女性を縛り付ける“呪い”を解くためにすべきこと

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 女性は男性を立てないといけない、母親は自分のことを差し置いてでも子どもの面倒を見なければいけない――。誰でも一度は、そんな「呪い」のような言葉を聞いたことがあるはず。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)の著者で、「サンデーモーニング」(TBS系)のコメンテーターとして出演している元国連職員の大崎麻子さんに、女性が呪いに縛られず、自分らしく生きていくために心にとどめておくべきコトを聞きました。

「女性はこうあるべき」という圧力

――著書の冒頭、大ヒットしたテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)で、石田ゆり子さん演じる「百合ちゃん」が「50(歳)にもなって若い男に色目を使うなんて」と、挑発してきた20代の女性に、「自分に呪いをかけないで」と返した場面が紹介されています。これは「若さこそが女性の最大の価値」という「呪い」の一例です。私たち女性は、生まれた時から「女性はこうあるべきだ」という圧力に常にさらされている感じがします。

 日本は、「女性はこうあるべき」「母はこうあるべき」といった社会規範がすごく強く、根深く浸透しています。そして多くの女性は、そこへ自分をどうやって合わせて生きていくか、と考えてしまいます。でも、規範で求められている像と、自分の間にはギャップがある。若い女性たちと話した時に、その多くがモヤモヤした思いを抱いていることを知り、日本でこそ「エンパワーメント」が必要だと思いました。

――「エンパワーメント」は聞き慣れない言葉です。どんな意味なのでしょうか。

 「人生における選択肢を広げ、自分の意思で選び取りながら生きていくための力を身につけるプロセス」のことです。国際社会では、ジェンダー平等と、女性のエンパワーメントは長年の課題になっています。一人ひとりの人間が尊厳を持って生きられるようになるためには、「自分で決める」ということが重要です。それが、自分らしく、幸せに生きるための第一歩です。私は国連で働いている時、途上国の女性のエンパワーメントをお手伝いしていました。

社会に自分を合わせてしまう日本女性

大崎さんが理事を務める「プラン・インターナショナル・ジャパン」のポスター

――大崎さんは、途上国の少女たちの支援活動などに取り組んでいる国際NGO「プラン・インターナショナル・ジャパン」の理事を務めています。貧困の中で過酷な人生を強いられている少女たちを「13歳で結婚。14歳で出産。恋は、まだ知らない。」と表現したキャッチコピーが印象的でした。一方で、日本の女性は、誰にでも勉強の機会が与えられ、進学、就職、結婚相手も自分で選び、決めることができます。

 もちろん途上国に比べると、一見、日本はとても良い社会です。経済的に豊かで、ご飯もおいしく、安心して快適に暮らすことができる。そのせいか、どうやったら社会がもっと良くなるのか、ということを考える機会が少ない。社会を変える動きが起きにくいのです。「社会とはこういうものだから、そこに自分を合わせていこう」となる。途上国の場合は、変えていかないと経済や生活水準が良くならないという機運があるんです。

――日常生活で女性が不平等に扱われていると感じないのですが。

 毎年秋に世界経済フォーラムが発表している各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数を見ると、日本は調査対象144か国中114位(2017年)でした。どんどん順位が落ちています。日本は、企業や行政機関の管理職や幹部職、国会議員など、意思決定の場に立つ女性が圧倒的に少ないんです。得点自体は上がっているのですが、順位は下がっている。つまり、世界中の国々はものすごい勢いで取り組んでいるのです。

――政府は「2020年までに管理職に占める女性割合を30%にする」という目標を掲げています。なぜ日本に女性のリーダーが少ないのでしょうか。

 女性に「管理職になって」と言っても、「いえいえ、私なんて」となってしまう。就職しても、結婚や出産があり、家事や子育てに費やす時間が増えて、管理職になるための必要な職務経験を積んだり、研修や社内外のネットワーキングに時間を割けなくなったりするという事情があります。「女性は控えめであるほうがいい」という刷り込みもあるでしょう。「女性はこうあるべき」という考えや、家事や育児は女性の責任という「ジェンダー役割」をなくさないと、意思決定の場に立つ女性を増やすことは難しくなります。

