日本と同じ? 韓国女性が感じる「働きにくさ」

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 女性の社会進出が遅れている国のワースト争いをしている日本と韓国。男女格差の度合いを示す世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数2018」を見ても、日本は110位で、G7(先進7か国)の中で最下位。韓国はこれをさらに下回る115位と“低空飛行”を続けています。こうした男性優位の韓国社会の中で、高級ホテル「ヒルトン釜山」の開設に当たり、現在、副総支配人を務めているのが、アン・カン(Ann Kang)さんです。このほど来日したアンさんに、韓国社会での女性の生きにくさや、女性のキャリアアップを阻む「ガラスの天井」を打ち破るには何が必要なのかを聞きました。

「女性は結婚したら仕事をやめる」根強い韓国

――日本と同様に、韓国も女性の社会進出で出遅れている傾向があります。特に管理職に就く女性の割合が低いと聞きますが、働いていて女性の働きにくさを感じることはありますか?

 毎日感じています。上司はみんな男性という中で過ごしてきましたから。優秀な女性の場合、国内に残らず、他国に出る選択をする人も多く見てきました。特に私の関わってきたホテル業界では、女性で管理職に就いている人はとても少ないです。私がヒルトン釜山に入り、一番喜んでくれたのは女性スタッフでした。「既婚女性が上司になってくれた。しかも妊娠してくれた」と。今、私は妊娠7か月ですが、産んでももちろん仕事を続けるつもりですし、2人目も授かれたらうれしいと思っています。

 韓国の社会では、まだまだ「女性は結婚したら仕事を辞めてしまう」という意識が根強く残っていて、女性側にもそれをよしとする人が多い。何かあれば「結婚して逃げられる」と。だから、私みたいなタイプはまだまれで、帰国子女ということもあって、「あの人の中身は外国人だから」と言われることもありました。でも気にしません。私を見て、「女でも仕事を頑張れるんだ」と励みにしてくれる女性がいたらうれしいことですから。

――アンさん自身も海外のホテルで働いてから韓国に戻りました。再就職の会社選びで気をつけたことはありますか?

 私のキャリアのスタートは韓国のホテルだったのですが、その後、東京をはじめ、ドバイ、中国と、さまざまなホテルで働いてきました。いろいろなところでキャリアを積みたいと思ったからです。韓国に戻ることになって、まず初めに再就職先として考えたのが“新しくできたところ”でした。古くからあるところは古いやり方を変えないでしょうし、女性が上を目指せる環境は望めないと思ったからです。実際、私が韓国で働いていた時に同じホテル業界で働いていた女性の中には、いまだに今の私よりも下の立場にとどめられている人もいます。

――なぜ、ヒルトングループで働こうと思ったのでしょうか?

 以前、ヒルトングループの「コンラッド東京」(東京都港区)で働いた経験がありました。お世話になったヒルトングループに「釜山にホテルを立ち上げるから来ないか」と言われて、すぐに心が決まりました。各国のホテルで働いてきましたが、ヒルトンは「女性だから」という理由でキャリアを阻まれることが少なかったように感じていました。仕事と生活との両立などについて、よく耳を傾けてくれる上司が身近にいるので助かります。そういう人が一人いるだけで、働き続ける気持ちも保ちやすいですからね。

正しいと思うことを貫く

――現場に入ってすぐの頃は難しいこともあったとうかがいました。具体的にどのようなことだったのでしょうか。

 私が上司になって、煙たいと思う人もいたと思います。特に、韓国のホテル業界で働いてきた人は、やりづらさを感じたのではないでしょうか。まず衝突したのが、ミーティングの仕方です。私は2歳から親の仕事の関係で海外で生活し、高校で韓国に戻り、大学を卒業後に再び海外に出て、ロンドンの大学院に行きましたから、韓国語の敬語表現が少し苦手なのです。大事な話をする時に失礼になってはいけないし、従業員の英語力強化にもつながるのではと、部内のミーティングは英語ですることを提案しました。すると、すごく反発されました。でも、気にせずにやり通しました。新しいことをする時に反発が起きるのはありがちなことですからね。今はもう英語ミーティングが定着しています。

――ほかにはどんなことが?

