意志が弱くても身につけられる早起き習慣

岡田育「40歳までにコレをやめる」

 「○○をやめる」というテーマでコラムを書き続け、さぞや意志の力の強い、ズバッと物事の問題解決ができる、有能で迷い無き人だろう、と勘違いされているかもしれないし、されていないかもしれない。読者は勘違いしないほうが正しい。初回から繰り返している通り、私が常日頃「やめる」を意識しているのは、なるべく省エネで生きていくためである。

 人にはそれぞれ特性がある。私はその場その場の瞬発力で生きるタイプ。ガッと一気に強い火力を噴かすのは得意だが、長続きしないし、疲れやすい。いざ根を詰めるときには周囲をドン引きさせるほど過集中してしまい、一やれば済む仕上げに十の手間暇をかけ、ものすごいテンションを保って寝食忘れて連日徹夜したりもする。が、そこから急に、徹夜した日数と同じかそれ以上、使い物にならなくなったりもする。

 十日かかる作業の初日から全速力を出すと、三日目くらいで息絶え、残り七日は寝込んでしまう。誇張でなく本当に、いきなり救急車で搬送されたこともある。だから今は、荒れ狂うバイオリズムを極力ととのえ、途中で疲れないように休み休みの工程表を組み、ここぞというとき全力疾走するための体力を温存している。「しなくていいことは無理にしなくてもいいんだ」という考え方は、意志の力や生まれ持ったエネルギーが弱い自分のための、自衛策でもある。

規則正しい夫、ずぼらな妻

 忙しさの波をなだめてならしたり、興奮状態の自分を冷静に引き戻したりすることが一人では難しい。日々を穏やかに過ごす人々からは、「どうしていつもギリギリになってから無茶するの?」とか、「最初のほうで怠けなかったら、最後に忙しくなることもなかったのでは?」と問われる。当然だ。我ながら無能だなと思うし、きっと思われてもいるだろう。

 そんな私が憧れているのは、毎日コツコツ淡々と、地道な反復練習をしたり、心身の健康を保つ習慣を身につけたり、納期前に慌てないよう、用意周到に事前準備ができる人たち。毎日同じ時刻に起き、同じ数のToDoリストをきれいに消化して、同じように一日を終えて積み重ねていくのが気持ちいい、という人たちだ。

 5年前に結婚した夫は、まさにそんなタイプである。起床も食事も就寝も規則正しく、仕事はほとんど午前中に片付ける。料理からダイエット、日用品の買い置きまで、何か工程を管理することが大得意だ。「調子がいい間にあらかたやっつけて、調子が悪い日には休んでいたい」ずぼらな私は、特別な日の大掛かりな大掃除担当。一方の夫は、毎日のこまめな掃除機かけの担当となる。あるいは一緒に始めた筋トレから、私だけ早々に脱落したりもする。

 なんとか足並みを揃えていられるのは、ひとえに寛容な夫のおかげ……であると同時に、「諦める、切り捨てる、削ぎ落とす、やめる」をポジティブに捉える発想法のおかげである。

早起きはつらいが、早寝はつらくない

 じつは夫の几帳面さに感銘を受け、そっくり真似を試みたこともあるのだが、これが面白いほどうまくいかない。たとえば夫は超のつく朝型人間で、目覚まし時計をかけずとも毎朝きっちり同じ時刻に起きる。結婚当初は、私も早起きを心がけていた。ところが、どんなに強力な目覚し時計をかけても、すでに起きている夫を大音量でイライラさせるばかりで、私はぐっすり眠ったまま。まるで習慣化できなかった。

 そこで考え方を変えた。「夜更かしをやめる」ことを心がけたのだ。まだ眠くなくても、読みかけの本があっても、毎日なるべく一緒に早い時間帯に寝る。布団の中でスマホをいじるのをやめ、アイマスクで強制的に目を覆う。あるいは睡眠導入アプリを使ってみる。すると、徐々に睡眠時間が揃ってきて、昼食後や移動中にひどい眠気に襲われることも減り、夜更かしをやめればやめただけ、起床時刻が早くなった。

 こう書いてみると当たり前の話だが、子供の頃から寝起きが悪く、人みな寝静まった深夜のほうが「調子がいい」と夜型生活を好んできた私にとって、この変化は大きい。適切な睡眠の質と量さえとれれば、朝は朝なりに「調子がいい」のだと、この年齢にしてようやく気づくことができたのだから。

 早起きはつらいが、早寝なら続けやすい。「夜更かしをやめる」と言い換えただけで、ほとんど同じ成果が得られるなら易いものだ。もしあのまま「早起きするぞ!」「朝型人間になるぞ!」と目標を掲げ続けていたら、きっと途中で挫折しただろう。自分自身に奪われていたその労力や時間を、自分の元に取り戻していくような感覚だった。

 誰かの素敵な習慣を見て、「羨ましいけど、自分には真似できないな」と途方に暮れることがあったら、その憧れを、裏返して眺めてみるとよい。そして、永久に「する」と固く心に誓うのではなく、一時的に「しない」を試してみる。そうやって小さな達成感を積み重ねながら、意志が弱ければ弱いなりに、望むものと似た成果を手に入れることは、けっして不可能ではないはずなのだ。

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岡田育
岡田 育(おかだ・いく)
文筆家

 岡田 育(おかだ・いく) 文筆家。出版社勤務を経てエッセイの執筆を始める。著作に『ハジの多い人生』(新書館)、『嫁へ行くつもりじゃなかった』(大和書房)、二村ヒトシ・金田淳子との共著『オトコのカラダはキモチいい』(角川文庫)。現在は米ニューヨーク在住。このまま生きると、2020年に40歳。http://okadaic.net/

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