妊娠中も残業続き 職場で陣痛、切迫早産に

妊娠と仕事

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妊娠中の短時間勤務、規定なく

 妊娠中の無理な働き方によって体調を崩す妊婦が少なくない。妊婦を守る制度が就業規則など社内の規定に明記されていないことが理由の一つだ。昨年から随時連載している「妊娠と仕事」シリーズ。今回は、法制度の周知不足が妊婦の働く環境悪化に拍車をかけている現状に目を向けた。

 「妊婦の短時間勤務は、就業規則にないので、認められません」――。2017年夏、都内のメーカーで働く妊娠6か月の会社員(42)は自らの希望を人事担当者に断られ、あぜんとした。

 女性は職場の責任者で、終電帰宅が当たり前の勤務を妊娠後も続けていた。しかし、「これ以上続けては自分も子どもも命にかかわる」と危機感を感じた。

 「残業しなくても済むようフォロー体制を整えてほしい」と何度も上司に訴えたが、動きがなかった。このため、医師に相談のうえ、「短時間勤務を取りたい」と人事担当者に申し出たのだった。

 その後約1か月間、会社の対応は決まらなかった。会社としても初めてのことだったようで、「検討に時間がかかったのかも」と女性は言う。

 その間、働く環境は改善されず、体調が急変した。夏なのに、寒くてたまらない。職場では毛布をかぶり、カイロをあてて熱いうどんをすすった。そのうちおなかが痛みだし、間隔がどんどん短くなっていく。「もしかしたら、陣痛かも」。机に積まれた書類の山を前に、冷や汗が噴き出した。

 受診すると、切迫早産。即入院した。「このまま生まれてしまったら、赤ちゃんは助かりません」。医師にそう告げられた時は、涙が止まらなかった。早産は免れたが、そのまま出産まで4か月休むことになった。

 女性が危険な状態に陥ったことを知った会社はその後、妊娠中の短時間勤務制度をつくり、就業規則に明記。社員への研修も行った。

 女性は「就業規則にもないなど、妊婦を守る意識が職場では高くない。私と同じようなことが、あちこちで起きているのでは」と心配する。

◆就業規則 労働時間や賃金、休日などについて記してあり、根幹となる職場のルール。労働基準法では、10人以上の従業員がいる雇用主は内容を労働基準監督署に届けなくてはならない。

育児中は対象なのに、妊娠中は対象外

 勤め先のルールに明記されていないために、適切な配慮を受けられない妊婦。こうしたケースは、ほかにもある。

 都内の研究機関で働く女性(36)は6年前、働く時間を変えてもらおうと上司に頼んだが、断られた。当時、妊娠5か月。理由は、やはり「就業規則に書いていない」だった。「目の前が真っ暗になった」

研究機関で働く女性の母子手帳。特記事項には、医師が何度も「安静」と書き、身体を休めるよう求めていた(写真は一部修整しています)

 女性の希望は、始業と終業をそれぞれ30分早めること。午後になると疲労から吐いてしまい、仕事にならない。医師からは、仕事の負担を減らすよう言われていた。「せめて勤務を30分ずらせれば、通勤ラッシュと重ならず、体力的にも楽になる」。そんな切実な思いがあった。

 悔しくて、就業規則を隅から隅まで読んだ。短時間勤務や勤務を早める制度は、育児中の従業員には認められていた。だが、妊娠中は対象外だった。

 途方に暮れたまま2週間がたった。その間、体調はみるみる悪化した。薬を飲み、点滴も打ちながら出勤した。とうとう「母子の安全を保てない」と医師からストップがかかり、やっと勤め先から「ゆっくり休んで」と促された。

 「もっと早く柔軟に対応してくれたら、子どもを危険にさらさず、働き続けられただろうに」と振り返る。

規定なくても企業に対応義務

 働く妊婦を守るため、男女雇用機会均等法や労働基準法では、妊婦らの求めに応じて、雇用主が様々な配慮をしなければならないことになっている。内容は時差出勤による通勤負担の軽減や勤務時間の短縮など様々だ。

 法律に定められている以上、たとえ就業規則に規定がなくても、雇用主は、妊婦の求めに対応しなければならない。

 しかし、「就業規則にないから」という理由で、適切な配慮を受けられないままとなる妊婦は少なくない。さらに、東京ユニオンの関口達矢副執行委員長は、「就業規則にないことを知った妊婦自身が、『うちの会社では配慮を受けられないのだ』と諦めて、泣き寝入りしてしまう」と指摘。問題の根は深い。

 育児中の従業員に対して国は、短時間勤務制度などを設けるよう法律で定め、就業規則に記すよう雇用主に求めている。これに対し、妊娠中についてはこうした対応が遅れており、妊娠期も含めて切れ目のない支援が求められそうだ。

 (読売新聞社会保障部・大広悠子)

【ご意見・体験談を募集】

 妊娠中、体調が悪いのになぜ多くの女性が無理をして働き続けるのでしょうか。職場の人手が不足していることや、出産後と比べて妊婦を守る安全網が手薄な点など、様々な事情が妊婦を追いつめています。特に、深刻なのが、派遣社員やパート、アルバイト、フリーランスで働く女性たち。「頻繁に休むようでは、契約更新できない」などと言われることもあるようです。読売新聞は、正社員はもちろん、非正規やフリーランスで働く女性の妊娠中の働き方について取材を進めていきます。あなたの体験談やご意見、ご感想をメールでお寄せ下さい。メールはこちら ansin@yomiuri.com(読売新聞社会保障部)へ。

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