女性の働き方を考えるシンポジウム「#for your smile」(後編)

国際女性デー

(左から)青野慶久さん、大崎麻子さん、杉山愛さん、岡本真梨子さん

 OTEKOMACHIは、3月8日の「国際女性デー」にちなんで、これからの女性の働き方などを考えるシンポジウム「#for  your  smile 自分らしく生きるために 働く女性のエンパワーメント」を東京都内で開催しました。後編では、パネルディスカッションと交流会の模様をリポートします。

パネルディスカッション「誰もが働きやすい社会を目指して」

サイボウズ社長 青野慶久さん
スポーツコメンテーター 杉山愛さん
関西学院大客員教授 大崎麻子さん
エスキャリア社長 岡本真梨子さん
コーディネーター 大手小町編集長 小坂佳子

(以下、敬称略)

大崎麻子さん(左)、青野慶久さん

 小坂 自分の働き方について、モヤモヤした思いを抱いている人は多いと思います。青野さんの会社でも、以前はモヤモヤを抱える社員が多かったと聞いています。

 青野 サイボウズの2005年の離職率は28%で、4人に1人が1年後には会社にいないという異常事態だったんです。この状態を解消するために、「欲しい人事制度を提案してほしい」と社員に呼びかけました。すると、「残業したくない」「週3日しか働きたくない」「在宅勤務をしたい」「副業をしたい」といった様々な要望が寄せられ、それにこたえる制度を作ったら、(離職率は)5%未満になりました。

 小坂 岡本さんは、女性向けのキャリア相談事業を行っていますが、働く女性の悩みにはどんな特徴がありますか。

 岡本 相談者で一番多いのは、20代から40代のワーキングマザーですね。「自分はこうしたいのだけれど、今の会社ではできない」といった相談内容で、だからといって転職したいわけではなく、「どうしたらいいのか分からない」と訴える人がすごく多いんです。

 小坂 杉山さんは「ウィッシュリスト」を作っているそうですが。

 杉山 現役選手だった25歳の時に始めました。スランプ体験を通じて、自分と向き合うことが大切だと思ったからです。引退した34歳の時に、「やりたいことリスト100」を具体的に書き出しました。1番目は「結婚」(笑)。そして「出産」。あとは、テニスをやっていたからこそできなかったこと、例えば、富士山に登ってみたいといったことを書いていきました。そうすると、プライオリティー(優先順位)が明確に見えてくるんです。今でもリストは更新しています。年月につれて、興味や進みたい方向も変わるので、時間がある時にリストを見直しています。

岡本真梨子さん(左)、杉山愛さん

 小坂 日本はとても生活しやすい国ではありますが、女性が仕事をするにはまだまだ困難があります。

 大崎 万国共通のことですが、女性が働いたり、教育を受けたり、政治に参加したりする時に、一番大きな障壁の一つが、日常的な家事や育児、介護、看護などの「無償ケア労働」です。これらはすごく大事な労働なのですが、日本の女性が働きに出る時の障壁もまさにこれ。こうした労働を女性がやって、そのうえで有償労働をしてくださいという現状が、日本の女性が今、一番モヤモヤするところではないでしょうか。

 ケアのスキルは、生きるためのスキルだから、男性にも必要です。今、日本は「人生100年時代」に入っています。ところが、男性は妻がいなくなると、料理ができない、薬のありかが分からないとなる。地域のネットワークがないので孤立しがちです。そう考えると、ケア労働は、性別で役割分業をするのでなく、男性もスキルとして身につけていく。そうしたメンタリティーは必要になってくると思います。

 小坂 青野さんは、ごく自然に子育てをやっているように見えますが、葛藤はありませんでしたか。

 青野 僕は基本的に昭和型のワーカホリックですから、ものすごく葛藤はありますよ。でも、人に勧められて初めて育児休暇を取った時に、「子育てって、こんなに大変なんだ」と気づいたんです。子育てという仕事は、24時間、365日あって、しかも、人の命がかかっている。失敗が許されない。これは、一人でやるべき仕事ではないと気づかされました。

