性犯罪に消えない誤解……被害女性が立ち上がるために

弁護士三輪記子の「女もつらいよ!」

 みなさんは性犯罪被害に遭ったことはありますか?

 このような質問だと「ノー」と答える方が多いかもしれません。しかし、「電車内で痴漢行為に遭ったことは?」と聞かれたらどうでしょうか。言うまでもなく、痴漢行為は性犯罪の一種(各都道府県の条例違反や刑法の強制わいせつ罪に該当)です。

 私は学生の頃に複数回、痴漢行為に遭ったことがあります。言いようのない恐怖と憤り。しかしその時、情けないことに、犯人に対して声を上げたり、捕まえたりすることができませんでした。「あの痴漢犯人は、その後も多くの女性に対して痴漢行為を繰り返したのでは……」と想像すると、見ず知らずの被害者に申し訳なく思うのです。

 リビングくらしHOW研究所(東京)が昨年実施したアンケート調査によると、調査に協力した全国の女性約460人のうち、「痴漢にあったことがある」と答えた人は63.1%に上りました。これに対し、痴漢に対して直接「やめて欲しい」と言えた人は9.6%にとどまっています。

「挑発的な服を着ていたから」は印象論

 女性にとって、性犯罪被害は決して他人事ではありません(なお、男性にとっても性犯罪被害は他人事ではありません。その話はまた別の機会に)。しかしその一方で、世間には性犯罪被害についての多くの誤解があると、私は感じています。

 その一つは、「性犯罪被害に遭うのは、男性を挑発するような服装をしているからだ」という誤解です。

 少々古いデータですが、警察時報2000年10月号~12月号別冊には、「性犯罪の被害者の被害実態と加害者の社会的背景」と題するアンケート調査が掲載されていて、それによると、加害者の男性が被害者の女性を狙った理由のトップは「おとなしそう」(37.4%)でした。これに「警察に届け出ないと思った」(37.2%)が続き、「挑発的な服装」はわずか5.2%に過ぎなかったのです。被害者に「挑発的な服を着ていたからだろ」と言うのは、あくまで印象論です。そもそも、どんな服を着ていたとしても性犯罪は許容できないし、加害者に非があることは言うまでもありません。

 また、性犯罪と聞けば、「見ず知らずの男がいきなり……」というイメージを抱きがちですが、これも誤解と言えます。2015年版の犯罪白書によると、強姦や強制わいせつの加害者が被害者にとって見ず知らずの他人だったケースは、強姦で49.1%、強制わいせつで73.2%。これに対し、面識のある人による強姦は45.1%、強制わいせつは24.9%となっています。強姦も強制わいせつも、面識のある人による加害行為は年々増加傾向にあり、強姦について言えば、見ず知らずの人にいきなり乱暴されるケースと、顔見知りに乱暴されるケースが、同じくらい発生しているのです。

偏見なくし、被害者が声を上げやすい社会に

 そして、最悪の誤解が、被害者に向けられる「けがをしていないのだから大したことじゃないでしょ」とか「早く忘れた方がいいよ」などという言葉。まったくひどい発言です。被害者は心に大きな傷を負って何年も何年も苦しみ続け、なかには一生にわたって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱え続ける人もいるのです。

 こうした性犯罪被害についての誤解が、被害女性の多くが口を閉ざし、警察に被害届を出すといった被害回復の扉を開けることすらしない現実を生んでいるのではないでしょうか。2011年に内閣府が実施した調査によると、異性から無理やりに性交された経験がある女性のうち,被害について「どこ(だれ)にも相談しなかった」人は67.9%にも上るのです。

 かりに被害女性が勇気を出して声を上げたとしても、日本の社会がそれを受け止めきれていないのが実情だと言えます。

 私は、知人から受けたレイプ被害を告発したフリージャーナリスト・伊藤詩織さんの著書「Black Box(ブラックボックス)」(文藝春秋)や、実父から性暴力を受けていたことを明らかにした看護師・山本潤さんの著書「13歳、『私』をなくした私 性暴力と生きることのリアル」(朝日新聞出版)を読んだことで、あらためて性犯罪被害について考えさせられました。

 ちなみに、昨年施行された改正刑法では、山本さんが代表を務める市民団体などの呼びかけが実を結び、親や親族など「監護者」によるわいせつ行為を罰する「監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪」の条文が新設され、強制性交等罪(旧:強姦罪)の法定刑の下限が懲役3年から5年とされるなど、性犯罪の厳罰化が実現しました。

 性犯罪を減らすためには、被害者に対する誤解や偏見をなくし、被害者が声を上げやすい社会にすること。そのために私たちは何ができるのかを考え、行動に移していきましょう。

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三輪記子
三輪 記子(みわ・ふさこ)
弁護士

 三輪 記子(みわ・ふさこ) 弁護士。1976年生まれ、京都市出身。東京大学法学部卒、立命館大学法科大学院修了。2010年、弁護士登録。「白熱ライブ ビビット」(TBS系)、「キャスト」(朝日放送)などにレギュラー出演し、コメンテーターとしても活躍中。2017年に女性弁護士2名の事務所「東京ファミリア法律事務所」を開設。