むしろ後退!? 東京医大不祥事に見る医療現場「女性活躍」への道

スパイス小町

 「#女性差別に怒っていい」などのタグとともに、怒りの投稿がSNSに続々と……。そう、東京医科大の“驚くべき”ニュースのことです。

 同大を巡っては、文部科学省の私立大学支援事業で同大に便宜を図る見返りに、自分の息子を同大に合格させてもらったとして、文科省の局長が受託収賄容疑で逮捕、起訴され、同大の前理事長と前学長が贈賄罪で在宅起訴されました。さらに、医学部医学科の一般入試で、裏口入学の依頼を受けた受験者の得点を不正に加点していたことや、試験の内容にかかわらず、現役と2浪までの男子受験生には一律20点を、3浪の男子には10点を加点し、加点のない女子と4浪以上の男子の合格を困難にしていたことなどが明らかになりました。こうした受験生に対する得点調整は、2006年から続いていたそうです。

女性の合格者「3割超えるとまずい」

 それにしても、東京医大はなぜ、女子受験生を差別していたのでしょうか。同大の学生の多くは将来、大学の付属病院や関連病院で働く医師になります。企業でいえば、将来の社員です。同大の関係者は報道機関の取材に対し、「女性医師は出産などで仕事をやめるケースが多く、3割を超えるとまずいという意識があった」と語ったそうです。せっかく会社の戦力として育てた女性社員が、出産や育児を理由に早々と退職されては困る。企業に言い換えれば、そういったところでしょうか。

裏口入学などの問題があった東京医科大の正門前(東京都新宿区)

 一般企業でも、特に女性の志望者が多いマスコミ業界などでは「筆記試験の成績順に採用するとほとんど女子になってしまうので、面接試験などで男子に下駄げたをはかせている」という話をよく聞きます。

 しかし、就活だけでなく、入試の時点で女性があからさまに差別されていたとは……。米シカゴ大学の山口一男教授は、経済産業研究所のホームページにコラムを寄稿し、今回の東京医大の入試不正について「女性割合の調整は憲法違反・教育基本法違反で募集要項に記して許される問題ではない」と指摘しています。

 内閣府男女共同参画局の調査によると、16年時点で女性薬剤師の割合は65.9%と高い水準にあるのに、女性医師は21.1%にとどまっています。この数字を見れば、「ほかの医大でも女子受験生の合格を抑制しているのでは」と疑ってみたくもなります。

体力勝負、慢性的人手不足の医療現場

 しかし、「東京医大ひどい!」と怒るだけでは問題は解決しません。医療現場とは、医師や看護師など働く人が24時間のコミットを求められる、体力勝負の業界である現状は事実。慢性的な人手不足なので、医師が一人でも産休・育休などで現場から離れたら困るというのが、医療現場の本音でもあるからです。

 過重労働や長時間労働を背景とした「医師の働き方改革」も、今まさに国の課題となっています。女性医師は増えてもどうせ辞めるから、女性は採らない……のではなく、女性医師が増えるのなら、あわせて「働き方」も変えなければいけません。「差別」だけでなく「働き方」から考える観点がないと、問題は良い方向には向かいません。

 「働き方改革あるある」話としては、過重労働や長時間労働を強いられている人はよく「うちの業界は特別だから」と言います。しかし、どんな業界であれ、働いているのはロボットではなく、人間なのは同じです。同じ人間が働く以上、過重労働や長時間労働が特定の業界に特別に許されていいはずはないのです。

「働き方改革」実現で男女のフェアネスを

 それでは、医療現場での働き方をどう変えればいいのか。他業界の事例から、短期と長期の視点で考えてみましょう。

 女性の社会進出は、三つの段階を経ています。

フェイズ1 「24時間闘えますか」の均等法時代】 1986年施行の男女雇用機会均等法で、企業が募集・採用、配置・昇進について男女を均等に取り扱う努力義務と、福利厚生、定年・退職、解雇などについて女性であることを理由とした差別禁止が定められた。女性の社会進出に関する取り組みが前進。

フェイズ2 女性に優しい両立支援で活躍もという「無理ゲー」時代】 少子化の進展などを背景に、企業が仕事と育児の両立を支援する仕組みを強化。子育てをする女性社員は、育児休職や時短勤務などの手厚い支援を受けられる。一方で、出世をあきらめ、子育てをしながら負担の軽い仕事を担い続ける「マミートラック」に入り込む女性も。労働時間による差別を放置したまま、「管理職になれ」「子どもも産め」という風潮で女性のキャリアが「無理ゲー(クリアするのが難しいゲーム)」化していった。

