母にゲイをカミングアウトしたほうがいい?

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 「自分を偽りたくない」「本当の自分を知ってほしい」と思っているのに、家族に伝えられず悩んでいる人がいます。とくに性的少数者にとって、自分の性的指向や生き方について、家族に打ち明けるかどうかは重い課題のようです。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、20代の男性から「母にゲイだとカミングアウトしたい」という投稿がありました。様々な立場の人たちが自分自身の体験も交えて、アドバイスをしています。

母親に嘘をつく罪悪感

 トピ主の「カイン」さんは、地方で暮らす20代の会社員。父親は生まれる前に亡くなり、母一人子一人で育ちました。10歳のころ、自分が同性愛者だと気づいたそうです。

 今も実家から会社に通っている「カイン」さん。母親から「いつになったら孫を見せてくれるの?」「彼女は?」などと聞かれるたびに、嘘をつく罪悪感にさいなまれているそうです。大学時代からつきあっている2歳年上の男性から同棲どうせいを持ちかけられたのを機に、自分がゲイだということを母親に打ち明ける決心をしました。

 しかし、なかなか実行できません。「母はホモフォビア(同性愛者に対して否定的な価値観を持つこと)です。どうすれば分かってもらえるか、そもそもカミングアウトすべきではないのか。みなさんの意見を聞かせてください」と投稿してきました。

ゆっくり、ゆっくり時間をかけて

 この投稿に対し、様々な意見が寄せられました。カミングアウトに対しては、否定的な意見が目立ちました。

 「お母さんには『大学の先輩と同居する』でいいと思う。嫁をもらい孫をみせてくれると信じている母親にわざわざ言う必要もないと思う。老人に今まで生きて見てきたことを否定する必要ない。世の中に独身の人はたくさんいるし、カインさんの本心を誰も追及なんてしないよ。答えたくなければ、言わなくていいし、誰も困らない」(「himawari」さん)

 「今カミングアウトしても、あなたの気持ちは楽になるかもしれないけど、お母様はショックを受けるだけ。母親が大事だと思うなら、温泉から水風呂にたたき落とすような真似はしちゃいけません」(「うーこ」さん)などです。

 息子を持つ母親の立場からの意見もありました。

 下宿中の大学生の息子がいるという「kiriku」さんは、「カインさんのお母様とは境遇も考え方も全く違いますが、愛する息子がこのように苦しみ悩んでいるのなら、いたたまれないと思います」とつづりました。まずは独り立ちをして、自身の生活基盤をしっかりさせたあとで、「(お母様の)ダメージを受け止める自信ができたら、カミングアウトすればいいと思います。もちろんしなくてもいいと思いますよ。母親にとって息子が幸せに過ごしてくれたらいいという気持ちに尽きると思う」とエールを送ります。

 自分の息子がゲイであると気づいているという「わんこ」さんは、「お母さんは何となく、気付いているのではないでしょうか?子供って、どんなことであれ、隠しているつもりでも親はよ~く見ています。ただ、それを認めるかどうかはまた別問題。お母さん自身が認められずに悩んでいる可能性もあります」と指摘します。その上で、「お母さんを傷付けないで。自分を引き裂かれたようになっちゃうかもしれないから。否定された気分にさせちゃダメです。多少の優しいウソもあり。ゆっくりゆっくり時間をかけて『もしかしてだけど、うすうす気付いていたんじゃないかと思うんだけどね…』って切り出してみてください」とアドバイスします。

うっちーさんに聞いてみた

 自分がゲイであることを墓場まで持っていくと考えていたのに、ツイッターがきっかけで母親に知られてしまった男性がいます。東京都内の大手企業に勤務するうっちーさん(34)。2011年から、ツイッターで自らのゲイライフを赤裸々につづっています。ある日、うっちーさんのツイッターアカウントを見つけた母親から、「ツイッター楽しそうだね」とメールが来たそうです。うっちーさんと母親は、その後、メールで頻繁にやりとりを続け、ユーモアにあふれる内容はネットで話題になり、14年に書籍「84年製ゲイうっちーと母・みちよのメールが面白すぎる件」(宝島社)として出版されました。

インタビューに答えるうっちーさん(読売新聞東京本社で)

 うっちーさんに、家族へのカミングアウトについて聞いてみました。

――うっちーさんは、ツイッターがきっかけで母親にゲイであることがバレてしまったんですね。

 自分から母に「ボクはゲイです」と伝えたことはありません。ツイッターでゲイっぽい内容を発信していたら、ある日、母から「ツイッター楽しそうだね」っていうメールが届いたんです。もう、そのときは、とにかくビックリして、体がポッポして、どうしようって思って……。あわてて過去のツイートを見返してみたり、削除したりしましたが、後の祭りでした。

――でも、お母さんはうっちーさんがゲイであることに理解を示されたんですね。

 そのツイッターがばれてからも、母に「ボクがゲイであることをどう思います?」なんて聞いたことはありません。でも、それ以来、母からのメールが増えた気がします。母は、テレビのお笑いタレントや若い子の流行に詳しくて、そんなことをネタにしつこく送ってきます。うっとうしく思うこともあるけれど、愛情表現の一つだととらえています。だから、そっちがいじってくるなら、応じてやろうくらいの気持ちで、やりとりを続けています。

うっちーと母みちよさんのやりとり

厳格な父親には知らせない

――ゲイであることは家族に隠しておきたかったんですね?

