「産め、働け、輝け」の圧力から解放されるには

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 政府が推進を図っている「女性活躍」。保育所も増え、子育て支援制度は手厚くなっていますが、相変わらず夫は深夜まで残業し、ワンオペに苦しんでいるワーキングマザーも少なくありません。女性に向けられる「産め、働け、輝け」の圧力に「そんなに無理を言わないで」と言いたくなる女性も多いのではないでしょうか。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)の著者で、「サンデーモーニング」(TBS系)のコメンテーターとして出演している元国連職員の大崎麻子さんに、ワーキングマザーを取り巻く環境について聞きました。

「男性中心の社会でいい」を変える

――共働きが増えていますが、今の豊かな日本は、男性が長時間労働を、女性がケア労働(家事や育児や介護)を担うという分業によって成り立ってきました。そのせいか、いまだにそのスタイルを良しと思っている人が少なくないように感じます。

 「男性中心の社会でやってきてうまくいったのだから、なんでわざわざ変えないといけないの?」という考えを持っている人は多くいます。でも、そのままではダメなんです。最近、「女性の経済的エンパワーメント」が、G7(先進7か国)でもG20(主要20か国・地域)でもAPEC(アジア太平洋経済協力会議)でも最重要課題になっています。OECD(経済協力開発機構)や大手金融機関の調査で、女性の力が発揮された方が中長期的に経済が成長するという結果が出ているからです。

――しかし、ワーキングマザーが増えても、会社側が変わらず、夫が長時間労働を強いられて、ワンオペ状態の人も少なくありません。

 私の知り合いの女性も「全然、会社が変わらない」と嘆いています。しかし、本でも紹介していますが、日本企業の大株主である、世界中の機関投資家は今や、財務情報だけでなく、社員や役員の女性割合、男女間の賃金格差の有無などを指標にして、自分たちが投資している企業は、社員が尊厳を持って働ける環境を作っているのかどうかを見ています。長時間労働やセクハラ、パワハラがまかり通っているような企業は将来性がないと判断され、資金が調達できなくなってしまうのです。私たちの年金積立金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、世界最大の機関投資家ですが、昨年、「女性活躍」が進んでいる企業への投資を進んで行うと発表し、大きな反響がありました。

「今まで大丈夫だったから」は通用しない

大崎麻子さん

――でも、「これまでこのスタイルでやってきたんだから大丈夫」と思っている経営者もまだまだいそうです。

 「今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫」というのは次元が違う話。日本の高度経済成長モデルは、グローバル化と技術革新が進展した現在の産業構造では機能しません。先進性のある企業はすでに対策を打ち、女性と男性がワーク・ライフ・バランスを保ちながら働けるような環境作りを「コストではなく投資」ととらえています。これから5年後、10年後にじわじわと差が付いてくるでしょう。特に日本では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本のスポンサー企業やスポーツグッズなどの調達を行う企業が、「人権」「ダイバーシティ」「女性活躍」といった国際的なスタンダードに合致しているのか、世界中から見られています。

「専業主婦」のリスクを知る

――女性活躍のための施策が進められる一方で、専業主婦になりたいという女性も少なからずいます。

 それが希望なら、そうするのもアリだと思います。ただ、高度経済成長の頃の産業形態で、妻が家庭内のケア労働、夫が外で働き賃金を稼ぐというのが効率的だったので、「夫婦と子ども2人」を標準家庭としてあらゆる制度が作られていました。ところが、終身雇用を前提とした給与体系は過去のものになり、そのような標準家庭は、今は5%にも満たない。各種の社会制度も共働きを標準にしたものに移行してきています。夫の稼ぎだけで一生暮らしていくのは、よほど恵まれていないと難しい。リスクは知っておいた方がいいでしょう。いざという時に食べていけるだけの蓄えがあるというのは、とても大切です。経済力は自分で決断して生きるための根源的な力なので、何がしかの形で確保しておくことは重要です。

