妊娠・出産に順番制……そんな職場は過酷なディストピアだ!

スパイス小町

 保育園で働く妻が妊娠したため、園長に「子どもができて、すみません」と謝りに行った――。ある男性が全国紙に投稿したエピソードが、海外にまで飛び火するニュースになりました。その保育園では「女性保育士の間で、結婚・妊娠の順番が決まっている」といい、男性は順番を破って子どもが「できちゃった」ことを謝罪したのです。

 この保育園のほかにも、ある新聞記事によれば、女性社員の「出産・育児ローテーション表」を作成して順番を決めている化粧品関連会社もあるのだとか……私はもうあきれてしまいました。

 この件を知って最初に思ったのは「どんなディストピア?(ユートピアの正反対の社会)」でした。動画配信サービス「Hulu」で今、アメリカのドラマ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」が人気です。権力者によって妊娠・出産が管理されている近未来を描いた「ディストピアもの」のドラマです。子どもを産んだ経験のある女性たちは捕らえられ、権力者の不妊の妻の代わりに子どもを産む「メイド」として、権力者の家に派遣される。反抗したら、強制労働のキャンプに送られるのです。

 このディストピアなストーリーをすぐに連想してしまいました。結婚や妊娠の順番を管理されるのは、もちろんマタハラですし、人権侵害です。にもかかわらず、ツイッターには「『プロジェクトが終わるまで妊娠しないでよ』と言われた」「『新婚です』と言ったら面接先の保育園にキレられた」「(小学)1年と6年の担任時は妊娠しないようにと言われる」といったつぶやきがたくさん寄せられています。

産みたくても産めない環境

 しかし、その保育園を責めるだけでは問題は解決しません。保育、医療、介護、美容、アパレル、化粧品といった女性の多い職場では珍しい話ではないのです。女性だけで仕事をまわす職場では、上司が妊娠・出産を「管理」しようとするディストピアな場面もあれば、女性たちが「融通し合う」場面もあります。いわば「忖度」です。

  「今年は育休が2人出たから、自分はもう無理かなあ」などと、自分で忖度して遠慮してしまう。産みたくても産めない環境があるのです。

 しかし、妊娠を望んでいる人にとっての「一年、一年」がどれくらい大事か、女性ならわかっているはずです。

 こうした事態は、企業が「産休、育休取得者は必ず出る。しかし、いつ出るか、誰かは管理できない」という考えをもとにした経営をきちんとしていないから起きるのです。「子育てしながら働く社員が出る」という前提で経営に「ゆとり」を盛り込まないから起きるのです。

 経営者からしたら、「ああ、また育休が出ちゃった。これで人が足りなくなる」という恐怖が常にあるわけですね。しかし、経営者が「妊娠する人=マイナス」と捉えていれば、それは職場に伝わり、女性同士の不毛な対立をも招きます。

「お妊婦さま」に気遣い

 掲示板「発言小町」にもこんなトピがありました。

 「マタハラと言われそうで怖い毎日」と題するトピを投稿した女性は、中小企業で働き、職場には事務職の女性社員が3人。その中に、妊娠5か月の同僚がいるそうです。その同僚は仕事を休みがちで、出社した時には「色んな人に私妊娠してるから辛いですオーラを出しまくって仕事している」といいます。

 「妊娠したことはおめでたいし、頑張って欲しいと思う反面、仕事は続けるの? 辞めるの? 続けるならどのくらい休むの? 聞きたいけど、聞けません。最近は、言った方が悪くなるご時世です。妊婦は守られて当たり前」とトピ主さんは打ち明けています。

 トピ主さんの同僚は、いわゆる「お妊婦さま」状態のようです。私はこの言葉も嫌いですが、トピ主さんがつい愚痴りたくなる、職場の環境はもっと嫌いです。

 トピ主さんが「どのように割り切ってこれから仕事していったらよいか、ガラスのような妊婦さんにどのように接していったらよいのか、経験者の方からご意見をお聞きしたいです」と問いかけたところ、こんな意見が寄せられました。

 「できれば、子供のいる人同士で助け合ってくれたらいいなぁと思う。子供のいない家庭は、お互い様ではないので。こんなこと書くと、将来の税金を払うのはこの子達と怒られそうだけど(笑)」 