 母とのやりとりが書籍化されると決まったときはすっごく悩みました。母と弟に相談はしたんですが、結局、父親には話していません。昭和の厳格なオヤジっていう感じだから、知らせないほうがいいと思ったんです。そもそも、自分がゲイであることは、家族には言わず、墓場まで持っていくのが親孝行という考えでしたから。

――「どうして結婚しないの?」などと聞かれて悩む場合もあるようです。

 「結婚しないの?」とか「彼女いるの?」なんて聞かれるのは、お年頃になれば、だれでもあることです。その場しのぎで適当に答えたり、ちっちゃな嘘を重ねたりすることになるけれど、家族や友人の関係性を大事にしようと思うなら、それも仕方のないことだと思います。そんなことを深刻にとらえて、罪悪感を覚える必要なんてないんじゃないのかな。

――カミングアウトについては、賛否いろいろな意見が寄せられました。

 若いゲイの子たちからカミングアウトについて相談を受けることがあります。「大事なのは、そのカミングアウトが自分のためなのか、親のためなのか。親のために言うんだったらアリだと思う。でも、自分が早く楽になりたい、自分を認めてほしいということなら、ちょっと待って」って言うようにしています。もちろん、ゲイに理解のある親もいます。でも、地域によっては、世間体を気にしなきゃいけない場合もあるし、周囲から「あの家の子、ゲイなんですって」なんて家族が指さされるようなことになったら、いたたまれないですよね。カミングアウトして、親子関係がギクシャクしちゃったケースもあるので、あせらないほうがいいと思います。

うっちーさん(読売新聞東京本社で)

ちょっと承認欲求が過ぎる

――本を出版して、ゲイであることが広く知られたわけですが、周囲の反応はどうでしたか。

 直接悪く言う人はいませんでした。でも、ネットのレビューに心無いことを書き込まれたり、実家や出版社に嫌がらせの電話があったりもしました。最近は同性愛に対して社会が寛容になってきていると思うけれど、嫌悪感を抱く人がゼロじゃないって改めて気づかされました。そんなことがあって、気持ちが落ち込んでいたら、母から突然こんなことを言われました。「いろんな人が、いろんなことを言ってくると思うけれど、あなたは、あなたのやりたいことを、やりたいように、やりなさい」って。ほんっと、いいお母さんでしょ(笑)。

――信頼している友人や同僚には、知ってもらいたいと考える人もいるかもしれません。

 うーん、そもそも、自分がゲイであるかどうかなんて、言う必要あるのかなって思っちゃいます。会社で働くのに、セクシュアリティーなんて関係ないし、友人同士だって、それを言うメリットなんてないと思います。「本当の自分を知ってほしい」とか「自分をちゃんと認めて」って言うのは、ちょっと承認欲求が過ぎるんじゃないかな。ボクは「ゲイであることはどうでも良くて、うっちーと仲良くしたい」と言ってもらえるので、周囲に恵まれたんだと思います。

――カミングアウトされた側が戸惑ってしまうということもあると思います。

 多くのゲイの人たちは、普通にスーツを着て会社で働き、普通に社会生活を送っている人たちばかりです。会社に「あの人、そうかも」なんて思う人がいるかもしれないけれど、いちいち個人の性的指向を言う必要なんてないでしょ。だから、基本的には温かい目で、放っておいてあげてほしい。ゲイだとカミングアウトされて、戸惑っちゃうっていう人もいると思います。でも、たとえ理解できないからって、自分を責めたり、相手をとがめたりするんじゃなくて、やっぱり、理解をするには、ある程度時間が必要なんだと思います。ゲイに限らず、そもそも、他人を理解するのって、すごく難しいことなんですから。

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 大切な家族や友人だからこそ、「本当の自分」を知ってもらいたいと思うのでしょうが、相手の立場や気持ちをないがしろにしては、独りよがりになりかねません。自分の気持ちと相手の気持ちの両方を尊重できるようになるまで、カミングアウトのタイミングは慎重に考えたほうがいいのかもしれません。

(取材/読売新聞メディア局 鈴木幸大 撮影/遠山留美)

【紹介したトピ】

母にゲイだとカミングアウトしたい

うっちー

1984年7月生まれ。都内の某大手企業に勤める会社員のかたわら、渋谷のゲイバーで働いていることも。母親とのメールのやりとりをまとめた書籍「84年製ゲイうっちーと母・みちよのメールが面白すぎる件」(宝島社、税抜き980円)が話題に。フォロワーが10万人を超えるツイッター(@saso_______unko)や、インスタグラム(instagram.com/saso_unko/)で女優がインタビューを受ける様子をまねた「女優シリーズ」や、口パクでカラオケをする「口パクコンサートシリーズ」などが人気。