パリのルーブル美術館にほど近いサンタン通りに「Aki」というパン屋があります。パンの種類が豊富なフランスで、メロンパンなどの日本のパンを扱い、地元の人たちの人気を集めています。
店内に入ると目に留まるのは、あんパンやクルミパン、チョココロネ、あんドーナツなど、日本人になじみの深いパンです。そのほか、カツサンドやミックスサンド、三角のハムサンドなどもあります。もちろん、バゲットなどのフランスパンも並んでいますが、日本のパンが大半を占めています。

この店がオープンしたのは2010年。もともとパン屋だったところが売りに出たため、向かいでレストランを経営するセルジュ・リーさんが日本のパン屋を開き、レストランと同じ「Aki」と名付けました。
店長の小野陽輔さんによると、日本食に興味を持つフランス人が増えているので、日本のパンを紹介することにしたのだそうです。
現在、客の約7割はフランス人。とりわけメロンパンは大人気で、1日に200個、週末などには400個も売れるそうです。マンガ「焼きたて!!ジャぱん」を読んでメロンパンを知り、夏のバカンスの時期に地方からやってくるフランス人もいるほど。

もうひとつのヒット商品がどら焼きです。元々は店にはなかった商品ですが、店頭に並ぶことになったのは、15年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門のオープニング作品だった「あん」(河瀬直美監督)がきっかけでした。
この映画では、どら焼き屋で働く元ハンセン病患者役を、9月15日に亡くなった樹木希林さんが演じ、樹木さんが粒あんを作るシーンが登場します。フランスでは16年に一般公開されましたが、「公開直後から、『どら焼きはないのか』『あんが食べたい』と問い合わせが相次いだため、作ってみることにしました」と小野さん。

1個3ユーロ(約400円)と値段は高めですが、多いときで1日100個も売れるとか。最近大福も売り始め、好評だそうです。
フランス人や世界からの観光客にとっては日本との接点であり、パリに住む日本人や日本から出張や旅行に来た人にとっては懐かしい日本のパンが食べられる。「Aki」は、日仏の食文化の交差点になっているようです。
(読売新聞編集委員・宮智泉)