シンデレラ・テクノロジー 少女の「盛る」を数値で解く

働く女子未来形(1)

「写真を撮った後の作業が『盛り』のポイントです」と実演する久保さん。右上が、目や顔の形などを加工して完成させたプリントシール(東京都渋谷区で)=米田育広撮影

 身の回りの課題を見つめ、ユニークな活動を始める若い女性たちが増えている。しなやかに未来を作る姿を紹介する。

「美意識」つかみ技術開発、ビジネス

 久保友香さん(40) 東大大学院特任研究員

 パステルカラーで彩られたSHIBUYA109(東京都渋谷区)のプリントシール専門店「モレルミニョン」。6台あるシール機は、少女たちで混み合っていた。撮影後にパネルを操作して目をぱっちりさせたり、頬に赤みを加えたり。美しく「盛る」画像にはしゃぐ少女たちを、久保友香ゆかさん(40)は「自分らしさと言いつつ、似た顔になっているのが不思議。彼女たちが求めるものを数値化したい」と見つめた。

 東大大学院の特任研究員として、少女たちが求める「かわいい」のパターンを多くのサンプルから抽出し、数値化している。理想の自分に近づく技術を「シンデレラ・テクノロジー」と命名。加工技術の進化と、それを使いこなす意識とテクニックを研究中だ。

 現時点での仮説は「盛る」のは少女たちの「モノづくり」ということ。「顔の美醜よりも、すごいモノを作り上げる技術力や努力が称賛されている。文化的だと思いませんか」。生まれ持った顔立ちで評価されがちな少女たちが自ら理想を作る。「『実際に会うとがっかりするだけでは?』なんて質問は前時代的かもしれませんよ」

日本文化を数学で解析

 プリントシールの登場は1995年。「現在に続く、少女たちの仮想世界の始まりはここだと私は考えています」

 当時、自身も東京の女子高校生だったが、渋谷に集まるタイプではなく、楽しかった時間は、算数や数学の問題を解くとき。「リケジョ」の道を一直線に進み、東大大学院に進んでから、好きだった日本文化を得意の数学で分析。浮世絵など古い美人画にあえて加えられた「ズレ」を数値化し、江戸の美人はつり目、大正はたれ目など、時代の美意識をあぶりだした。

 博士号を取得し、東大の特任助教となったが、「伝統の分析にとどまらず、未来につながるものを見つけたい」と悩み、2年で退職。悩んでいた時に、街やインターネットで見た少女の顔が「どれもそっくり。浮世絵みたい」と気づいた。現代の美意識も数値化できるのでは、と大学に戻り「シンデレラ・テクノロジー」の研究を始めて迷いはなくなった。

男性より仲間内の評価

 「シンデレラ」と名付けたが、「現代の日本の少女たちは童話のシンデレラとは少し違う」。王子様に見いだされることがゴールの童話に対し、少女たちは男性や大人に評価されることよりも、仲間うちでの評価を重視していると感じるからだ。「仲間以外にはわからない方がいいと思っているのかも。『理想の顔』もどんどん変わります」。そんな少女の気持ちを社会に橋渡しすることが理系の女性研究者の役割と思う。

 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、2015年時点で大学などで工学・製造・建築を専攻する日本の女子学生の割合は、加盟35か国中で最も低い13%。自然科学・数学・統計分野も25%と加盟国平均の50%を大きく下回った。その結果、技術を開発する立場にも男性が多くを占めている。

 「女性や少女の声が今まで、技術開発の分野にはなかなか届かなかった」。しかし、プリントシールの加工が進化したように、少女たちの物語や欲望が技術の革新を生み、新たなビジネスチャンスの可能性もある。

 日本の少女文化について海外の研究者から問い合わせを受けることも増えた。「目指すのは、日本らしい『粋』の数値化。答えが出せる日まで、一研究者として進み続けたい」

(読売新聞生活部 福士由佳子)