 小坂 青野さんには、3人のお子さんがいますが、3人とも育児休暇を取ったのですか。

 青野 2人目の時は、毎週水曜日を休みにして、3人目の時は、午後4時までの短時間勤務を半年間続けました。実は、この短時間勤務が妻には一番喜ばれました。4時に会社をダッシュして出て、子どもを保育園に迎えにいく。社長が一番先に会社を出て行くんです。男性が育児休暇を取るのもいいけれど、短時間勤務をやるといいと思います。その方が長続きするし、仕事に穴を開けずに済むので、会社側も受け入れやすいんです。

 小坂 「みなさんはまだ働いているのに、すみません」と言いながら早帰りする人をよく見かけます。そう言わなくてよくなれば、職場がもっと働きやすくなります。

 青野 「会社に迷惑をかけてしまって……」などと言う人もいますが、まったくそう思わなくていいんです。生まれた子どもを育てれば、その子は20年後には大人、つまり働き手になります。しかも彼らは消費者でもある。要するに、子育てとは、経済の基盤を作る活動であり、未来の顧客を創造する活動なんです。育児をしなくなった社会は、経済がシュリンクしていきます。今の日本がまさにそう。育児をおろそかにしてきたから、経済が苦しくなったんです。そう考えれば、「今から未来の市場を創造してきます」と胸を張って早帰りすればいいんです(笑)。

 岡本 (その考え)最高だと思います。子育てが未来の市場を作っていることだというのは、頭では理解できます。でも、子育てをしながら働くことで、自分のやりたい仕事がやれなくなったり、収入がガクッと減ったりする現状があると、やはり感情的にはつらい。そうしたつらさをなくすには、会社のトップや職場の上司がどんなメッセージを出しているのか。社員が子どものことで早退したり休んだりする時に、上司が「大丈夫だよ」「謝らなくていいよ」と言えるかどうかにかかっていると思います。

 大崎 女性が働き続けられる環境を整えることが重要なのは、経営マインドのあるトップなら理解しています。難しいのは、トップの下にいる「粘土層」と呼ばれる管理職の人たちです。

 青野 僕もまさに「粘土層」の人たちと戦ってきました。会社の一部では「うちの部門は朝8時に出社して、新聞の読み合わせから始める」などとやっていました。そこで僕は「あなたが8時に来るのは別に構わない。でも、それを部下に押しつけた時点で、多様な個性を尊重していないことになる。次にやったら部下を外すよ」と言って、1枚目のイエローカードを出しました。でも、こういう人はたいてい、もう1回やります(笑)。結局、彼から部下を全員外しました。人事権を持ったトップがコミットしない限り、会社の風土は変わりません。

 大崎 最近は、世界の機関投資家が、ジェンダー平等を進めている企業かどうか、人間らしく働ける組織作りをしている企業かどうかを、よくチェックして投資しています。それを「ジェンダー投資」と呼んでいますが、日本にも大きな潮流としてやって来るとみています。

 小坂 テニスの世界では、女性選手の置かれた環境で変わったことはありますか。

 杉山 今はママさんプレーヤーが相当増えています。長年、女王として君臨していたセリーナ・ウィリアムズ選手も一昨年、出産してママになりました。彼女のような影響力の強い選手が、ママになってツアーに戻ってくると、大会主催者も環境を整えようとします。グランドスラムという四つの大きな大会がありますが、今は四大会とも、選手やコーチが子どもを預けられる託児所があります。私も昨年のウィンブルドン(全英)大会に「レジェンド枠」で出場しましたが、子どもを託児所に預けられたので、安心してプレーできました。賞金に関しても、四大大会の優勝賞金は男女同額です。

 小坂 選手の側からも、要望をしっかり訴えていくことが大事なのですね。

 杉山 「プレーヤーズ・ミーティング」といって、選手たちがツアーの中でより良い環境を求めて、意見を言ったり要求を出したりする場はあります。日本人だと、「今の環境に慣れればいいじゃないか。順応すればいいじゃないか」などと考えてしまいがちなのですが、海外の選手たちは「私はこうすべきだと思う」とはっきり言います。そういうところを見ていて、自分もやはり思ったことはきちんと発信しなければいけないのだと学びましたね。