 また、それが夫の選択肢を拡大することにもなります。パワハラにあっても、健康を害しても家族のために会社を辞められないというのは夫にとっても大きなリスクなのです。

自分の人生を俯瞰ふかんして

――女性が結婚や出産をしても働き続けることを考えると、ワーク・ライフ・バランスは大きな問題になっています。著書の中で大崎さんは「ワーク=ライフ」として、「有償の仕事(生業)」「無償の仕事(家事・育児・介護)」「ボランティア・地域活動」「創造的な活動」の4つに分けて考えることを提唱しています。ところが、日本のワーキングマザーの生活は「有償の仕事」と「無償の仕事」がほとんど。なかなか趣味やボランティアに時間を割けません。

 ライフスパン、人生軸で考えてみてください。自分の人生を俯瞰して見ることが大切です。今は忙しいかもしれませんが、10年後もそうでしょうか。私自身、大学院在学中に長男を授かり、2歳の時に働き始めました。子どもの食事の世話、保育所への送迎、家事――。その時は、それらが一生続くんじゃないかと思っていました。でも今では、子どもたちは社会人と高校生に成長し、家に帰っても「振り向けば誰もいない」状態(笑)。おしゃべりする時間も少なくなりました。忙しいのは一生続かない。大変な時期は限られています。

――私も今、7歳と3歳の子育てに追われているので、なかなか想像できないです。

 今はできなくても「自分が何をしたいのか」を常に考えておくといいですよ。子どもがいれば地域活動などに関わる機会も出てきます。思い切って参加してみると、いろいろな気づきや学びがあるかもしれません。

大崎さんの四つのワーク(現在)

コツコツ目の前の仕事を

――大崎さんは、子育てをしながら国連で仕事を続け、退職・帰国してからは、シングルマザーでフリーランスの道に進みました。とてもハードに見えますが、「私には無理」と思うことはありませんでしたか?何が支えになったのでしょうか。

 一つひとつの仕事をコツコツとこなして、小さな成功体験を積み重ねていくと、自己肯定感が高まります。そうすると、少し難しそうな課題がきても、「挑戦してみよう」と思えてきます。国連には、緒方貞子さんのようなスーパウーマンも近くにいました。でも、すごいキャリアの人もコツコツ目の前の仕事を誠実にこなして、家ではお母さんをやっている。みんな急に偉くなったわけじゃないんです。それから、皆さん、手を抜くところは抜いています。私は料理は好きだけど掃除は嫌いなので、「清潔な環境に慣れちゃうと、途上国に行けないよ〜、グローバル人材になれないよ〜」とごまかして適当にやっています。

自分の棚卸しを

――日々の仕事が次につながっていくんですね。

 「自分の棚卸し」をしてみてください。どんな実績があって何に強いのか。1年、半年のタイミングで振り返って書きだしてみましょう。ワーキングマザーだけでなく、専業主婦の人もそう。どんな地域活動をやり、得意な家事は何か、どんな教室に行っているのか。どんな人脈があるのか。常に自分を客観視してみてください。そして仕事でも趣味でも、好きなことがあればその勉強をしてみるといいでしょう。今はインターネットでも学べるし、自治体の男女共同参画センターでは様々な講座が開かれています。学び続けることはとても大切。自信を深め、自己肯定感も高めてくれるものだと思います。

(聞き手・読売新聞メディア局 山口千尋、写真・高梨義之)

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Profile プロフィル

大崎 麻子(おおさき・あさこ)

1971年生まれ。上智大卒業後、米国コロンビア大学で国際関係修士号を取得。国連開発計画(UNDP)NY本部開発政策局で、ジェンダーと女性のエンパワーメントを担当。2004年に退職・帰国後、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として政府関係機関やNGOなどで幅広く活動中。東日本大震災の直後から4年間、被災地の女性支援に従事。現在、関西学院大学総合政策学部客員教授、公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン理事、内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員などを務める。

エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力・ 大崎麻子 、経済界(1404円・税込み)