働く妊婦に安心の環境を

妊娠と仕事

写真はイメージです

 働く妊婦を守る制度があるのになぜ、無理を重ね、母子ともに危険な状態に陥ったり、退職を余儀なくされたりする妊婦が後を絶たないのか。制度に欠けている視点は何なのか。自分で身を守る方法はあるのか。専門家に尋ねた。

妊娠中 働くペース7割に

日本医科大教授 中井 章人さん 

なかい・あきひと 日本医科大多摩永山病院長、日本産婦人科医会常務理事、日本早産学会代表も務める。労働が出産に与える影響などについて研究している。

 多くの妊婦が、流産や早産を防ぐため、副作用もある薬を飲みながら働き、胎児に悪影響を及ぼす可能性がある長時間労働や深夜労働をしています。

 1人で泊まりがけの出張に行ったり、立ちっぱなしで力仕事をしたり、危険なサインである、規則的なおなかの張りや出血があっても、仕事のために、すぐに医療機関を受診することができない人がいます。いずれも医学的には論外です。

 妊娠中のトラブルに、最も効果的な治療は安静です。薬を飲むことではありません。それなのに、医師が安静の指示を出しても、仕事を理由に安静にできない、しないケースも少なくありません。「会社は休めないので薬をください」といって、電車に乗って仕事に向かう妊婦がいますが、困った話です。

 「妊娠は病気ではない」とも言われますが、妊娠中に切迫流産と診断されれば、それは立派な病気で、きちんとした治療や療養が必要です。そのことを企業にも、妊婦にも意識してもらいたいですね。

 母親が無理をすることで深刻な影響を受けるのは、新しい命です。一般に妊婦が疲労をためたり、強いストレスを感じたりすると、胎児にも影響します。おなかの中の居心地が悪くなれば、胎児は外に出ようとし、流産や早産につながる恐れがあります。

 妊娠したら当たり前に赤ちゃんが無事生まれるかのように思われがちですが、無事に生まれるのは85%程度と言われています。妊娠中は、母体の血液量が増え、心臓などに負担がかかります。高血圧や糖尿病などの合併症の危険も高まります。

 妊娠している期間はそれほど長いわけではありません。働くペースを普段の7割程度に抑えれば、多くの人がトラブルなく出産まで働けるでしょう。短時間勤務や時差出勤、体に負担の少ない仕事への配置転換などは、トラブルを避けるのに有効です。

 どのようにして妊婦と、生まれてくる命を守るか。社会全体で真剣に考える必要があると思います。

妊婦守る法律 明確化を

社会保険労務士 磯 優子さん 

こいそ・ゆうこ OURS小磯社会保険労務士法人代表。企業の労務管理を手がけている。妊娠・出産・育児の手続きに関する著書が多数ある。

 企業から労務管理についての相談にのっていますが、ここ数年、妊娠中の従業員への対応に関する相談が増えました。活躍する女性が増えたことで、初めて職場に妊婦が出て、対応に悩む中小企業も少なくありません。法制度への理解不足で、体調不良の妊婦に不適切な対応をしてしまう例もあります。

 妊婦への職場の理解が進んでいないことは、妊娠中の従業員からみれば、深刻な問題です。

 医師から、赤ちゃんを守るために「通勤ラッシュを避け、時差出勤をするように」「勤務時間の短縮をするように」などと言われても、実際に、会社に言える人は限られます。要望を出せても、会社から「前例がない」などと言われると、我慢してしまうこともあります。無理を重ねた結果、母子が危険な状態に陥り、退職してしまうケースは後を絶ちません。

 職場での理解や対応が遅れがちなのは、妊婦を守る法律の定めがあいまいで、分かりにくいためだと思います。

 育児介護休業法は、出産から育児までに必要な雇用主の義務や配慮を網羅していますが、この法律には基本的に妊娠中は含まれていません。

 その結果、例えば、短時間勤務について、育児中は同法で「制度を設けること」としているのに、妊娠中については、男女雇用機会均等法の指針で「医師から指示があった場合に対応すること」などと、あいまいな印象です。

 妊婦を守る法律は、労働基準法や男女雇用機会均等法など複数にまたがっています。このことも分かりにくさを生んでいる面は否めません。

 ただ、最近は、少しずつですが、妊婦への理解も進んでいる気はします。女性の社会進出が進み、「妊娠し、産んで育てながら働く」ことを当たり前とも言える状況になってきたことが影響しているためでしょう。

 育児の前には必ず妊娠があります。活躍する女性を後押しするためにも、妊娠時から適切な配慮が行き届くよう分かりやすく法律を見直していくべきです。

(聞き手・読売新聞社会保障部・大広悠子)

【ご意見・体験談を募集】

 妊娠中、体調が悪いのになぜ多くの女性が無理をして働き続けるのでしょうか。職場の人手が不足していることや、出産後と比べて妊婦を守る安全網が手薄な点など、様々な事情が妊婦を追いつめています。特に、深刻なのが、派遣社員やパート、アルバイト、フリーランスで働く女性たち。「頻繁に休むようでは、契約更新できない」などと言われることもあるようです。読売新聞は、正社員はもちろん、非正規やフリーランスで働く女性の妊娠中の働き方について取材を進めていきます。あなたの体験談やご意見、ご感想をメールでお寄せ下さい。メールはこちら ansin@yomiuri.com(読売新聞社会保障部)へ。

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