セクハラ辞任で歴史変わった! リスク軽視が命取りになる理由

スパイス小町

 女性記者へのセクハラ疑惑で財務省の福田淳一次官(当時)が辞任したという報を受けたとき、私は、日本のジェンダー平等やセクハラ問題の歴史上、大きな石が動いたと思いました。財務省は会見で「セクハラ行為は被害女性の人権を侵害する行為で、決して許されるものではないと考える」と謝罪しました。「セクシャル・ハラスメント」という言葉が新語・流行語大賞になったのが1989年。それから約30年後に起きた今回のケースは、日本のセクハラ問題における、大きな分岐点だったと思います。

 「セクハラは人権侵害。決して許されない」という「建前」の整備がやっと始まったのです。欧米のように建前が浸透しているはずの国でも、セクハラはなくならず、女性たちが自らセクハラ被害を告白する「#MeToo(私も)運動」が大きなムーブメントになりました。しかし、日本では建前すら整備できていなかったのです。

 建前が変われば、人の行動も変わります。

 前財務次官のセクハラ問題が発覚してから、テレビの報道番組で著名な女性アナウンサーが「自分もセクハラされた」と打ち明けたり、セクハラ被害者に『ハニトラ(ハニートラップ)じゃない』と発言した大物芸人に反論したりするようになっています。会社員である女子アナが、メインキャスターであるタレントに反論するなんて、以前のメディアの空気の中では考えられないことです。

 セクハラ問題が議論されると、「同じことをしても、キムタク(木村拓哉さん)や福山(雅治さん)ならいいんでしょう? イケメンならいいんでしょう?」などと、セクハラ問題自体を軽く扱い、 “いじる”のが定番です。しかし、さすがにこうした報道もやめたほうがいいのではないでしょうか。「時代は変わった」のですから。

 「セクハラされるほうにも非があった」と被害者を責めるような意見もよく聞かれます。実際にこの話題になると、娘を持つ父親でさえ「(セクハラされるような場所に)行かなければよかったのに」などと言う人がいるのです。それも、そろそろやめにしましょう。被害者をたたくのは二次被害です。

 最近では、人気グループ「TOKIO」のメンバーが女子高生に対する強制わいせつ容疑で書類送検されました(その後、不起訴に)。日本ではこれまでも、セクハラや性暴力にまつわる事件が表面化すると、勇気を出して声を上げた被害女性が「夜飲みにいった時点で、悪い」「ハニートラップでしょう」「(男性の)家に行く方が悪い」などと叩かれてきました。とりわけテレビは、影響力が大きなメディアです。タレントなどの発言が二次被害を拡散することもある。報道する側も、例えば北朝鮮問題をテーマに取り上げた時には北朝鮮の専門家を呼ぶように、セクハラ問題を扱うのなら、ジェンダー問題の国際的な専門家を番組に呼ぶべきだと思うのです。

セクハラとパワハラは同根

 セクハラは、メディアの問題だけでなく、日本のリーダー層の多様性のなさと、それがリスクにつながっているという大きな問題がベースにあります。特に日本社会のパワーバランスは男性に偏っているので、セクハラとパワハラは同じ根っこにあります。

 なぜ今まで、セクハラやパワハラの多くが軽く扱われてきたのでしょうか? それは「仕事>セクハラ・パワハラ」であり、「仕事>人権」だからです。

 掲示板サイト「発言小町」にも「セクハラ発言した人が昇格 」というタイトルの投稿がありました。

同僚からのセクハラ発言がつらいと会社に相談した女性のトピ主。ところがその後、トピ主さんは異動で職場を離れることになり、セクハラ発言をした当人は昇格するといううわさを聞いたそうです。「聞いたことを上司に話したら、『気にするな』と言われて終わりました」とトピ主さんはつづっています。

 こんなふうにセクハラは「耐えられない軽さ」で扱われてきたのです。しつこいセクハラ発言で体調を崩したというトピ主さんに対し、「トピ主は会社の利益に貢献しているのでしょうか?(中略)もう一度言いますが、会社にとって大事なのはトピ主の体調ではなく利益です」というレスがありました。まさに「仕事・利益>セクハラ」のよい例です。

 セクハラをする人は本当にセクハラを軽く見ています。前財務次官も、女性との会話について「言葉遊び」という表現を使って批判をかわそうとしました。自分が今まで積み上げてきた業績や地位に比べて、ほんの些細なことだと思っている。そんな些細なことで自分の地位が揺らぐとは思っていなかったのでしょう。しかし、福田前次官は、世論の厳しい批判に抗しきれず、4月18日、辞任を表明しました。「4.18」で事態は変わったのです。

「セクハラをする人」は「仕事ができない人」

 では、何が変わったのか? 「仕事ができる人だからセクハラも許される」ではなく「セクハラをするような人は、そもそも会社や組織にリスクをもたらす人。つまり仕事ができない人」という評価になるのです。

 自分の働く会社はどうか、ぜひ考えてください。メディアだけでなく、日本の企業のどこにもハラスメントはあります。今までは、被害者の多くは自分を責め、また「声を上げても、かえって叩かれる」と黙って我慢してきました。マジメに語れば「めんどくさい」と思われてしまいます。

 しかし今や、多くの女性たちが声を上げています。または声を上げた人を応援し、寄り添おうとしています。だからこそ、この流れは止まりません。

 どこの職場も、今のタイミングでハラスメントの調査をしてほしいと思います。それも、外部委託による無記名の調査をしてほしい。内部調査では、会社が信頼されていなければ、誰も正直には答えません。まずはトップが「被害者を守る」と宣言してほしい。ある企業のコンプライアンス担当者が「思いきって調査をしたら、ぶわっと出てきた。今は対応に追われている」と言っていました。

 今まで言えなかった分が言えるようになった。きっと驚くほどの事実が出てくると思います。しかし、このリスクをもう軽く見ることはできません。セクハラ問題は、そんな新しい時代に入ったのです。

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セクハラ発言した人が昇格

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白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大学客員教授、昭和女子大学女性文化研究所客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「『婚活』時代」(山田昌弘共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(齊藤英和共著、講談社+α新書)、「女子と就活」(常見陽平共著、中公新書ラクレ)、「産むと働くの教科書」(齊藤英和共著、講談社)、「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ともにポプラ新書)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」(PHP新書)、「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」(是枝俊悟共著、毎日新聞出版)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」を大学等で行っている。

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