プチ・ファッション断食のすすめ

岡田育「40歳までにコレをやめる」

 憧れの人の、「何をしているか」を真似するのではなく、「何をしていないか」を真似する。うっとり見惚れるほど素敵な女性たちと運よくゆっくり話す機会を得たときには、さりげなく質問してみるといいかもしれない……「最近、何かおやめになったことはありますか?」と。

 着ている服の値段を聞き出しても、絶妙な色したアイシャドウの重ね付けを教わっても、それはその人に似合っているだけで、あなたの体型や肌色にはまるで似合わないかもしれない。毎朝のジョギング距離だけ真似したところで、先に肉体作りができていなければ膝を痛めたりもするだろう。

 仕事術だってそうだ。「その成功を収めるために、何をしましたか?」と聞いてどれだけ正確に後を追いかけたって、既に世の中にある革新的アイディアの二番煎じをするだけで終わってしまう。もし本当にあの人と同じようになりたいのなら、あの人とはまったく別の、独創的なアプローチを考えて、それを「する」必要がある。

 一方で、プラスの真似ではなくマイナスの真似、しないことのルールならば、そこまで悩まず、すぐに取り入れることができるだろう。惰性の習慣を断ち切れば、そのぶん、時間やお金といったコストも削減されるわけだから、余ったその時間やお金を、自分らしく生きるための革新的かつ独創的な「する」考え事に費やせばよい。

活躍の機会がない服の存在明らかに

 イラストレーターの松尾たいこさんが「一年間洋服を買わないチャレンジ」を提唱して本を出している。いわゆる「ファッション断食」だ。タイトルだけ見ると難しそうだが、細かく読むといろいろ「逃げ道」が用意してある。これなら私にもできるかな? と試してみたところ、たしかに、だいたい100日くらいは続けられた。

 新しく買わないと決めて以降、着回しについて真剣に悩みはじめると、クローゼットにあってどうにも活躍の機会がない服たちの存在が、徐々に明らかとなる。触ってみて「ときめき」を感じようが、古着屋で高く売れそうだろうが、今ここで鏡の前に立って大変困っている自分の助けには、ならない服。一枚で着られるように見えて、実際にはインナーや小物や靴にものすごく工夫を仕込まねばサマにならないおめかし服。リラックスしたい休日に着こなそうと思いつつ、そんな日がいつまでも訪れずむしろストレス源になりかけている服。

 かたや、いま足りていないのはこんな素材でこんな着丈のトップス、などと必需品の条件も具体的になる。他の服を着るために、ブランドなんかどこのでもいいから紺色の半袖Tシャツだけは絶対必要だ、と近所へ買いに走ったのが、だいたい100日後くらいだった。この夏はこの色のトップスが、この冬はこの形のパンツがマストバイ、なんて宣伝文句に踊らされるのとは、まるで違う視点の買い物だ。

 こうなってくると、お手本にした松尾さんのファッション哲学やコーディネート術は、もはやあんまり関係ないのだった。これは過去の私と未来の私の間でだけ完結する間違い探しゲーム。大好きな服がどっさり吊されたクローゼットの中で、エラーが起きている箇所を見つけたら、そこを「引き算」で消していく。流行に敏感なオシャレな人たちとそっくり同じ服をたくさん買う、といったプラスの真似では、ここまでの学びは得られなかっただろう。

「しない」の真似の効果実感

 「する」とは違う「しない」の真似は、丸ごと全部を言われた通りに実践せずとも、こうやって効果を実感できるのがよい。私も100日のお試し体験ですっかり満足してしまい、一年チャレンジまでは、まだしていない。あるいは今後もしないのかもしれない。それでも達成感はある。

 正直に言うと、相変わらず、どうでもいい服をつい何着も買ってしまう癖は抜けていない。ダイエットが終わるとまた太ってしまう、というのと同じだ。ただ、試着室の中で「もし今、あの100日チャレンジの最中だったら、どうするだろう?」と自問するようにはなった。この服は、あの慌てて買った、紺色の半袖Tシャツと同じくらい活躍するだろうか? 大抵の場合、答えは「NO」で、衝動買いがだいぶ抑えられている。

 永遠に一着も服を買わないで生きていく、なんて誓いは立てられっこないのだが、「いざとなれば、またちゃんと期間限定の『断食』をすればいい」と思うだけでも、クローゼットの風通しがよくなる。もしも誰かに質問されたら、ドヤ顔で言いふらしてしまいそうだ。「最近、意識して服を買うのをやめてみたのだけど、あれはなかなかいいわよ」と。

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岡田育
岡田 育(おかだ・いく)
文筆家

 岡田 育(おかだ・いく) 文筆家。出版社勤務を経てエッセイの執筆を始める。著作に『ハジの多い人生』(新書館)、『嫁へ行くつもりじゃなかった』(大和書房)、二村ヒトシ・金田淳子との共著『オトコのカラダはキモチいい』(角川文庫)。現在は米ニューヨーク在住。このまま生きると、2020年に40歳。http://okadaic.net/

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