 小坂 働く女性たちから相談を受けていて、感じることはありますか。

 岡本 これから女性が働きやすい社会に変わっていくだろうし、変えていかなければいけません。でも、今、子育てをしている女性などは、変わるのを待っていられません。かと言って、自分はすごい人間ではないから、自分では社会を変えられない。それなら、どうしたらいいのと、つらい思いをしている女性が多いんです。そういう人たちには「心の障壁」があると感じます。「私は女性だから」「どうせ私なんて」と、自分をすごく低く見積もる傾向が強いです。本当は優秀なのに、自己肯定感がすごく低いのが、日本の女性の特徴だと思います。大切なのは、「本当は自分は何をしたいのか」に気づくこと。今はたくさんの障壁に押しつぶされているけれど、「本来の自分はそうじゃない、実は、こういうふうにしたかったんだ」と自分自身で気づいて、障壁を少しずつ取っ払っていくことです。

 小坂 最後に一言ずつお願いします。

 青野 働きづらい環境を変えるのは、トップが変わらないと無理。変えるための対策は三つあります。一つめは、社員自ら「変えにいく」。賛同する仲間を増やし、トップと戦って環境改善にコミットさせるのです。二つめは、会社から「逃げる」。ブラック企業なんて、社員がみんなやめたら、あっという間に消滅します。三つめは、今の環境を「受け入れる」。どれを選ぶかは、みなさん次第ですが、自分が変わらなければ、何も変わらないのです。

 大崎 子どもが2歳半の時に就職して、子どもに振り回されながらも仕事を続けてきました。でも、振り返ってみると、子どものケアにかける時間というのは限定的。ケアの最中は、長いトンネルの中にいるようで、いつになったら抜けられるのかと考えていましたが、実は私の仕事人生の中のほんの一部だったことに気づいたんです。今は子どもも成人したので、仕事に没頭しつつ、地域のボランティア活動や、お花や俳句などの稽古事にも取り組んでいます。人生を長いスパンでとらえて、その中に仕事や家事、ボランティアなどを位置づけていく。そんな視点が大事だと思います。

 杉山 女性は特に「この人のために」「会社のために」と考えて、自分のことを後回しにしてしまいがちです。自分らしく生きるために、自分がどの方向へ行きたいのか、自分とじっくり向き合って考える時間を作ってほしいと思います。

 岡本 この先何が起こるかわからない、変化の時代を、私たちは乗り切っていかなくてはなりません。でも、女性にとってはチャンスでもある。女性は、体も人生も変化が多いから、変化対応力は女性の方が圧倒的に強いと思うんです。ただ、何が起こるか分からない時代だからこそ、正解探しをしたり、ロールモデルの人生を生きようとしたりするのではなく、自分なりの羅針盤を探して、その指針を頼りに自分らしく生きていくのが大事です。羅針盤をつかむには、ウィッシュリストを作るのもいいし、誰かに相談して力を借りるのもいいと思います。 

【プロフィル】
青野 慶久(あおの・よしひさ) 1971年生まれ。97年にサイボウズ設立。3児の父で3度の育児休暇を取得。内閣官房の働き方変革プロジェクトのアドバイザーなど歴任。

大崎 麻子(おおさき・あさこ) 1971年生まれ。国連開発計画でジェンダー平等推進などを担当。公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン理事。2児の母。

杉山 愛(すぎやま・あい) 17歳から17年間、プロツアーを転戦。グランドスラムの女子ダブルスで3度の優勝。引退後は情報番組のコメンテーターなどを務める。1児の母。

岡本 真梨子(おかもと・まりこ) 1980年生まれ。リクルートエージェントなどを経て、2016年にエスキャリア社長。キャリアコンサルティングなどを行う。2児の母。

来場者らとの交流会も

 パネルディスカッション後には、参加者とパネリストらの交流会も開かれました。

 海外では3月8日に、男性が感謝の気持ちを込めて、女性に「ミモザ」の花束を贈る習慣があります。それにちなんで、国際女性デーのモチーフにはミモザが使われることが多いそう。この日も、たくさんのミモザの花が、パネルディスカッションや交流会の会場を彩りました。

