日本のワーキングマザーが感じている「罪悪感」の正体は?

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 子育て真っ最中の自分の体験を踏まえ、日本の仕事と子育ての両立事情を「ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常」(毎日新聞出版)で紹介した明治大学教授の藤田結子さん。日本の働く母親は、ヘトヘトになるほど仕事も家事も育児もこなしているのに、なぜか「罪悪感」を抱く人が多いと指摘します。楽になるために何が必要なのかを、聞いてきました。

SNSで広がった「ワンオペ育児」

日本の仕事と子育ての両立を研究している藤田結子さん

――母親が一人で子育てを担う「ワンオペ育児」は、昨年の流行語大賞にノミネートされるほど、よく耳にするようになりました。

 SNSという道具を得て、母親たちだけのコミュニティーで話していたことを、公共の場で見える形で発信できるようになったのが、2010年代に起きた大きな変化です。

 SNSで育児の話は盛り上がるんですよ。これまで自分一人のつらさだと思っていたのが、リアルタイムでつながって「自分だけじゃなかった」「こんなにたくさんの人が同じ目にあっている」と気づく。自分たちのつらさを「見える化」して社会問題にした、という意味で、「お母さんたちのアラブの春」とも言われています。

6歳未満の子を持つ夫婦が家事・育児関連に費やす1日当たりの時間(2016年)

――藤田さん自身、5歳のお子さんがいて、出産・子育てをきっかけに、仕事と子育ての両立についての研究を始められたんですよね。

 研究対象と一緒に生活しながら現場に入って調査をするエスノグラフィーが私の専門。海外の日本人を研究してきたのですが、妊娠・出産で予定が変わり、日常的にママ友たちと話しているうちに、意外とこの実情は語られていないなと思って。実際に研究を始めて、昔の文献などを調べていると、日本の子育て事情には変わっていることもあれば、驚くほど変わっていないこともあるな、と感じています。

育児に手を抜けないという圧力

――変わったことと言えば?

 1980年代ぐらいでも4~5歳の子どもたちだけで外で遊んでいるという記述がある。今の首都圏では見ない光景ですよね。全体的に家電の自動化など家事にかける時間は減っているのに、母親が育児にかける時間は逆に増えているんですよ。子どもの数が少なくなっていることもあって、子育てに手を抜いちゃいけないという圧力も強くなっているのでは。

――変わらない点は?

 性別役割分業に対する意識ですね。男性は仕事を頑張り、家庭は妻だという意識が根強く残っていて、共働きが増えているのに、女性が子供を育てて、家事もして、フルタイムで男性並みに働いている。「父親も育児に参加したほうがいいですか」と聞くと、イエスと答えるけれど、「男性は仕事を頑張るべき」への答えもイエス。新しい価値観を取り入れることはできるけれど、古い価値観を捨て去るのが難しいんです。

――子育ての責任を母親が一人で背負っているように感じる時もあります。

 今の母親は仕事もしなきゃいけない、子育ても家事もきちんとしなきゃいけない、すごく大変ですよね。親戚や地域ぐるみで子育てをしていた昔とも違うし、ベビーシッターを使ったり、中華圏のように祖父母が面倒を見てくれたりする同時代のほかの国とも違う。温かくて手の込んだ食事を食べさせるなんて、海外からみれば丁寧で高度な家事・育児をしているのに、私はダメな母親なんじゃないかと不安に思っている。それが日本の特殊な点かもしれません。

専業主婦全盛時代と比べてしまう

――なぜ罪悪感を抱いてしまうのでしょう。

 自分たちの世代の母親は、専業主婦全盛時代で、アートな領域と言えるほどの家事や育児をしていた。そこと比べて、あんな風に自分はできない、と思ってしまうんですね。家事や育児にかけることのできる時間も違うし、出産してから働き続ける女性の割合も増えている。お父さんとお母さんの役を一人でやって、両方ともできないと自分を責めている。現実問題として無理ですよね。

 上の世代のロールモデルとして、仕事も家庭もばっちり充実した女性がメディアで紹介されますが、実は親が全面バックアップしている恵まれた人も多い。普通の人が「私、手抜きでもこんなにやれています」といった方がみんな安心するんじゃないかな。

――ワンオペ育児の解消には何が必要なんでしょうか。

 社会の仕組みや意識が変わっていないのに、それを個人の努力でなんとかしているのが問題だと思うんですよね。会社も社会もケア責任のないフルタイムで働いている男性モデルで動いているので、働き方改革と言っても、会議が平気で夕方に設定されたり、周りが残業していると帰りにくかったりする。「それだと困る」と、子育てをしている当事者が声をあげて、海外で先行しているようにテレワークやフレックスタイムなど働きやすい形に変えていかなきゃいけないと思います。

 子育て中の母親にインタビューをすると、夫だったり、会社だったり、みんな何かしらの不満を抱えて、苦しんでいる。男性はとにかく早く帰宅し、会社の上司も帰宅を促すこと。未就学児の父親の平均帰宅時間が20時台で、4割は21時以降の帰宅という現状では、つらいですよね。男性も子育てで人生の充実感を得られるし、母親も責任を一人で抱え込まないよう変わった方がいい。社会全体でもっと実態にあわせた対話や議論が必要なのかもしれません。(聞き手・大森亜紀)

藤田結子 

 明治大学商学部教授。東京都生まれ。慶応義塾大学文学部卒。アメリカ・コロンビア大学大学院で修士号、イギリス・ロンドン大学で博士号を取得。2016年から現職。おもな著書に「文化移民―越境するの若者とメディア」「ファッションで社会学する」など。

明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト「Meiji.net」でも藤田結子さんのコラムを発信しています。