どんな言葉にも「お」を付けるって、どう?

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 「お砂糖」「お醤油しょうゆ」「お布団」「お風呂」「お電話」など、私たちは日常の会話の中で何げなく、単語の上に「お」を付けて話すことが少なくありません。ところが、職場などで「お」の付く言葉を多用すると、相手に意味が通じにくかったり、違和感を覚えさせたりするケースがあるようです。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、「仕事場で言葉に“お”を付ける人がいて違和感」という投稿がありました。春は、新しい出会いが増える季節。言葉遣いではどんな点に気をつけたらいいのでしょうか。

 トピ主の「おみおつけ」さんは、仕事場でどんな言葉にも「お」を付ける同僚に違和感を覚えたそうです。「お玄関」ならまだしも、「おいえ(家)」「おれんらく(連絡)」「おじみ(地味)」と発したときに、「他の人からは聞いたことがない」と思い、似たような経験があるかどうかを発言小町で尋ねました。

 ハンドルネーム「りりかな」さんの場合、会社の採用面接で会社概要を説明していたところ、「素晴らしいお会社ですね」と言った採用候補者がいたそうです。「そのまま落としました」と書き込みました。

 「にゃる」さんは「『おビール』、『おタバコ』が苦手です。あと、コスメのクチコミなどで『おしな』『お色』とあると気持ち悪っ!と思います」という意見を寄せてくれました。年齢層が高めのスポーツクラブに通う「しましま」さんは、スタッフから「お痛みはありますか?」と声をかけられるたびに、違和感を抱くそうです。

 「幼児に文字を教えている友人が、『マルをかく』の『マル』に『お』をつけて『おマル』と言っていました」とコメントしたのは「いとう」さん。「『お地味』は『あの人ちょっとお地味じゃない?』(悪口系)、または『私お地味顔だから~』(自虐系)以外には、普通には使わないかな」(「torarato」さん)という意見もありました。

 「『お』を付けると柔らかい感じになることもあれば、明らかに変な感じになることもあります。パン教室に通っていた頃に『お手にお粉をつけて、丁寧におねになって……』。先生の言葉が頭に入ってきませんでした」と振り返るのは「キジトラ」さん。「大阪人」さんは「何でもかんでも『お』をつけときゃ丁寧だろうと思ってる人は多いですよ。その考え方自体が失礼だと気付け、と思います」と強調しています。

相手と距離をとることの効果と逆効果

 信州大学教授(日本語学)の山田健三さんに話を聞きました。山田さんは、教え子の奥瀬真紀さんと共同で、「敬語接頭辞『オ/ゴ(御)』の使い分け原理試論」という論文を著しました。この論文はインターネット上の信州大学・学術情報オンラインシステムSOARで公開されています。

 山田さんは、「現代日本語の生成システムでは、原則、接頭辞の『お』をあらゆる言葉に付けることができます。ただし、どの言葉に『お』を付けるか付けないかは、その人や周囲の人の言語環境次第。一概に自分の基準で“誤用”と決めつけたり、押しつけたりするのはいかがなものかと思います」と話します。

 山田さんによると、例えば、「おビール」「おタバコ」などの言い回しは、大事な人・お客さんがのむ「ビール」や「タバコ」に、「お」を付けることで、相手との距離を微妙にとり、「相手に直接触れない(=相手を大事にしている、土足で入り込まない、丁寧に扱っている)」というムードを伝える効果が生み出されています。

 しかし、この効果は、相手によっては、距離をとられることから「親しみを感じない(=お高くとまっている、バカにされている)」といった逆効果を生むこともあるそうです。「お地味」が悪口・自虐表現として使われるのも、また、何でも「お」を付ければ丁寧だと思う考え方自体が失礼と感じるのも、この効果があるからで、相手との関係次第・場面次第で「丁寧」にも「無礼」にもなるのだそうです。

 「私たちは必ずしも均一的な言語社会環境に属しているわけではありません。地域差や年代差、性差、職業差、ほかにも、様々なグループへの帰属意識や価値観の違いに基づく集団差が社会には存在します。同じ集団帰属意識のある人同士であれば分かり合える感覚も、異なる集団帰属意識を持っている人には通じにくい。これが“違和感”の正体だと思います」と山田さん。

「お」は自分に関することにも使える

 ハンドルネーム「秋晴れ」さんからは、「『お誕生日おめでとう』とは言いますが、よく自分の誕生日のことも『私のお誕生日に』と言う人。同様に『お友達』も相手の友達のことを指すなら良いですが、『私のお友達が』という言い方に違和感をおぼえます」という意見もありました。

 山田さんは、「『お』が付く言葉は、距離を置くという意味では、相手に関するものが多くなります。でも、『お国のために頑張りましょう』という言い方があったように、自分が属するものであっても、使うことはできます」と指摘します。

 「お国」の場合は、「お」を付けることによって、話し手との間に距離が置かれ、結果として自分(たち)に関するものであっても、大事に扱わなくてはならない存在(=たたえるべき存在)というムードを強く醸し出します。「お父さん」「お母さん」もこうした使い方の一つだそうです。

 「『私のお誕生日』という言い方をされる方は、通過儀礼として誕生日を特に大事に考える社会集団(家族・親族)の中で育った方なのかもしれません。それ自体が悪いことではありません」と山田さん。

場面によって使い分けが必要

 ただし、ビジネスの現場などで、身内の呼び方として「お父さん」「お母さん」と自分の親を呼んでしまうのはどうでしょうか。

「自分の両親を『お父さん』『お母さん』と呼び、“大事に扱わなくてはならない存在”であることが(建前であったとしても)了解されているのは、あくまで自分の家族集団の中での話。ビジネス集団に移動した時は、ビジネスの相手との距離感に応じた言葉選びが必要です」と山田さん。

 家族集団で通用していた言葉をビジネスの場面でうっかりそのまま使ってしまうと、「あいつはファザコン、マザコンか?」「社会常識(=ビジネス社会での距離のとり方、コミュニケーションの方法)を知らない」などと相手に思われてしまう可能性があるそうです。

 「私たちは様々な集団に属しているので、場面に応じて、それぞれに相手との距離感をはかりながら、適切な言葉を選ぶことが暗黙のうちに求められています」。言葉はTPOに合わせて、使うことが肝要ということなのでしょう。

 ハンドルネーム「ksadl」さんからは、「(私は)自分が買ったみかんにはわざわざ『お』をつけませんが、みかんを誰かからいただいたときは『まぁ、おいしそうなおみかん、ありがとうございます』と『お』をあえて付けることがあります」という経験談も寄せられました。感謝の気持ちを強く表現するために、「お」を積極的に取り入れるケースもあるようです。

「おみかん」と「みかん」。場面で使い分ける人も(写真はイメージ)

 日本語は難しいですね。聞き慣れない「お」の用法があったら、イラッとするのでなく、立ち止まって、“違和感の正体”を考えてみるのも楽しいかもしれません。

(読売新聞メディア局編集部・永原香代子)

【紹介した投稿】
“お”を付けることに違和感 みなさんはどうですか?