働く女子こそ一国一城の主たれ

35歳、働き女子よ城を持て!(1)

 最近、「家が欲しい」という声が、私の周囲で高まっている。

 「気が付くと、スマホで不動産サイトばっかり見てるんです」

 私の周りといえば、だいたいアラサーからアラフィフにかけての年代がほとんど。既婚子持ちはすでに家を持っていて、賃貸暮らしはシングル世帯が多い。

 その日も、次の本のための連載予定の打ち合わせで、東京・大手出版社K川書店に勤める担当M村と顔をつきあわせていたのだが、

 高殿「はぁ~、この先いい時代が来る気がまったくしないですよ。なのに体は年々老いるし、いつのまにか徹夜ができなくなるし」

 いつものごとく、後半はただの女子会になった。

 M村「怖いのが、会社が倒産するとか以前に、自分の体がどこまでもつのか心配で」
 高「本当にねえ。特に東京は、家賃高いもんね」
 M「そうなんですよ! 今はいいけど、この先病気になったら家賃が払えなくなる。ならいっそ買ってしまおうか、なーんて」
 高「買えばいいのでは?」

 思わず、今日特売のサンマ1尾150円を薦めるノリで軽く言ってしまった。

 高「買おうよ、家。自分のお城」
 M「先生はそうおっしゃいますけど、高いじゃないですか」
 高「銀行に貸してもらえばいいのでは? だって、いまローンの利子激安だよ」

 自慢ではないが、小さいころから親の都合で引っ越しを繰り返した私は、不動産の間取りチラシをチェックするのが趣味の母親の影響か、不動産に対する興味が人一倍強かった。20代の時に建て売り一軒家をローンで購入、その後、親のためにマンションを購入、一軒家とマンションの酸いも甘いもふんわり理解したところで、念願の注文住宅を建てた。現在、ローンの返済真っ最中。借金はびた一文減ってはいない。なので、人よりは少しだけ不動産に詳しいつもりでいる。

写真はイメージです

 高「東京に家なら、私も家欲しいよ」
 M「関西におうちがあるのに!?」
 高「だって働きたくない」
 M「…………」

 仕事の打ち合わせで言うことではないのは百も承知で正直に述べてみた。

 高「体壊すレベルでがつがつ働きたくない。だから将来のためにも不労所得が欲しい」
 M「いいですね。イイネを100回くらい押せそうです」

 「不労所得」、いい響きだ。好きな四文字熟語大賞があるなら余裕で1位をとるのではないだろうか。やはりマンションオーナーになって働かずに収入を得られるようになることは、日々余裕のない働きバチにとっては夢なのである。

 高「とくにれ手にあわの生活がしたいってわけじゃないの。私の場合も、なにかあって小説が書けなくなったときに、子供の教育費の足しにとか、せめて生活費とかくらいにならないかなって思うんだよね」
 M「わかります~。切実にわかりますそれ!」
 高「じゃあ買おう」
 M「いやでも、たとえ銀行がお金を貸してくれたとしても、どこにどんな物件を買ったらいいのかよくわからないんですよ」

 独身の契約社員女子に、いきなり東京で家探しは高いハードルだとM村は言う。

 M「実際頭金だってそんなにめてないし、かといって趣味にもお金使えないようなカツカツな生活したくないし。将来結婚するかもしれないし」
 高「なるほどねえ。そりゃたしかにそうだ。選択範囲が広すぎるわりに、条件が多くてどこから手を付けていいかわからないんだね」

 M村の悩みは、そっくりそのまま私の周辺にいるシングル女子と同じである。

 彼女たちはそろってシングル・子供なし・パートナーなし、契約社員またはフリーランスという、一見身軽な身の上である。あくまで外からではあるが、皆とても楽しそうに見える。彼女たちには好きな仕事があり、そして趣味がある。皆近所に住んでなにかあると料理の得意な友人の家に集まり、あるいはいきつけのレストランで乾杯し、家でDVDを見てわいわい楽しむ。

 もちろん、中には、家は家賃でいい派の友人もいる。移住準備ができたら海外で暮らすと言っているバイリンガル女子や、すぐ飽きてしまう引っ越し魔だ。しかし彼女らでも、投資物件としての東京の不動産には興味があるという。

働く女性に“ごほうび”として、自分の城を持ってもらいたい

 高「もし、私がいま独身で子供がいなかったとしても、やっぱり家は欲しいな」
 M「えっ、それはどういう根拠で?」
 高「男も子供も必要がない女子って私のまわりにはいっぱいいるけれど、家が必要じゃない人間はいないから」

写真はイメージです

 このとしになって、生きていくために必要なものはなんだろう、とよく考える。それは、親になり子供を育てているうちに、この子になにが必要か、将来どんな環境に身を置いてほしいかをとことん具体的に想像するようになったからだ。

 生きていくために必要なものはお金、なんてことはだれでもわかっている。そういうざっくりとした一般論ではなく、もっと切実で、お金よりほんの少し身近で、人を救うものはなんだろうと。

 それは、ほめられることではないか、と思う。

 M「ほめられることですか?」
 高「そう、必要な人材だとか会社に都合のいい言葉で縛られるブラックな呪いじゃなくて、もっと生産的な意味でね」

 もし、あなたが孤独でも、自分で家を買ったら、毎日そこへ帰るたびに、あるいは家賃収入があるたびに、家が自分をほめてくれるだろう。会社でつらいことがあってだれも助けてくれなくても、家があなたを受け入れ全肯定してくれる。「おかえり、お疲れ様。おまえはすごい。よくこの東京でたったひとりで家を買ったな、えらい」って。

 実は、関西の家でひとり寂しく執筆しているときも、私はたまにぼんやり天井を見上げて、「私よく家なんて建てたな、偉いな」と自己肯定するのだ。どんなに年齢とキャリアを重ねても、自分を肯定したり承認したりすることはとても難しい。だとしたら、目に見える自己肯定要素があると、少しは生きるのが楽になったりしないだろうか。

 つまり私は一人で生きる女子に、もっと簡単にほめられてほしいのだ。

 M「わかります! 私も家に帰るたびにほめられたい!! 家で目覚めるたびにほめてほしい~!」

 M村の完全なる同意をいただいたので、毎日汗して働いている女子たちのために、この不動産コラムを始めてみようと思う。

高殿円(たかどの・まどか)
作家

 兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。著作に、「トッカン」シリーズ、「上流階級 富久丸百貨店外商部」シリーズ、『メサイア 警備局特別公安五係』『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』、「カーリー」シリーズ、『剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎』『主君 井伊の赤鬼・直政伝』『政略結婚』など、話題作を続々と発表している。13年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。漫画原作も多数。