5人にひとり!?「不妊治療退職」という損失を食い止めるために

スパイス小町

 5人に1人が不妊治療で退職――。不妊に悩む人への支援活動を行っているNPO法人「Fine」が発行した「不妊白書2018」によれば、仕事をしながら不妊治療をしていた女性の2割が、仕事と不妊治療の両立が困難になって退職しているそうです。その後、転職した女性は8%にとどまっています。

 2017年には、20万人の女性が出産を機に退職しており、これに伴う経済損失は1.2兆円に達する――。第一生命経済研究所がそんな調査結果をまとめていますが、日本の社会は、「出産退職」の以前にも「不妊治療退職」という損失を抱えているのです。

「突然の通院」がネックに

 今では夫婦の5.5組に1組が不妊の検査や治療を体験しており、その数は年々増え続けています。掲示板サイト「発言小町」にも、仕事をやめて不妊治療に取り組むべきか否かと悩む女性からの投稿がありました。

 金融系の会社に勤務する33歳のトピ主さんは昨年、病気のため休職。検査したところ、子どもを望むには不妊治療が必要なことが分かったそうです。「もし子どもを産めても元々身体があまり丈夫ではない中、迷惑をかけずに子育てと仕事を両立させる自信がなく、それならもう今、退職して、妊活に励んだ方が良いのではないか」と胸中をつづっています。

 「仕事には誇りとやりがいを持っている」というトピ主さん。それなのに彼女はなぜ、退職を考えなければいけないのでしょうか。理由の一つとして考えられるのが、不妊治療に伴う「突然の通院」です。卵子の状態によって急きょ治療することを求められるケースがあり、事前に仕事や通院のスケジュールを立てにくいのです。

 もっとも、治療のために丸一日、仕事を休む必要がない場合もあり、働きながら不妊治療を続けていた女性の声には「時間単位で有休が取れると助かるのに……」というものが多いです。そして、仕事と不妊治療の両立に苦労するうちに、「無理に両立させてイライラするよりも、いっそのこと退職して治療に専念したら……ひょっとしたら子どもができるのではないか?」という悩みにつきあたります。

 JALや富士ゼロックスには、不妊治療を理由に最長1年間、休職できる制度があります。1年で子どもができるとは限りませんが、子どもができる確率が高いのは、初回から6回目までの治療という調査もあるので、まずは1年、しっかり休んで治療するという選択肢もあるかもしれません。今後、こうした制度を導入する企業が増えていくことが望まれます。

不妊治療は「夫婦の治療」

 「イクボス」の育成に力を入れている企業のネットワーク「イクボス企業同盟」の会合で、「不妊治療を支援する制度」について、グループに分かれて話し合ってもらったことがあります。ある企業の参加者から、「転勤を免除される理由」の中に「不妊治療」が入ったという報告がありました。一方、男女が交じっているグループでは、女性参加者から「男性が不妊治療について、あまりに何も知らないので驚いた」という声が上がっていました。

 悩める不妊治療者に必要なのは、何よりも周囲の理解です。皆さんの意見を聞いていて思ったのは、企業側も、不妊治療は「夫婦での治療」という理解が欠けていたのでは、ということです。不妊治療は「女性だけ」のものではありません。カップルの、夫婦の治療です。たとえ男性に問題があっても、病院に行く回数は女性の方が多くなりますが、あくまで2人の治療なのです。

 例えば、不妊には、「夫の単身赴任」が大きく影響しているケースがあります。妻も働いていて夫と別居することになればもちろんのこと、妻が夫の転勤先についていくとしても、それまで通い慣れた病院を離れ、新しい病院を転勤先で探すことはストレスになります。企業は、転勤を言い渡す男性社員に不妊治療中の妻がいるかもしれないことを想定しているのでしょうか? 不妊治療を理由とした「転勤免除」など、さまざまな制度を女性社員だけでなく、男性社員にも適応してほしいと思います。

 企業が不妊治療に関する制度を整備していたとしても、妊娠・出産や子育ての場合と違って、社員が「休む理由を言いにくい」のが不妊治療です。「理由を会社に言うのがつらい。治療しても子どもができなかったらと思うと言いにくい」と経験者は話します。不妊治療に関する制度を使わなくても、「フレックスタイム(コアタイムなし。清算期間もひと月など)」「テレワーク」などを活用した柔軟な働き方で、かなり対応できる部分もあるのではないでしょうか。

「○○×働く」が実現する社会に

 ソフトウェア開発会社のサイボウズには、いったん退職しても6年以内であれば復帰ができる「育自分休暇制度」があります。何のためにこの制度を利用するのか、理由は問いません。留学しようが、社会貢献をしようが構わないというわけです。こうした復職制度があれば、不妊治療に専念する期間を設けることもできます。

 未来は、「〇〇×働く」が実現する社会になってほしい。〇〇には、「不妊治療」でも「育児」でも「趣味」でも、人によって好きなものを入れればいいのです。従来、日本人は仕事に多くの時間をささげ、仕事以外のことは犠牲にする“我慢競争”をしてきました。仕事のためにたくさん我慢したり、あきらめたりすることが評価されるのは、どう考えてもつらい社会でしかありません。今、「働き方改革」が叫ばれています。国がこのパワーワードを掲げて改革を推進しようとしているのですから、これを私たちは、自分らしい働き方、暮らし方を実現させるチャンスにしたいものです。仕事は人生の中の一部に過ぎないのですから。

◇発言小町のトピはこちら↓
妊活と病気、、会社を辞めるべきか

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白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

相模女子大学客員教授、昭和女子大学総合教育センター 客員教授、東京大学大学院情報学環客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「『婚活』時代」(山田昌弘共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(齊藤英和共著、講談社+α新書)、「女子と就活」(常見陽平共著、中公新書ラクレ)、「産むと働くの教科書」(齊藤英和共著、講談社)、「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ともにポプラ新書)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」(PHP新書)、「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」(是枝俊悟共著、毎日新聞出版)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」を大学等で行っている。

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