても、口に出すことは社会的にも許されないというわけです。なので、日本でも非難の対象にはなっているものの、「子供がほしいから、相手の年齢を考えて云々うんぬん…」だとか「子供がほしいから別れたい」と言ってしまえるのは、いろんな意味で「日本ならでは」なのかもしれません。

 ヨーロッパのカップルは、別れたり離婚をしたりということは日本以上に多いのですが、「血のつながった子供」にこだわる人が日本よりも少ないというのは断言できるでしょう。日本ではしばしば、「夫はいらないけど子供はほしい」といった女性の意見や、「娘には結婚しないとしてもぜひ子供は持ってほしい」といった冗談交じりの親世代の意見を時折聞きますが、ヨーロッパでは、子供のことよりも、まずパートナーとの関係を優先的に考える傾向があるため、「パートナーのことは眼中になく、子供を持つことしか眼中にない」と思われるような意見は、厳しい目で見られがちです。ただ、これはあくまでも傾向であって、結局はもちろん「どの国にもいろんな人がいる」というのが正しいのですが。

 最後になりましたが、磯野さんの元夫が挙げた離婚理由について、筆者は「最後は意外と保守的な理由を挙げて離婚を切り出すんだな……」という印象を持ちました。いろんな形の夫婦がいて、それに伴っていろんな形の別れもあるわけですが、今回の件は「夫婦のあり方」について、あらためていろいろ考えさせられました。

サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

 ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住20年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ」(ヒラマツオ共著/メディアファクトリー)、「爆笑! クールジャパン」(片桐了共著/アスコム)、「満員電車は観光地!?」「男の価値は年収より「お尻」!?ドイツ人のびっくり恋愛事情」(ともに流水りんこ共著/KKベストセラーズ)など。
 「ハーフを考えよう!」http://half-sandra.com/