「整理整頓」能力レベルに応じた暮らし方

岡田育「40歳までにコレをやめる」

 あなたは自分の整理整頓や片付けの能力について、どのくらい自信を持っているだろうか? 私は、結構な自信がある……と言うと、身内はみんな驚いた顔をする。物にあふれた室内や、散らかり放題の机の上、いつまでもたたまれない山積みの洗濯物などをよく知っているからだ。

 自信というよりは確信で、私は身の丈に自覚的なのである。ベストセラー『人生がときめく片づけの魔法』の著者・近藤麻理恵さんの片付け能力を仮にLvレベル99とするならば、Lv40を前後している程度だろうか。整理整頓パワーは高め、収納パワーは人並み、断捨離パワーが平均より低め、強みは大掃除が好きなこと、弱みは、物が捨てられないこと。

 忙しさにかまけて自宅の片付きようがLv40を下回ると、私は途端に忘れ物やくし物が多くなる。あるべき場所にあるべきものがないのを探し回って貴重な時間を浪費し、物によっては再購入や再発行が必要にもなる。だから慌てて片付ける。とくに旅行前の荷造りは、Lv50かLv60くらいまで部屋をきれいにしてから着手する。

 人と一緒に働くオフィスや撮影現場で、私以外の全員の整理整頓能力がLv20以下だとうかがえた場合は、率先して場の片付けを担当する。そんなことは後で清掃係がしますから、と言われても、すぐやらないと全体の作業効率が落ちるからだ。逆に、その場にいるメンバーが軒並みLv80以上だったりすると、私は彼らの厳格なルールに忠実に従うことに専念する。それだけで手一杯となる。

 ホームパーティーでも、家によってはせっせとゴミ出しや洗い物を手伝えるが、家主の潔癖度がLv95くらいだと手も足も出ず、先方から何か頼まれるまで隅で待つだけとなる。正直言って、センスと美学に磨き抜かれたきれいすぎる部屋に招かれると、しんどい。ぴかぴかのショウルームみたいに片付けられた空間は、ドロドロの汚部屋と同じくらい居心地が悪い。双方を見比べて「私は中の下、Lv40くらいかな」と感じるのだ。あなたはどうだろうか?

できないことは真似しない

 『人生がときめく片づけの魔法』には、こんまり先生の「片づけに夢中になるあまり救急搬送された」エピソードが紹介されていて、読み返すたびに肝が冷える。それで生還できたのは彼女がLv99の能力者だからであり、Lv40の私が今すぐ同じ頂を目指すのは、サンダル履きでエベレストに登るようなものだ。

 体力や装備に限界を感じたら、目標の山を下げるしかない。衣類の収納テクニックについてはずいぶん参考にさせてもらい、今までのストレスが嘘のようにクローゼットの使い勝手がよくなった。けれども「帰宅と同時にカバンの中身をすべて出す」といった教えは謹んで無視させていただき、バッグインバッグをまるごと次のカバンに移し替える、という従来の方法で止めておいた。できないことは真似しないに限る。

 私のカバンは非常用持出袋が日常化したようなもので、半日くらいは仕事ができて、一晩くらいは寝泊まりできる装備が詰め込まれている。雨が降るか降らないか気を揉むのが億劫おっくうなので、持っているのを忘れるほど超軽量の折り畳み傘を買って入れてある。今はモバイルバッテリーだが、昔は乾電池なども入っていた。

 鍵とカードと携帯だけ持って遊びに出かけるような友人たちからはいつも「荷物が多い」と呆れられるのだが、ここに着替えを足していけば何泊でもできるので、自分では「荷物が少ない」ほうだと思う。実際、泊まりがけの旅行に行くときは、彼女たちより私のほうが身軽だ。普段から旅装のつもりで携行品を厳選しているから、カバンの中身をととのえる能力ならば、Lv70以上はあるだろう。

 ところが旅行カバンより大きな空間面積、定住する部屋の整理整頓となると、だいぶレベルが落ちて、分解能も粗くなる。お菓子の空き箱にありとあらゆる文具を放り込んで「お道具箱」にするとか、バンカーズボックスこと蓋付き段ボール箱をそのまま収納に使うとか、毎日使う貴重品はいちいち荷解きせずカバンに入れっぱなしにするとか、そのくらいざっくりした整理整頓が、Lv40の私にはちょうどいい。

「やりすぎない」心構えで

 日本のホームセンターや巨大文具店、百円ショップなどに行くと、おびただしい数の整理整頓アイテムや収納に使う便利グッズが販売されていて、目移りしてしまう。あまりにも細かく区切られた小分けケース、入れるペンの本数が先に決まっている筆箱、こまめなラベリングを求められるファイルシステム、組み合わせて何個も買わないと引き出しにぴったりはまらない間仕切り。もっと細かく。ずっと厳密に。

 自分のレベルをよく把握できていなかった昔は、一念発起してこうした上級者向けの新商品を買っては、まったく使いこなせずに大失敗を繰り返していたものだ。あれらの商品陳列棚にも、ちゃんと推奨能力値を明記しておいてほしいと思う。売り場へ行って勝手に「対象整理力:Lv58以上」とか、そんなシールを貼って回りたい。子供のおもちゃに「対象年齢:3歳以上」と記載するのと同じようにして。

 次々と高度な新商品が開発されるからだろうか、今までの人生、「自分の部屋が思うように片付けられず、すぐ散らかってしまうのが耐えられない」という苛立ちよりも、「いつか見たLv99の部屋と同じようには完璧に片付いていない」ことへ感じる負い目のほうが、圧倒的に強かった。きれいすぎる家へ招かれてドッと疲れるのもそのせいだ。住んでいる家も、働き方や暮らし方も、あるいは潔癖度合いも違うのに、ハウスキーピングには人類共通の絶対的な正解があるかのように信じ込んでしまう。

 でも全員がエベレストに登るわけじゃない。ストレスを減らすことが最優先なら、程よく散らかった部屋でぐっすり寝たほうがいい場合もある。最低40以上とか、だいたい平均60くらいとか、自分の快適さのストライクゾーンを外さないように暮らせていれば、それで十分であるはずなのだ。

 掃除、洗濯、自炊に洗い物、片付けと整理整頓、もろもろの家事を完全に「やめる」わけにはいかないけれど、適度に手を抜いて「やりすぎない」心構えで臨みたい。プライベート空間の中のことですもの、最終的には「言わなきゃバレない」の精神で。

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岡田育
岡田 育(おかだ・いく)
文筆家

 岡田 育(おかだ・いく) 文筆家。出版社勤務を経てエッセイの執筆を始める。著作に『ハジの多い人生』(新書館)、『嫁へ行くつもりじゃなかった』(大和書房)、二村ヒトシ・金田淳子との共著『オトコのカラダはキモチいい』(角川文庫)。最新刊は「天国飯と地獄耳」(キノブックス)。現在は米ニューヨーク在住。このまま生きると、2020年に40歳。http://okadaic.net/

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