大手企業が「シェアオフィス」事業に参入するケースが相次いでいます。スマートフォンの普及やパソコンの軽量化などでモバイルワークの環境が整備されてきたのが影響しているようです。「出先からわざわざ会社に戻らなくてもいいので、子どもの保育園のお迎えに間に合う」と喜ぶ声も。働き方はどう変わっていくのか。人気の「シェアオフィス」の一つを訪ねてみました。
33か所拠点で、勤怠管理も

JR東京駅に隣接する超高層ビル内にある「ワークスタイリング八重洲」は、三井不動産が全国展開するシェアオフィスの一つです。中に入ると、受付フロントの裏側におしゃれなソファや「ファミレス席」とも呼ばれるボックス席、個人で使うパソコン席が整然と広がっています。
この場所が朝8時から夜9時まで、契約した法人の社員や役員に対して、打ち合わせスペースや会議室、個人作業スペースとして提供されています。入退館は、受付カウンターに立ち寄り、スマホを取り出してQRコードを読み取り機にかざすだけ。全国にあるワークスタイリングのオフィスならどこでも、社員のだれが立ち寄ったのか、勤怠管理ができるシステムです。

会議室、個室以外は原則予約不要。料金は、企業の規模に応じた登録管理料がかかり、ほかに10分単位で1人300円の利用料が加算され、時間に応じて合算した1か月分の利用料を契約企業に請求しているそうです。
三井不動産は2017年4月に、都内10か所でシェアオフィスのサービスを開始。現在までに拠点を全国33か所へと増やしてきました。契約企業は200社を超え、多くのワーカーが利用しているそうです。
女性利用者の割合は2割

「利用者に占める女性の割合は2割程度ですが、最近は、働き方改革をめざす企業の人事担当の方に興味を持っていただくことが多くなり、今後増えていくのではないかと思います」と、三井不動産ワークスタイル推進部ワークスタイリンググループ統括の細田知子さん。
拠点の数が多いので、打ち合わせ先から会社に戻らず、シェアオフィスで業務報告だけ送って直帰することもできます。仕事に子育てにと忙しい女性にも便利なサービスと言えます。細田さん自身、昨年まで育児時間短縮制度を使っていたワーキングマザーの一人。「学童クラブや保育園の迎え時間に間に合うように『今日はどこで働けば移動時間が少なくて済むか』を逆算してシェアオフィスを利用することができます。そういう環境が整ったということで、喜んでいただくことが多いです」と話します。
企業を「つなぐ」仕掛けに女性の発想

シェアオフィスは、ただ場所を貸し出すだけではありません。企業という枠組みを超えて、人と人をつなぐ役割も期待されているそうです。
「ワークスタイリング八重洲」のビジネススタイリスト・橋田知世さんは、「利用者への声かけを行い利用者同士をつなぐこと」と「イベントの企画・運営」を主な業務にしています。
「忙しそうにされている方に突然声をかけても、迷惑がられるだけ。タイミングを見て、どういったニーズがあるかをお伺いしつつ、それをマッチングやイベント、施設の環境改善などに反映させてきました」と橋田さん。
利用者同士の交流を目的とした「ママランチ会」などカジュアルなイベントもあれば、専門家からビジネス英語などを学ぶスキルアップ系イベントも。いずれも毎回、様々な契約企業の方が毎回10人から30人ほど参加しており、リピート率は高いといいます。
橋田さんは「イベントなどで顔見知りの関係になっていくと、自然とビジネスマッチングの話も出やすくなります。企業を訪ねて共同開発を申し入れる、というと、入り口からかしこまってしまいますが、お互いに悩んでいることを共通の課題として語り合えば、思わぬビジネスのヒントを得るなどの効用があるのでは」と話します。
シェアオフィスの「支配人」的役割を任されているビジネススタイリストは、「ワークスタイリング」グループに現在6人。全員が女性だそうです。

一昔前のシェアオフィスは、起業家を対象とした「場所貸し」というイメージでしたが、拠点を複数化させることで、新たな出会いの場や働き方を変える拠点としても注目されているようです。
JRなど大手企業が続々参入
東京建物は、東京駅と新宿駅近くの2か所にシェアオフィス「+OURS(プラスアワーズ)」を展開しています。
起業して日が浅く事務所をまだ構えていない企業などのために、法人登記も可能な小規模なサービスオフィスを提供するほか、契約企業の社員ならだれでも気軽に立ち寄れる「コワーキングスペース」を備えています。
「コワーキングスペース」は平日のみ午前8時から午後8時までの利用が可能で、月額2万円から。1日2500円で単発で利用することもでき、ホームページで空席の有無をリアルタイムで公表しています。
JR東日本は今月28日から、東京、新宿、品川駅の各構内にブース型オフィスを設置し、シェアオフィスの実証実験を始めます。あらかじめウェブ上で登録した法人会員や個人会員であれば、15分単位で予約できます。2019年2月20日までの実験期間中は、利用は無料ですが、多くの顧客に提供するため、1人につき1日最大30分までと制約を設けています。鉄道会社ならではの移動時間のロスが少なくて利便性が高い「駅ナカ」で、来年度以降の事業展開をめざすといいます。
(読売新聞メディア局編集部 永原香代子)