「補充一人もない」「忙しいのに無理」…働く女性の過酷な現実

妊娠と仕事 反響特集

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反響200通 「出血したのに病院に行けない」「応援したいが、現場に余裕がない」

 連載「妊娠と仕事」には4月のスタート以降、200通を超える反響が届いている。多いのは、働く妊婦の窮状を訴える内容だ。

 《過重な労働の末、出産日の直前でおなかの赤ちゃんが亡くなった。同じ時期に職場に妊婦が4人もいたのに、補充は1人もなく、妊婦はもちろん、全員が無理をして働いていた。妊婦本人や周囲の頑張りだけで乗り切ろうとするのは限界。対策を考えてほしい(首都圏の元看護師、30歳代)》

 《立ちっぱなしの勤務中、出血に驚いて早退しようとしたが、「こんなに忙しいのに無理でしょ」と叱責しっせきされた。昼過ぎにやっとの思いで職場を抜けだして病院に向かったが、間に合わず流産。辞めなければ無事に産めないと思わせるような職場をなくしてほしい(三重県元調剤薬局勤務、38歳)》

 男性からも意見が届いた。

 《応援したいが、急な欠勤などをフォローする周囲は本当に大変。国は女性活躍などと理想を掲げるだけで対策をしていない。負担を現場と本人に押しつけていると感じる(埼玉県飲食店経営、47歳)》

 《事業主だって、妊婦を休ませてあげたい。しかし、ほかの社員の負担もこれ以上増やせない。残業も簡単にさせてはいけない。労務担当者として頭が痛く、八方ふさがりだ(東京都会社員、42歳)》

 海外からは驚きの声が届いた。

 《海外で働いて、日本の労働環境が劣悪だと知った。カナダでは、妊婦らの急な欠勤に備えて、看護師や教師には代替待機者リストがある。病欠などを連絡すると、自動で待機者に知らされ、すぐに代わりが決まるシステムがあり、安心して休める。「休んで申し訳ない」という職場環境を変える必要がある(在カナダ看護師、43歳)》

「支える側」の体制、妊娠見越し採用増

 人手不足の中、体調不良になって仕事のペースや量が落ちたり、休んだりする妊婦が出ることを見越し、働き方改革に取り組む職場もある。

 看護師の人数をより多く採用しているのが、済生会横浜市東部病院(横浜市)だ。看護師約700人。このうち約40人は妊娠・出産に備え余裕を持って採った人数だ。

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 手厚い体制を整えたのは、数年前、同時期に同じ病棟の3分の1(約10人)の妊娠が分かり、混乱したことが教訓となっているという。当時、同病院で看護部長をしていた日本看護協会の常任理事・熊谷雅美さんは明かす。「ちょうど採用時期と重なったために乗り切れた。だが同様のケースが今後も予想されるため、職場の負担を考えて、働き手を確保することになった」

 同じ職場で一度に何人もの妊娠が分かるのはそれまでなかった。「迷惑がかからないよう1人ずつ交代で妊娠するのが、職場への気遣いとみる雰囲気があった。女性が多い職場では、よくあることだと思う」と話す。“順番”を待ちきれなくなる人、“順番”が来てもなかなか妊娠できず苦しむ人もいた。熊谷さんは「それでは長く勤める人が育たない。安心して妊娠、出産できる環境が必要と考えた」と振り返る。

 ただ、多くの働き手を雇うのは、経営上は難しい判断だ。「なぜ人が必要なのか」と問われることもある。だが現在、同病院で看護部長を務める渡辺輝子さんは「男性や独身の人など、妊婦らを支えている側も、十分休めるように必要」と理解を求めている。

 人数を増やしただけではない。採用計画の参考にするため、同病院では毎年翌年の出産や結婚の予定を尋ねる。妊婦らの夜勤負担を減らせるよう、夜勤専従の職員も確保。予定日の6週間前から取得できる産前休業も法律より長く、8週間前から取れるようになっており、出産後も働き続ける看護師が増えた。

 同病院で働きながら3人の子どもを出産した金スリョンさん(47)は現在、産科のリーダーとして活躍する。同科では今年度も約40人の職員のうち7人が出産予定。金さんは「意向を聞いてもらう機会があったので、妊娠を考えている時期に業務を減らしてもらえた。日頃から1人しかできない仕事を減らすなど工夫できる部分もあるが、手厚い配慮があることが安心につながっている」と話す。

 企業でも妊娠を見越した仕組みを取り入れている。

 社員の約6割が女性の三井住友海上火災保険は、2007年に、妊娠5か月以上の社員がいる職場が要員の補充を要請できる制度を作った。産休まで2人体制で仕事を担う。妊娠中の社員が安心して休めるだけでなく、引き継ぎの期間が十分取れるため、職場への負担が少ないと考えたためだ。

 ただ、当初は、妊婦のフォローのため急に異動を頼まれる社員の不満や戸惑いもあったという。そこで同社は女性の多い部署には、あらかじめ定数以上の社員を配置することとした。また、4月からは妊娠・出産などで一時的に人が必要な職場に異動する代替要員を「社内公募」する仕組みも導入した。

 同社では「在宅勤務などと組み合わせることで、妊娠だけでなく、病気や介護を抱える人にも働きやすい環境を整えたい」としている。

育児中に比べ 妊娠中の支援は手薄だ

 妊娠中の労働者のための制度は、育児中と比べて手薄なのが実情だ。

 育児介護休業法などでは、子育てや介護中の従業員のためには短時間勤務制度など柔軟な働き方ができるような制度を設けるよう雇用主に義務付けている。

 一方、妊娠中の場合は、こうした制度を設けることは雇用主の義務になっていない。必要に応じて対処することになっているが、企業の担当者がこのことを知らないため、職場や担当者ごとで対応に差が出ているという。

 仕事を休んだ場合などの経済的支援も異なる。育児中は雇用保険から一定の給付金が出る。しかし、妊娠中の体調不良に伴う休業や欠勤については明確なルールがなく、無給となる例がほとんどだ。

 社会保険労務士の土屋寿美代さんは「妊娠中の労働者のための制度は、育児中と比べて、分かりにくい。前例がない企業も依然多く、担当者がよく分からずに、適切な対応をしていないケースも目立つ」としている。

 (読売新聞社会保障部・大広悠子)

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