普通の主婦が震災をきっかけにリーダーに やっぺす代表・兼子佳恵さん

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「やっぺす」のキャラクター「やっぺすちゃん」(左)と、子供たちが無事に帰ってくると願いを込めたかえるの「ピクルス」

 東日本大震災では、多くの人の運命が変わりました。兼子佳恵さん(47)(宮城県石巻市)もその一人。震災をきっかけに、NPO法人「石巻復興支援ネットワーク (愛称・やっぺす)」を設立し、主に女性の自立支援やコミュニティー作りに携わっています。石巻を中心に、多くの女性や子供たちに寄り添ってきた兼子さんの活動を取材しました。

ボランティア団体を手伝うことに

 震災前は中学生と高校生の2人の息子を持つ主婦だった兼子さん。「昔はちょっとヤンチャしていたんです。20歳の時に『できちゃった結婚』をしました。この時、周囲に反対されたこともあり、『だから産むことを反対したのに』と二度と言われたくなくて、『子供を立派に育てなきゃ』って、いつも必死で子育てをしていました。長男を育てていた時は育児ノイローゼになり、いつも息苦しかったですね」。

震災直後の自宅周辺の様子(兼子さん提供)

 震災のあった日、部活に行っていた中学生の次男とは会えなかったものの、翌日に再会。自宅は津波の影響で浸水し、ぜんそくを持っていたので避難所ではなく、被害のなかった2階で生活しました。家族や親戚は無事でしたが、多くの知り合いが亡くなりました。兼子さんは「自分たちよりもっと大変な思いをしている人のために何かしたい」と思い立ち、自分にできることからボランティア活動をスタート。次第に、復興支援を石巻の外から来る人たちだけに任せるのではなく、地域の人たちが中心になって進めたいという思いが強まり、「やっぺす」を設立しました。

「やっぺす」では、年数回、着なくなった洋服を集めて、遊びにきた人が自由に持って行ける「もってって市」を開催している

被災者じゃなく災害経験者になる

 震災から3か月ほどがたった頃、仮設住宅への入居が始まり、兼子さんは、そこでのコミュニティーづくりに携わるようになりました。集会所で、お茶会、手芸、フラワーアレンジメント教室を開き、住民同士の交流の場をつくりました。そこで兼子さんは、参加者からわずかですが、材料費を集めることにしたのです。

 「被災者からお金を取るなんて非常識だという批判もありました。当時は、外部からの復興支援はほとんど無料。でも、私たちはいつまでも何かしてもらうのを待つ『かわいそうな被災者』じゃなく、『災害経験者』になるべきだと思ったんです」

起業家支援が広がる

 活動の幅は広がりました。子供がいるため外で働けない母親が自宅でできる「おうちしごと」の提供や、大坂のアクセサリー制作会社「ソンリサ」の協力のもと、アクセサリーブランド「アマネセール」を始め、これまでに3000万円以上売り上げました。13年4月には、化粧品メーカーの日本ロレアル、石巻市と協働で、女性の人材育成スクール「アイズフォーフューチャー」を始めました。

パワーポイントで資料作りを学ぶ様子(やっぺす提供)

 やっぺすの活動が軌道に乗る一方、代表として様々な企業や団体と交渉したり、マスコミの取材を受けたりする場面で、自己嫌悪に悩まされたといいます。「会話の中に『マジョリティー』『ロジック』『インターンシップ』とか、いろんなカタカナ言葉が出てくるんですが、一つもわからない。なんだろうって一生懸命、携帯電話で調べて会話についていきました」

 兼子さんに学歴を尋ね、高卒だとわかると、兼子さんにだけ名刺を渡さない人もいたそうです。趣味や特技を持つ「達人」と呼ばれる地元市民を講師にした「石巻に恋しちゃった」などまちづくりプロジェクトも始まり、やっぺすの活動が目立つようになると、いわれのない誹謗ひぼうや中傷も受けるようになりました。

自らの経験を生かして

 しかし、こうしたつらい思いや、自身が育児で悩んだ経験が、弱い立場の女性に寄り添う支援につながりました。子育て中の女性がやっぺすの活動に参加しやすいように、託児サービスを付けたのもその一つ。「学ぶことで仕事の選択の幅を広げるのはもちろんですが、一緒に学び合える、ママ友じゃない友達をつくってもらえたら」

 さらに、兼子さんは「学んだことを生かして、起業やコミュニティーづくりにつなげていく。そこから人がつながり、ビジネスや活動が広がっていく」と強調します。様々な講座やイベントを開催していく中で、参加者がただサービスを受けるだけではなく、当事者意識を持ってもらうこと、自立してもらうことに力を入れてきました。

つながる石巻の女性

 兼子さんの思いは、取材で訪れた石巻市で出会った女性たちにも受け継がれていました。

移動式販売のコーヒー店「かめかふぇ」。店内にはチラシやポスターが並び、仲間の活動を宣伝しています。

 移動式のコーヒー販売店「かめかふぇ」を手掛ける亀山麻衣子さん。店内には、マフィンやベーグルを作って販売している友人の商品が並んでいます。「石巻の女性はつながっているから、いろんなところでお互いに宣伝し合っているんですよ」と言って亀山さんは笑顔を見せます。お客さんもほとんど顔見知りだそう。

かめかふぇの店内に並んだベーグルやマフィンは友達のお店のもの

 ちょうどそこへコーヒーを買いに来た岡田架奈さんは、3歳と4歳の子どものママ。ふだん子どもを遊ばせている施設のチラシを配りにきたところでした。「いつも子供もたちがお世話になっているので、今日はお手伝いをしています」と話していました。

チラシを配りに来た岡田さん(右)。かめかふぇの店内では、亀山さんとお客さんの笑い声が絶えませんでした

震災を機に地域や人に関心をもつように

 震災から8年がたち、「あのまま暮らしていたら、もっとフワフワとした生き方をしていたかもしれません。震災を機に、地域や人に関心をさらに強く持つようになりました」と兼子さん。自分自身を振り返り、「仕事をするだけがキャリアじゃない。子育て、家事、介護などの時間も、それが『自分で選んだ道』と、誰かのせいにしないで生きていくことが大切」と話します。

「やっぺす」の前で。2階は事務所と相談室。1階はコミュニティスペース、インキュベーションオフィス&チャレンジショップを運営している

 現在は、中央大学法学部でNPO論・NGO論の講義を担当しています。オンラインの政策学校で、政治・地方自治についても学んでいます。「どんな人でも、いつからでも学べる環境をつくりたい。そして、石巻が、今以上に多くの人が当事者意識を持ち、つながって、支え合い、高めていけるような地域になってほしい。やっぺすがその活動拠点となるように、『民営の男女共同参画センター』設立を目標にこれからも頑張っていきたいですね」

(取材・メディア局編集部 山口千尋)