日の当たらない場所にあることの多いオフィスの給湯室のイメージが変わろうとしています。給湯室が部署の違う社員同士でも、さりげなくコミュニケーションを図れる場所であることに着目して、オープンキッチン付きのカフェスペースなどに“進化”させた企業が増えています。給湯室の位置やデザインによって、働きやすさはどう変わるのでしょうか。
明るいキッチンと休憩コーナー
ミドリムシを使った食品や化粧品などの開発で知られるユーグレナ(本社・東京都港区)は2018年2月、本社オフィスを移転した際に、社員同士が交流できるようにと、窓に面した明るいカウンターキッチンがある休憩コーナーを兼ねたカフェ風のミーティングスペースを作りました。

社員同士で飲み物を入れたり、隣接する社内保育園の子どもたちの様子をそっと見たり。約200人が働くオフィスは床面積が2つのフロアを合わせて約1850平方メートルあり、そのうちの半分を社内保育園とミーティングスペースが占めています。

同社広報の本間道子さんは「部署の違う社員同士でも自然と顔を合わせられるオフィスになって、みんな喜んでいます。ミーティングスペースや保育園があるのは、基本的に社員だけが入れるフロアです。ランチや社内の急な打ち合わせなどに重宝しています」と話します。社員からの要望で、靴を脱いでくつろげるコーナーや、ハンモックも備えられています。

本間さんは「給湯室というと、奥まった所にあると相場は決まっていましたが、明るくて広いスペースになって、社員同士、お互いに刺激し合うのに役立っています」と話していました。
新社屋で魅力倍増する例も
ウェブマーケティング事業を展開する「新大陸」(本社・浜松市)は18年11月、新社屋に移転しました。その1階には、長さ5メートルの大きなテーブルとオープンキッチンを備え、スタッフが気軽に集うことができるスペースがあります。

ランチタイムや仕事終わりにこのキッチンを使って調理し、スタッフ同士で食事を楽しむ姿も見られるようになりました。月1回、本社と東京、大阪、福岡にある拠点のスタッフが集まる会議では、ケータリングサービスを利用して、ちょっとしたパーティーを開くこともあるそうです。
同社では、スタッフが室内の好きな場所で仕事ができるフリーアドレス制も採用しています。「当社は、SNSのマーケティングを軸に成長している企業。働きやすい環境を整えることが人材確保の近道と考えました」と同社代表の鈴木宏佳さん。新社屋に移転してから、毎月20人程度だった求人応募が500人近くへと急増したそうです。
部署が違っても気軽に交流、“ちょこっと打ち合わせ”も
オフィスや商業施設の設計・施工を手がける「三井デザインテック」(東京都港区)は2015年に、オフィスの真ん中にカフェコーナーを設けました。本格的なコーヒーマシンと給水用のボトルサーバーなどが置かれ、社員は1杯50円でコーヒーが楽しめます。
部署や担当が違う社員同士が、コーヒーをいれたり飲んだりしながら気軽に会話でき、アイデアを交換する姿が見られるようになりました。社内でオフィス改革を進めてきたデザインマネジメント部の石田泰夫デザインサポートチームマネージャーは「わざわざ会議室を予約しなくても、立ち話での『ちょこっと打ち合わせ』で済むことも多いです」と言います。
同社は14年から、部門別にフリーアドレス制を進めてきました。社員の荷物を一人当たり段ボール箱2個分まで減らし、電子化やペーパレスを進めた結果、スペースを確保でき、オフィスの真ん中でカフェコーナーの設置が可能になったそうです。

最近では、急なプライベートの電話を同僚に気兼ねしなくても済むようにと、電話用の防音室もカフェコーナーに設置しました。石田さんは「小さいお子さんを持つ社員にとって、電話は家族をつなぐツール。堂々と必要な連絡を取れるようにすることのほうが、働きやすさにつながるという考え方です」と説明します。
(読売新聞メディア局編集部・永原香代子)