 しかし、今の時代はもはや「子どもを産む時は、お互いさま」は通用しなくなっています。

 また、「妊婦さんの今後が知りたいなら、本人には聞かずに上司に確認。ハッキリさせるのは上司の仕事。仕事の量を取捨選択し適正化しましょう」という冷静な意見もありました。女性社員の妊娠を巡って職場がギスギスしてしまうのは、あきらかに上司の問題。社員同士がもめる必要はないのです。

社員の妊娠は「リスク」や「迷惑」ではない

 それでは、企業は社員の妊娠をどう考えればいいのでしょうか? 妊娠は企業にとって「リスク」なのでしょうか? これは、「お互いに融通してね」ではなく、経営者がきちんと考えなければいけない問題ですね。

 国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口」(2017年推計)によると、50歳までに一度も結婚をしたことがない人の割合を示す「生涯未婚率」は、2000年生まれの女性で18.8%と推計されています。

 単純に考えたら、これから入社する女性たち5人のうち4人はいずれ結婚するということ。その全員が産休や育休を取る可能性もあります。また、男性だって育休を取る時代です。そのことが経営計画にちゃんと盛り込まれているでしょうか?

 企業に有給の育児休暇を義務づけていないアメリカでは最近、こんな動きが出てきています。全米一、約150万人の雇用者数を誇る小売り最大手ウォルマートは今年3月、従業員向けの有給育児休暇制度を設けました。出産した女性従業員は10週間、出産した女性の夫やパートナーも6週間。一方、やはり有給育児休暇制度があるマクドナルドは、管理職でやっと1週間です。

 ウォルマートはこの制度を「従業員への投資」だと説明しています。「経営陣が従業員に投資すれば、彼らも会社に努力を注いでくれる」というのです。企業が社員の妊娠を「リスク」や「迷惑」ではなく、「応援すべきこと」としてくれたら、社員だって「会社のために頑張ろう」と思ってくれるはずです。

 私の友人が経営する会社では今年になって、初めての育休者を2人出しました。女性だけの小さな会社ですが、若き女性社長は「うちもついに『育休を取って大丈夫』と思ってもらえる会社になったんだ」と心から喜んでいました。そして、そこで働く女性たちも「こんないい会社がなくなったら困る。頑張ろう!」と、仕事にいっそう熱が入るようになったそうです。

女性への育児押し付けは限界

 女性にだけ「育児」を押し付けるのも、もう限界です。今のところ、女性の多い職場だけが、育児の負担を引き受けていると言って過言ではありません。いつも友人の女性社長は「なぜパパの会社は何もしないのか?」と愚痴を言っています。

 男性が育児を半分シェアしてくれたら、女性が多い会社にとっても公平です。また、「育児=仕事にはノータッチ」という風潮も、育児と仕事との両立を辛くしています。昨年来、「子連れ会議OK」のタグが流行りましたが、BBC(英国放送協会)は、記者が子連れで取材する様子をツイッターに上げています。BBCの日本人記者・大井真理子さんは、臨月の大きなお腹でキャスターをしている様子を取材されていました。万一スタジオで破水した場合の緊急マニュアルも、スタジオのあちこちに貼ってあるそうです。これがまさに「リスク管理」というものですね。

 子どもができたら一時的にせよ完全な「仕事場からの退場」を促す日本の空気は、「土俵に女性を上げない」空気にとても似ています。

 そして、新入社員のみなさん。もし「妊娠はローテーションで決まっている」という会社に入社したら、それは経営者や上司が「妊娠をリスク」と思って嫌っているのです。学ぶところは学びながら、さっさと転職に向けて活動しましょう。

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マタハラと言われそうで怖い毎日

白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大学客員教授、昭和女子大学女性文化研究所客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「『婚活』時代」(山田昌弘共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(齊藤英和共著、講談社+α新書)、「女子と就活」(常見陽平共著、中公新書ラクレ)、「産むと働くの教科書」(齊藤英和共著、講談社)、「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ともにポプラ新書)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」(PHP新書)、「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」(是枝俊悟共著、毎日新聞出版)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」を大学等で行っている。

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