仲間に会ってお酒が飲める ヘアサロンが社交場に 

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ビールを飲みながら髪を整えてもらえるティーラック。自然と笑みがこぼれ、会話も盛り上がる(東京都内で)

 同じ地域の人や共通の趣味を持つ仲間が集まる、社交場のようなヘアサロンが目立っている。競争激化の中、固定客をつなぎとめたい店と、他人とのつながりを求める利用客のニーズがうまく結びついているようだ。

趣味共通の客つなぐ

 「おいしかった」「また飲みに来てよね」。多くの若者たちでにぎわう東京・下北沢のサロン「ティーラック」では、ちょっと変わった会話が当たり前になっている。

 2016年にオープンした同店は、客が髪を整えてもらいながら、数種類ある世界のビールを1本500円で楽しめる。職場が近い女性会社員(23)は、ビール瓶を手に「珍しいビールを飲めて、居心地もいい。終わった後に3時間も長居して、他のお客さんとおしゃべりしたこともあります」と話す。

 酒類販売の免許を取得しており、最近は「ビールが飲めるヘアサロン」として評判を集める。「みんなが仲良くなる店にしたい。変わった発想かもしれませんが、ビールはそのための道具です」と、店長の伊藤聡司さん(40)。

 福島市の「クリーム」も2か月に1度、客同士が集まる飲み会を開いている。客からは「転勤してきて知り合いがいなかったが、ここで友達ができた」などと好評だ。店長の遠藤寛明さん(40)は「お客さん同士で結婚した人もいます。東日本大震災の後、元気がなかった人のつながりの場所にもなりました」と話す。

競争激化で差別化

 こうしたヘアサロンが出てきた背景には、店同士の競争激化がある。厚生労働省によると、全国のヘアサロン(美容院)の数は17年度末に約25万店で、増加傾向にある。一方、人口減で市場は縮小しつつある。他との違いを打ち出すことで固定客をつかみ、生き残りを図るのがねらいだ。

 リクルートライフスタイル(東京)の美容系調査部門「ホットペッパービューティーアカデミー」が16年に行った調査によると、同じサロンを「また利用したい」と思った理由は、カウンセリングや受付などの「施術以外」が42%と最も多く、メインである「シャンプー・施術」(34%)を上回った。アカデミー長の千葉智之さんは「美容技術が平準化するなかで、メインサービス以外が鍵を握っている」と分析する。

 また、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が普及する一方、インターネット上でなく実際に顔を合わせて交流したいという希望は根強い。大阪市の男性専用美容室「クランク」は、自転車が趣味の客たちが集まる。店長の大満隼嗣おおみつじゅんじさん(35)は「月に1度くらいしか会えないお客さんとも、共通の趣味で距離感を縮めたかった」と話す。仲間に会える場所として評判を集め、和歌山県や奈良県など府外からはるばるペダルをこいで来店する客もいるという。

 サロンとはもともと、応接室など人が交流する場を意味し、江戸時代には髪結床かみゆいどこも人々の触れ合いの場だった。近年は効率性が重視され、低価格、短時間で「ただ髪を切るだけ」の店も増えてきたが、本来のサロンの付加価値を打ち出す店も見直されている。千葉さんは「競争の激しい地域でも、リピーターが安定して訪れる店は生き残る。利用者も通いたくなるサロンを見つけてほしい」と話している。

(読売新聞生活部 及川昭夫)