 また、最近は「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」とよく言われますが、女性には雑用を任せがちだったり、子どもがいる女性社員には負担の軽い仕事を振ったり、男性の部下に対しては詳細かつ厳しいフィードバックをするのに、女性の部下に対しては「良かったよ」など曖昧なフィードバックを与えるといった、上司の側の無意識な行動が、女性の管理職育成の壁になっているという指摘もあります。

その意見に根拠はあるのか

――「女性によるワンオペ育児を賛美しているのではないか」といった批判を浴びて炎上した紙オムツのCMのように、「子育ては母親が担うべき」という圧力がとても強いのを感じます。いまだに「子どもは3歳までは母親の手元で育てた方がいい」と言われることもあり、心が折れそうになります。

 「3歳まで母親の手元で育てた方がいい」とはあくまでも、そう言った人の「意見」です。「LET IT GO(聞き流せ)」の精神でいけばいいんです。私たちは子どもの頃から「人の言うことを聞きなさい」と教育されてきました。でも大切なのは、その意見に根拠があるのかないのか、ちゃんと見極めること。良いところは取り入れればいいし、違うと思ったら聞き流せばいいんです。この考え方は、自分で何かを選択する時にとても大切なことです。

いろんな人の声を聞く

――わかってはいるものの、自分も母親や友人の意見に振り回されてしまうことがあります。

 自分の周りしか見ていないと、全然違う発想を持っている他の人の意見が聞けません。SNSやツイッターで、女性活躍を支援している人などをフォローしていると、「こんな考えの人もいるんだ」ということがわかるし、「3歳児神話」のような「こうあるべき論」が実は根拠が無いということを客観的に示すデータや調査が紹介されていることもあります。そういう形でSNSを活用するのはアリだと思います。

モヤモヤを大事に

――大崎さんは著書の中で、「置かれた環境を変えるためには積極的に声を上げていくことの大切さ」を説いています。

 大学で教えていると、「規範や伝統は変えてはいけない」という考えを持つ学生が多いように感じます。それには、教育の影響も一つにあると思います。昔に比べて体罰などは少なくなりましたが、ルールや規範を守るという意識はとても強いのではないか、と感じます。靴下は白色、ヘアゴムは茶か黒色でなければならないなど、非合理的な校則であっても、それに合わせるように教育されています。そのせいか、環境やルールを変えることをいいと思わない人が増えているのではないでしょうか。

――ルールを変えるよりも、置かれた状況の中で頑張ろうとしてしまいます。

 でも、そうじゃない。規範や伝統に対してモヤモヤしたなら、その気持ちを大事にしてほしい。本当にそうなのか、一歩進んで疑うことが大事。規範や伝統の方がおかしいんじゃないか?と。それがクリティカル・シンキング(批判的思考)です。変えることは悪いコトじゃない。

自己実現だけじゃない

――「モヤモヤを大事に」。すてきな考え方ですね。これまで心にふたをして、考えないように閉じこめてきました。

 SNSを探せば、自分と似た意見の人がいるかもしれません。「保育園落ちた、日本死ね!」もインパクトがありましたよね。世論が盛り上がればマスコミも取り上げて、政治家も無視できなくなります。エンパワーメントとはまさにそれです。「つながって声を上げ、より良い社会を創っていくこと」です。自己実現だけではないんです。環境がそうさせてくれないなら環境を変えていきましょう。「主体的に生きる」とはそういうことです。

――置かれた環境を主体的に変えていくことは、女性はこうあるべきという「呪い」を解くヒントになりそうです。

 「呪い」は日本だけではありません。グローバルにものを見てみましょう。女性のエンパワーメントは世界共通の課題で、各国で試行錯誤しながら取り組まれています。エンパワーメントは幸せな人生の基盤になります。仕事やプライベートを頑張る働くミレニアル女子に知ってもらえたらと思います。

(聞き手:読売新聞メディア局・山口千尋、写真:高梨義之)

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大崎 麻子(おおさき・あさこ)

1971年生まれ。上智大卒業後、米国コロンビア大学で国際関係修士号を取得。国連開発計画(UNDP)NY本部開発政策局で、ジェンダーと女性のエンパワーメントを担当。2004年に退職・帰国後、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として政府関係機関やNGOなどで幅広く活動中。東日本大震災の直後から4年間、被災地の女性支援に従事。現在、関西学院大学総合政策学部客員教授、公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン理事、内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員などを務める。

エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力・ 大崎麻子 、経済界(1404円・税込み)