結果にコミットするための「最後のダイエット」

岡田育「40歳までにコレをやめる」

 幼い頃からずっと自分は他人より太っていると思い続けていた。第二次性徴期にみちみちと音を立てて肉がつき、バレエや陸上に打ち込んでいる同級生たちと並んで歩くと死にたくなった。プロのモデルに求められるような「美容体重」を下回った経験は一度もない。けれど世間一般に言われる「標準体重」を著しく上回ったこともない。健康優良児の範疇と言われ、医者の所見は「異常なし」、だけど自分では絶対に満足できない。そんな、どこにでもいる、ごくごく普通のむっちり体型として生きてきた。

 もしタイムマシンがあったら少女時代の自分に会いに行き、「本ばかり読んでいないで少しは運動をしろ」と叱ってやりたい。まだ若い自分は「えっ、30代の私、お金払ってまで筋トレしてんの!? そんなにヤバいデブなの!?」と驚くことだろう。そうとも少女よ、君が一滴も汗水流さずにスポーツをサボり続けて積み上げた負の遺産は、大人の私が今、カネの力で返済せざるを得ないのだ。

 そしてそれは、美醜のヤバさというよりは、健康のヤバさのためである。前回も書いた通り、私はやたらと疲れやすい体質で、そのことで人生いろいろな損失を被ってきた。大人になってから耳学問で理解したことには、よく食べ、よく動き、脂肪を落として筋肉を増やし、引き締まった身体を作れば、体力がついて疲れにくくもなるらしい。そういうことは、学校の体育の授業できちんと教えておいてほしい。

 というわけで、これまたどこにでもいる、ごくごく普通のむっちり体型の皆様と同様に、私もまた最寄駅前のフィットネスジムに月会費を払い続けてみたり、パーソナルトレーナーに食餌療法を教わったり、あれこれ食べるものを置き換えてサプリを飲んでみたりと、さまざまなお試し体験に大金を注ぎ込んできた。中でも一番私に合ったのは、「この効果は一生モノですよ」と薦められて実行した低炭水化物ダイエットだ。私はその体験を心密かに「最後のダイエット」と呼んでいる。

「暴飲暴食をやめる」を継続

 念のために幻想を打ち砕いておくと、これは低炭水化物ダイエットに大成功したという意味ではない。5年前、プロの指導の下で糖質制限を実践し、半年ほどかけて6キロほどするする痩せた。といっても、今は見事にリバウンドしている。糖質を摂らずに痩せたのだから、ふたたび糖質を摂るようになれば、戻って当然である。

 「ダイエットをする」で考えれば、理想の体型を維持できずにまた普通にごはんを食べはじめ、一度達成した目標体重から数キロ上回っているのだから、これは大失敗だ。しかし「やめる」で考えれば、今なお継続中。私はあれ以来、「ダイエットに幻想を抱くのをやめる」と同時に、「暴飲暴食をやめている」、それで一応、何とか形になっている。一時的に6キロ落とし、また4キロほど戻ったとしても、現在も2キロ分は「結果にコミット」できている、というわけだ!

 屁理屈だと思いますか? 私もそう思います。でも、続けるためには、こう考えるしかない。「早起きをする」という能動の習慣化がどうしてもできなかった私は、「夜更かしをやめる」という考え方で、望んだのとほぼ同じ効果を手に入れた。同様に、また新たな手法のつらいダイエットを再開するよりも、今のこの「暴飲暴食をやめる」を、ずーっと継続させていくほうがいい。

 毎日毎日ブロッコリーと豆腐ばかり食べていた、あんなに厳しい糖質制限を、私はもう繰り返したくはない。期間限定だからこそ続けられたあの苦行が、毎日の義務や死ぬまで続く禁止事項と化した途端、私は今すぐ、ここで、三日坊主どころかたったの三秒で、挫折してしまう自信がある。だから、もう二度と過酷なダイエットせずに済むように、健康を害するほどの「ヤバい」域に達する前に、努めて節制を心がけている、というわけだ。少女時代は肥満になるのが怖かったが、今の私は、ダイエットを再開するほうが、よっぽど怖い。

体重が元に戻っても焦らず

 「あれを最後のダイエットとする」と自分に言い聞かせているのは、そういうわけだ。元に戻った体重を見ても、今はそこまで焦らない。思春期には嫌で嫌で仕方なかった自分の身体も、そんなに憎いと思わない。ただし、身長に対する体重が、ある数値を超えるとそこを境に如実に体調が悪くなるので、それは超えないように気をつけている。

 毎日厳しく節制している人には鼻で笑われるだろうけど、好きなものを好きなときに好きなだけ食べていた私が、外食時に「ごはんおかわり無料」の煽り文句を無視できるようになっただけでも、大進歩なのである。ビールやカツカレーやつけめんは言わずもがな、トマトやかぼちゃ、はんぺんに至るまで、私の大好物は大抵、糖度が高い。だけどシメサバやゆでたん、ハイボールなど、糖度の低い好物だってある。その区別がつくようになっただけでも、素晴らしいことである。

 これはダイエットじゃない。ダイエットだと意識した途端に、挫折してしまう。私はただ「暴飲暴食をやめた」だけだ。その気になれば、食べるものを慎重に選んで、2キロくらいはすぐ落とせる。美容体重には程遠いけれども、そのことをいちいち気に病んだりはしない。

 「このダイエットを実践すれば、効果は一生モノですよ」。そう薦めたトレーナーは、あながち嘘をついていたわけではないのだ。体型が一生変わらない人間なんていないけれど、計画通りに痩せた達成感や、身体を動かすことでついた自信は、私の手元からけっして離れていかない。去年と同じジーンズがなんとかぎりぎり穿けるので、それでよしとしようじゃないか。

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岡田育
岡田 育(おかだ・いく)
文筆家

 岡田 育(おかだ・いく) 文筆家。出版社勤務を経てエッセイの執筆を始める。著作に『ハジの多い人生』(新書館)、『嫁へ行くつもりじゃなかった』(大和書房)、二村ヒトシ・金田淳子との共著『オトコのカラダはキモチいい』(角川文庫)。現在は米ニューヨーク在住。このまま生きると、2020年に40歳。http://okadaic.net/

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