75グラムの我が子 激務で死産

妊娠と仕事

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 「妊娠中、体調不良になっても、仕事を抜けられない」――。こんな思いを抱えて働き、体調を崩す妊婦が後を絶たない。今年4月から随時掲載している「妊娠と仕事」シリーズ。今回は、人繰りに苦慮する職場に焦点をあてて、問題の現状と打開策に迫る。

 「お願い、まだ出てこないで」。東京都の女性会社員(29)は今年5月下旬、都内の病院で、強くなる陣痛を抑えようと必死だった。安定期に入っていたが、「今、生まれてしまっては助からない」と、医師から告げられていた。午前3時過ぎ、身長15センチ、体重75グラムで死産となった。

 詳細に検査したが、母子ともに問題はなく、過重な働き方が原因と疑われた。医師が経過を記した書類にはこうあった。

 「次に妊娠したら、安静にする時間を増やし、仕事を減らしてほしい」

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 心当たりはあった。女性は従業員約20人の広告会社で働く、ただ一人の編集職。一人で多くの取引先を抱え、休日でも、深夜まで時には立ちっぱなしで仕事をこなす。

 妊娠後、常に体が重く、疲れているのに寝付けない。集中力がとぎれがちになり、仕事のスピードが落ちた。

 「一人では限界」。上司に何度も訴えた。だが、「無理しなくていいよ」「君しかいないからなあ」などと返すだけで、対策を取ってくれなかった。女性は言う。「休めばいいと言われても、休めばその分、仕事がたまる。代わりがいなければ、休めない」

 「あなたが早退するなら今日のお年寄りの入浴は中止。人手が足りないから」。首都圏で6年前、妊娠3か月だった介護施設の職員(40)は、上司に責められた。出勤後、出血に気付き、早退を申し出た時のことだ。

 入浴を楽しみにしているお年寄りを前に「がまんするしかない」と思った。生理用ナプキンを何枚も使って出血を抑え、痛みに耐えながら、寝たきりを含む10人以上の高齢者を介助した。

 夕方、仕事を終えてすぐに病院に向かったが、駐車場で車を降りた瞬間に大量出血。流産した。女性はまもなく退職。「こんな労働環境では次に妊娠しても無事に出産できない」

 一方、産婦人科で10年以上働く横浜市の助産師(35)は、「体調よりも仕事を優先してしまう妊婦が少なくない」と心配する。

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 午後7時の診療終了間際に電話が鳴ると「またか」と感じる。この時間帯の電話の多くが、働く妊婦からで「出血している」「おなかが痛い」といった急を要する訴えだ。

 しかし、いつから症状があるのか問うと「朝から」「昨夜から」などと答え、「仕事を休めなかった」「早退できなかった」と話す。

 対応が遅れ、そのまま入院になる人、手遅れとなる人も後を絶たない。

 聖路加国際病院(東京)女性総合診療部長の百枝幹雄さんは「異常があるのにすぐに受診しない、受診させないなどということはあってはならない。流産や死産は胎児の側に原因があると言われがちだが、全てがそうではなく、適切に対処すれば救える命があるということを、知ってほしい」と話している。

母親の疲労 胎児に影響

 妊娠中の仕事は、どの程度、調整する必要があるのだろうか。

 働く妊婦を長く診てきた母子愛育会総合母子保健センターの中林正雄所長は「通常の仕事量の7~8割に制限できれば、多くの人が無事に出産まで過ごせるはずだ」としている。

 母親が仕事で疲労をためたり、強いストレスを感じたりすると、血流が悪くなり、胎児への酸素の供給が滞るなどして、胎児に影響が及ぶ。おなかの中の居心地が悪くなると、赤ちゃんは外に出ようとしてしまい、それが出血や強いおなかの張りなどのサインとして表れる。適切に対処しなければ流産など様々なトラブルにつながる。

 中林所長は「予防が一番有効。無理をして入院や休業という事態を招かないよう、仕事をセーブしながらうまく働き続けることの大切さに気づいてほしい」と話している。

妊婦の申し出あれば法律で残業禁止になるが…

 Q 働く妊婦を守る法律はどうなっているの?

 A 労働基準法などでは、妊婦の求めに応じ、雇用主は「仕事を軽いものにかえなければいけない」「残業、深夜業、休日労働をさせてはいけない」と定められています。

 これとは別に「医師から受けた指示を妊婦が守れるよう配慮すること」も義務づけられています。

 例えば、医師から「流産の危険があるので勤務時間に配慮してほしい」などと指示された場合、雇用主が対策を取らなければいけないことを意味しています。

 いずれも、妊婦からの要請があることが前提です。

 Q なぜ、本人からの申し出が必要なの?

 A 妊娠中の体調変化には個人差が大きく、不調を全く感じない人もいるからです。妊娠中でも、それまでとほとんど変わらず、残業や夜勤ができる人がいます。

 Q どうして、申し出をせず無理をする妊婦がいるの?

 A 人手不足で忙しい職場が多い中、対応を求めても、上司から「休憩しながらでいいから」「他の人も頑張っているから」「代わりもいないし、できるところまでやって」などと言われてしまうと、求めを取り下げてしまう人も多いためです。出産後働き続けたいという思いや経済的な理由から言い出せない人も多くいると考えられます。

 一方、「妊婦の申し出を退けると、法律違反になる」という意識が企業側に低いことも原因です。請求の際の書類も用意せず、口頭で済ませている会社が少なくありません。

 Q 海外では?

 A 欧州連合(EU)では本人の申し出に関係なく、妊婦の深夜業を禁止しています。国によっては、残業も申し出にかかわらず禁止です。残業などができないために減った妊婦の給料を補償する仕組みもあります

 (読売新聞社会保障部・大広悠子)

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