フェイズ3 活躍支援から男女ともにフェアネスに働ける環境整備】 「働き方改革」の推進。長時間労働、過重労働をやめ、誰もが働きやすい職場に。多様な雇用や働き方で、男女ともに自己研鑽けんさんや趣味、育児、介護、闘病と仕事を両立できるようにする。

 現在は一般企業でも、その多くがまだフェイズ2にとどまっているのが実情です。「様々な両立制度があるのに、なぜ女性は管理職になりたがらないのか」と嘆く企業もたくさんあります。しかし、女性の働き方が変わってきていても、男性の働き方が“フリーズドライ”したままでは、家庭ではワンオペ育児、職場では労働時間の長短に基づく差別が生まれ、長時間労働ができない人材は評価されない。結果として「女性活躍」は進まないのです。会社はいくら平等にしてくれても、家に帰ったら家事育児はワンオペという「不平等」では、女性は活躍できません。

 フェイズ3になって、やっと「多様な働き方を許容する周囲の環境」が整います。ここに至って初めて、男女ともにフェアに働けるようになる方向を目指せます。

医療現場にも「働き方改革」が必要だ(写真はイメージ)

 それでは、現在の医療業界はどのフェイズでしょうか。フェイズ1で止まったまま、フェイズ2まで至っていないと思います。ならば、フェイズ2から段階を踏んでいくべきなのか? 確かに短期的な視点では、まずは「両立支援」が必要と思われます。しかし、病院側が両立支援に取り組んでも、女性はそれほど活躍できないでしょう。今のままだと、長時間労働が前提の働き方がA級で、それ以外はB級という枠組みにはまってしまうからです。女性医師の多くが、仕事と子育ての両立によってキャリアに挫折し、病院を辞めるか、マミートラックに入り込むことになります。また育休、時短の人材が増えれば、そのカバーをする人が疲弊します。

 長期的な視点では、フェイズ2をできるだけ短くし、フェイズ3に飛ぶのが早道です。働き方改革で、過重労働や長時間労働が解消されれば、男女ともに梯子はしごを上り下りするような直線的なキャリアだけでなく、移動が多様な「ジャングルジム的キャリア」が可能になります。

採用の多様化、離職後に戻りやすい仕組みを

 先日、日本最大の医学会である内科学会の総会に呼ばれ、働き方改革の話をしました。総会では、すでに働き方改革を実行して、女性も働きやすい環境を作っている病院の事例が紹介されました。女性医師が働きやすい病院は「人材がどんどん来てくれて困らない」勝ち組になっています。具体的には、きめ細やかなシフト制やチーム制を敷き、女性医師が出産などで仕事ができない時には、近隣の開業医とタッグを組んで、長時間労働化を防ぐ。医師でなくてもできる仕事はなるべく医師以外に任せるなど、業務効率改善ための工夫がありました。

 採用の多様性も大事なポイントです。今、増え始めている「短時間正社員」という取り組みなども参考になりそうです。英国の医療現場では、子育て中の女性医師2人が0.5人分のシフトを受け持って働いているケースがあります。

 また、「いったん離職しても戻りやすい仕組み」も大事です。子育てのため医療現場を離れた女性医師が新たに研修などを受けて、再び現場に戻ってもらう。これは一般企業で実施されている「ママインターン」などの制度が使えそうです。医療業界に限らず、改革に立ち遅れている企業は、こうした取り組みをぜひ参考にしてほしいと思います。

 働き方改革に反対する人は、「うちの業界は特別だからできない」と言います。その「特別意識」が、今回の東京医大のような「受験時の性差別」を容認する空気につながるのです。今後の医療業界は入試での「女性差別」を改め、それから医療現場の働き方を持続可能なものに変えていく。今のままでは男性も疲弊して病院から逃げていきます。受験時にチャンスを奪われた女子たちの無念、悔しさに報いるためにも、この機会を逃してはいけない。改革は急務です。

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白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大学客員教授、昭和女子大学総合教育センター 客員教授、東京大学大学院情報学環客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「『婚活』時代」(山田昌弘共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(齊藤英和共著、講談社+α新書)、「女子と就活」(常見陽平共著、中公新書ラクレ)、「産むと働くの教科書」(齊藤英和共著、講談社)、「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ともにポプラ新書)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」(PHP新書)、「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」(是枝俊悟共著、毎日新聞出版)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」を大学等で行っている。

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