石川雅恵さん(左)と歓談する来場者
会場を彩ったミモザ

 交流会には、石川さんや佐々木さん、青野さんら6人の登壇者のほか、来場した女性たち約50人が集まりました。パネリストを囲んで談笑したり、参加者同士で名刺を交換したりしていました。

 また、日本テレビキャスターの小西美穂さんがサプライズで登場。来場者からは歓声があがり、小西さんに握手を求める場面もありました。

 会場にはOTEKOMACHIの撮影コーナーも設けられました。来場者に女性へのメッセージをポストカードにつづってもらい、写真を撮りました。インスタグラム「@otekomachi」で検索してみてください。

来場者の声

 東京都 中村茉莉花さん(36歳、会社員) 3歳の子どもを育てながら働いています。同僚が残業しているときでも、保育園の迎え時間があるので、残業はできません。申し訳なくて肩身が狭い思いをしていました。でも、今日の話を聞いて、自分の心の中で「障壁」を設けていたのかなと思いました。もっと堂々としてもいいのかなと。夫も家事・育児はしていますが、子どもが病気の時などは、どうしても私の方が仕事を休みがちです。夫の勤務先の上司に理解がなければ、そうなってしまいます。こういうイベントを通して、様々な立場の人たちが自分たちの問題として働き方を考えていけたらうれしいです。

 東京都 南川政恵さん(56歳、キャリアコンサルタント) 講師の皆さんのお話は、一人ひとりにストーリーがあり、とても説得力があって元気をいただきました。印象に残ったのは、佐々木かをりさんの「ほかの人と私は違うと思った瞬間に学べなくなる」という言葉。自分で障壁を作らないよう注意して、まだまだ学びながら働いていきたいです。

 千葉県 仲野萌香さん(19歳、大学2年生) 女性たちが働いていく中で、仕事をどう選択するか、どうキャリアを積んでいけばいいのかに興味があり、参加しました。佐々木かをりさんの「小さなチャンスの積み重ね」というお話に感銘を受けました。きょう、ここに来たことは私にとって「チャンス」なんだと思います。皆さんのお話を聞けたことで、私の未来も変わるかもしれません。

登壇者の話に熱心に聞き入る来場者

 東京都 小沢恭さん(47歳、無職) やりたい夢があるのですが、自分の心が弱くなると迷ってしまい、なかなか踏み出せずにいました。自分を見つめるために、杉山愛さんが紹介してくださった「ウィッシュリスト」を作って心を整理していきたいと思うようになりました。

 千葉県 芳沢沙由香さん(22歳、大学4年生) 大学ではジェンダー学や女性学を学んでいます。サイボウズの青野社長の話に感銘しました。トップが自ら動くことで、会社の働き方を変え、社員の意識改革をしていく。素晴らしいと思いました。「愚痴を言うくらいなら、自分の意見をきちんと伝えるべきだ」という言葉にはっとさせられました。働き始めたら、自分の意見を言えるように心がけようと思います。

 東京都 安齋徹さん(58歳、大学教授) 自分の能力を高めてネットワークを作り、貢献するというメッセージは男女ともに当てはまります。「男性らしさ」「女性らしさ」よりも、「自分らしさ」の時代が到来していると感じました。講師のお話を参考に、大学では、性別を問わず、学生たちが自分らしく生きていくことの土台作りをしていきたいです。

 東京都 板根友理さん(31歳、会社員) 日本の女性は自己肯定感が低いという話が心に残りました。私は20代に航空会社のキャビンアテンダントとして2社に勤務し、2度目の転職で、今の会社に入りました。30歳のタイミングで新しいことに挑戦したいと思ったためです。でも、実際に働いてみると、結構ヘトヘトに。まだ仕事の要領を得ないためかもしれないと思って、自主的に残業を過少申告していましたが、やはり見直していかなくてはいけませんね。男性でも女性でも働きやすい職場を作るために、自分でも頑張ろうかなというエネルギーを補給した感じです。

女性の働き方を考えるシンポジウム「#for  your  smile」(前編)