社会貢献に取り組み、同世代に夢と勇気を与えている若者に贈られる「第10回若者力大賞」(主催・日本ユースリーダー協会)に、介護向け人材教育会社「Join for Kaigo(ジョイン・フォー・カイゴ)」の代表・秋本可愛さん(28)が選ばれました。介護の分野の次世代リーダーを増やそうと奮闘している秋本さんに、受賞の喜びやこれまでの歩みについて聞きました。
大賞受賞「信じられない」
歌手・MISIA(ミーシャ)さんやニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手、モデル・道端ジェシカさんら、各界の著名人が歴代受賞者に名を連ねる若者力大賞。記念すべき第10回の受賞者となった秋本さんは「本当に私が選ばれたのかと、信じられませんでした」と言って笑います。

秋本さんは2013年にジョイン・フォー・カイゴを設立。事業所向けの採用支援セミナーの開催や人材育成のためのコンサルティングなどを手掛けています。また、起業と同時に、介護に志を持つ若手のコミュニティー「HEISEI KAIGO LEADERS(ヘイセイ・カイゴ・リーダーズ)」を立ち上げました。「介護から人の可能性に挑む」を合言葉に、様々な分野の第一人者を講師に招いたグループディスカッションや、参加者同士で実現したい事業などを考えるプログラムなどを開催し、介護の現場を支えるリーダーの育成に力を注いでいます。
きっかけはデイサービスのアルバイト
そんな秋本さんですが、元々は「介護への関心は全くなかった」と振り返ります。秋本さんの人生が大きく変わったのは、大学生の時。サークル活動の一環として、介護のデイサービスのアルバイトを始めたことがきっかけでした。
根気強く話しかけるうちに会話ができるようになった認知症のお年寄りや、入居者のために全力を尽くす介護職員の姿を見て「介護は、お年寄りのお世話をするのではなく、最後に豊かな人生を送れるよう一緒に考えていく仕事。すばらしい仕事だと気づいたんです」。

一方で、仕事と介護の両立に悩む家族の姿や、厳しい労働環境のために職員の離職率が高いことなど、深刻な現状も目の当たりにしました。同年代の人たちの介護分野への関心の薄さにも危機感を覚え、卒業後、すぐに起業したのです。
起業して1年ほどは「今のまま続けて何か役に立てるのか……」と思い悩んだ時期もあったそうです。それでも、コミュニティの活動を重ねるなかで、参加者たちが介護の現場で生き生きと働くようになった姿に手ごたえを感じるように。今では、コミュニティーの参加者は3000人を超え、職員の1年間の離職率ゼロを達成した施設長や、地域住民が気軽に相談できる「暮らしの保健室」を開設した理学療法士など、約140人が新しいプロジェクトを起こしています。
平成生まれが介護の中心に
「平成生まれの私たちはもう『次世代』ではなく、これからの介護領域を担っていく中心的存在になる」との覚悟を込めて、昨年、コミュニティ―名を「KAIGO LEADERS(カイゴ・リーダーズ)」に改名しました。20年までに全国8か所に拠点を構築することを目指して、新たに大阪や名古屋などに展開。今年中に、全国の人がいつでも参加できるよう、オンラインコミュニティーも開設する予定です。

都内でこのほど行われた若者力大賞の表彰式のスピーチで、秋本さんは訴えました。「受賞はこれまでの成果に対するものではなく、これからへのエール。これからの介護は、私たちのように介護領域のプレーヤーだけでなく、本当に多くの人たちの力を借りながら支えていく必要があります」
厚生労働省の調査によると、25年度には団塊の世代全員が75歳以上になり、約34万人の介護人材が足りなくなるなど、今後ますます人手不足が深刻化することが予想されています。
秋本さんは「介護への思いを持っている人は、未来の希望です。目標は、25年までに介護リーダーを1万人に増やすことですが、最終的には、志を持った若い人たちが活躍できる社会を作りたいです」と力を込めて話していました。
(取材・読売新聞メディア局編集部 安藤光里)