 有給休暇を取る順番の変更です。韓国のホテル業界では、年の初めにだいたい先輩の従業員が先に有給希望日を出して、若手は余っている日の中から取るのが慣例でした。私はこれを廃止しました。年齢に関係なく、一斉に希望日を出してもらい、そこから話し合うスタイルにしたのです。これも恐らく、これまでのスタイルに慣れている人などはあまりよく思わなかったでしょう。でも、誰もが休みをきちんと取ることは必要ですし、休みがきちんと取れることはモチベーションにもつながります。正しいと思うことを貫くのが大切だと思います。

いい人と思われる必要はない

――そうは言うものの、周りによく思われないのは嫌だなと思ってしまいそうですが 。

 私たちは、人によく思われたくて仕事をしているわけではないですよね。人気を得るために仕事をしているのではなくて、結果を出すために仕事をしているのですから。みんなにいい顔をして、いい人だと思われる必要はないと思います。英語で「彼女はナイスだ」という褒め言葉がありますが、私は「ナイス」と言われるよりも「彼女のことをリスペクトしている」と言われたほうがうれしいです。

夢は働く力の源に

――アンさんは、コンラッド東京で日本の女性と働いてみて、感じたことはありますか?

 私が働いていたのは10年前ですが、当時は夢のある人が少ないなと思いました。「仕事でこんなふうになりたい」とか「会社をこうしたい」といったような大きな夢でもいいし、「今度の休暇はこれをしたい」といった小さな夢でもいいのです。夢を持つことは働く力の源になります。夢がないと、辞めたくなる。だから、もっと夢を持ったほうがいいと思いました。この点は韓国の女性にも言えるものの、日本の女性のほうが夢を抱く意識が弱いように感じました。

 女性だけではありません。ある時、韓国のトップメーカーの方2人と、日本の同業メーカーの方が同席したことがありました。3人とも男性でした。韓国メーカーの男性が「世界のトップを目指す」と言うと、「いや、それはうちがなるよ」と互いに話している中、日本のメーカーの人は「うちはずっと3位を守れるならば、それでいいよ」と話していたのです。だから、女性だからということでもないかもしれません。

――日本と韓国は地理的にも近く、文化的にも似ていますが、どこに違いがあるのでしょうか。

 これはあくまでも私の分析ですが、歴史的な背景もあると思います。韓国よりも日本の方がやや早めに経済力を高めました。韓国の場合、私たちの親の世代の中には貧しい生活をしてきた人も多くいて、必死で働いて今の地位を築きました。その記憶がまだ色濃く残っています。

 一方で、少し先を行っていた日本では、親世代ですでに社会が成熟していたこともあり、その子どもの世代に当たる今の20~30代には、ハングリー精神のようなものが薄まっているのではないでしょうか。

産んでも辞めずに働く

――社会進出の点で、先進国でワーストを走る日韓の女性が「ガラスの天井」を壊すために必要なことはなんだと思われますか?

 子どもを産んでも辞めずに働くことだと思います。専業主婦の母親だけ見て育った子どもには、その光景がスタンダードとして植えつけられます。働くお母さんがマジョリティーになれば、ワーママというのは特殊な状況ではなくなりますから。そのライフスタイルを見た子は、男女ともに働きながら子どもを育てる状況を描きやすい。自らがお手本となり、見せていくことだと思います。

 私の夫はアメリカ人なので、それができていますが、もし韓国人男性と結婚していたら、自分もできていなかったかもしれません。とにかく、夢を持ってあきらめずに働き続けることが一番大切だと思います。
(聞き手・フリーランス記者 宮本さおり)

アン・カン(Ann Kang)

  韓国生まれ。幼少期から中学までをアメリカで過ごし、高校生で韓国に帰国。韓国の大学を卒業後、ロンドンの大学院でMBA(経営学修士)を取得。2002年に韓国のホテルに就職したのをきっかけに、ホテル業界でのキャリアを伸ばす。「コンラッド東京」「ハイアットリージェンシードバイ」「リッツカールトンホテル シンセン」など、各国のラグジュアリーホテルでセールス&マーケティングディレクターやセールス・マネジャーなどを歴任。2017年より現職。まもなく第1子を出産予定。