夫を“ゾンビ”にしないために

インタビュー

 結婚当初はあんなに優しかったのに、子どもが生まれてからは、家事も育児もしない、できない夫。そんな現実に失望して、目の前にいるのに「いないも同然」または「いてほしくない」と、まるで夫を“ゾンビ”のように扱う妻が増えているのだとか。自身もワーママとして働くフリーランス記者の宮本さおりさんが、夫を“ゾンビ”にしないための方策を「育児は仕事の役に立つ―『ワンオペ育児』から『チーム育児へ』」(光文社)の著者の一人、立教大学経営学部の中原淳教授に聞きました。

妻と夫は「先輩と新入社員」の関係

――家事・育児をしない夫が不満という声をよく聞きます。育休中のワーママも「職場復帰後が心配」と。夫をやる気にさせるにはどうしたらいいでしょうか。

 夫は、いわば「育児の新入社員」なのです。新入社員には、最初は「育児のノウハウ」を教えていかなければなりません。そんなときに「どうして、こんなこともできないの、見ていればわかるでしょ」と先輩風が吹かせて接していれば、中長期的には、あまりメリットがありません。

――そうすると、夫はへそを曲げてしまいそうです。

 今は、稼ぎが必ずしも右肩上がりにならない時代です。「妻にも働いてもらわないといけない」と考えている夫は増えていると思います。そのためには、自分も家事・育児を分担しなくてはいけないと理解している。でも、「やり方」、“How”が分からないところもあるのだと思います。

――夫をどのようにして家事・育児に巻き込んでいけばいいでしょうか。

 まず、登る山(目的)を共有し、ビジョンを一致させましょう。例えば、夫婦で話し合って「この子を大学まで出してやりたい」などと教育に関する共通認識を定めます。そこから、必要な費用を逆算して考えてみるのです。

――子どもが小さいと、そこまで考えている夫婦は少なそうです。

 小学校から大学まですべて公立の学校に通わせる場合と、中学校から大学まで私立に通わせる場合では予算が違ってきます。すべて公立でも教育費だけで計1000万円はかかります。今の30~40代の男性の平均年収を見ると、自分一人の収入で家計を支え、子どもを大学まで出すのはかなり厳しい数字です。

――「年収はこのくらい、教育費はこれだけかかる」と、数字で論理的に説明していくという方法ですね。

 そうすると、「妻にも働いてもらわないといけない」という考えに至ります。そして、妻に働いてもらうには、自分が何をすればいいのかを考えるようになるという流れです。

具体的にわかりやすく夫に伝える

――目的を共有した後は、どうすればいいのでしょうか?

 今度は具体的な「どうやって」の部分を考えます。まず、家庭でやるべき家事・育児を洗い出しましょう。そして、分担を決めていきます。

――夫に伝える時のポイントは?

 何をどのようにやってほしいのかを、具体的にわかりやすく伝えること。その方が、夫はやりやすく感じます。

――「すべて言わなくても分かってもらえる」という考えはダメなのでしょうか。

 自分自身もそうでしたが、「食器を洗って」とお願いされるよりは、「水切りかごの中に残っている乾いた食器を食器棚にしまって」「その後、食器を洗って」と細かく具体的に伝えてもらった方が分かりやすいです。夫婦といえども他人。お互いの考えを「100%分かり合える」なんてことはないですからね。

完璧を求めない

――夫が乾いた食器の上にぬれた食器を重ねてしまい、イライラしていましたが、ちゃんと伝えればよかったんですね。

 ここで肝心なのは妻側の気の持ち方。完璧を求めないことも大切です。まぁ、イライラしてもいいのではないでしょうか。ただ、イライラしてしまい、「じゃあ私がやる」と言ってしまうと、妻の仕事はいつまでたっても楽になりません。

――つい、小言を言ってしまいそうになります。

 言いたくなりますよね。そういう時は、小言を言う前に「7秒」待ちましょう。これはアンガー(怒り)のマネジメントとしてよく用いられる手法です。それで言いたい気持ちが抑えられればそれでいいし、どうしても言わなければならないと思うなら、気持ちが落ち着いているので感情的にならずに伝えることができます。

 最初にも言いましたが、家事や育児に関しては、経験値の差から、妻と夫の関係は先輩と新入社員のようになってしまいます。100%思い通りに仕事をこなしてくれる新入社員などいないはず。達成の基準を下げて成功体験を重ねることで、夫(新入社員)のやる気もアップするのではないでしょうか。その経験は仕事にも生かせると思います。
(聞き手=フリーライター・宮本さおり)

あわせて読みたい

セックスレスの夫と一緒にいる意味がわかりません

「夫のいない方が楽」と思う私は薄情ですか

離婚した夫婦の8割がやらなかったこと

ショック! 夫婦で食い違う「簡単」メニューとは?

子作りは先輩が先? 暗黙の「妊娠輪番制」とは

中原 淳(なかはら・じゅん)

 立教大学経営学部教授。同学部ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、リーダーシップ研究所副所長などを兼任。博士(人間科学)。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等を経て、2018年4月から現職。