「あたしおかあさんだから」炎上騒動で見えた「変えるべきもの」

スパイス小町

 絵本作家ののぶみさんが作詞し、横山だいすけさんが歌った「あたしおかあさんだから」という曲がネット炎上しました。「母親にだけ我慢を強いて、それをよしとしている」という炎上理由は、昨年、育児に奮闘する母親の姿を描いたベビー用品のCMが炎上したケースと、とても似ています。

 「あたしおかあさんだから」の歌詞はこんな感じです。「あたし おかあさんだから 眠いまま朝5時に起きるの」「大好きなおかずあげるの」「あたしよりあなたの事ばかり」

 お母さんの大変な毎日を応援したいという意図だったということですが……。しかし、お母さんの現状を描き、それを賛美するだけで終わってしまった。お母さんにだけ、女性にだけ我慢を強いる……それは確かに「リアル」であっても、そのままでいいのでしょうか? 

 ベビー用品のCMも、大変な思いをしているお母さんのリアルな日常を描いたまではよかった。ところが、「じゃあ、みんなどうすればいいの?」という呼びかけではなく、「その時間が、いつか宝物になる」というテロップを映して終わってしまった。だから、「ワンオペ育児を賛美するもの」として炎上してしまったのです。

ユーモラスな替え歌も増殖

 掲示板サイト「発言小町」にも、「『あたしおかあさんだから』論争」と題するトピが立ちました。「まず、自分の母がこういう心境で子育てしていたとしたら『押しつけがましいな』と思うでしょう」「あの歌は、『母親になって頑張ってる私、エライ!』というポエム。議論するものじゃないと思います」「自分の欲望を我慢して『おかあさん』として生きることだけが、女性として最上の生き方だと言われているみたいで、なんか違和感があるんですよね」。小町ユーザーからは多様な意見が寄せられています。

 ネット上では、この曲が炎上しただけにとどまらず、大喜利のように「#あたしおかあさんだけど」とか「#おれおとうさんだから」といった替え歌が増殖しました。

 「#あたしおかあさんだけど 自分の好物がまず優先 子供の好き嫌いとか関係ない」「#あたしおかあさんだけど 子供以上に仮面ライダー好きだし 子供以上にゲームするし 子供にお絵描きして『ねえ見て見て上手に描けたよ~!』って子供に言ってる」「#おれおとうさんだから 上司の嫌な顔見ながら 有給届 おれおとうさんだから 運動会 がんばって走るよ」

 ネット炎上は確かに後味が悪いものですが、こうした多くの人たちのユーモアのおかげで、粋な「炎上騒動」になったのではと思います。

家庭でスルーされる「パパ」の存在

 しかし私は、今回の騒動をきっかけに、「なぜ、こんなにもママやパパは大変なのか?」「それは子どもを育てるために当たり前の我慢なのか」をちょっと考えてみたいのです。

 ママに我慢をさせ、パパを大変にさせているのは、何なのか? それは日本の会社や、社会そのものでもあるかもしれません。

 ワーキングマザーや、まだ子どもがいない働く女性が「働き方改革」の提案をするプロジェクトが増えています。でも、その内容は「女性だけが頑張って生産性を上げる」というものが多いのです。例えば、「終わりの時間が決まっているから、仕事の優先順位をよく考える」や「移動の時間も走る」。そうすると、ママたちの生産性はどんどん上がります。家事や育児にしても、女性たちの「今日を乗り切るワザ」はどんどん磨かれていきます。

 発言小町には、こんなエピソードをつづったトピもありました。「風邪の子どもを一人で家に置いていけず、買い物に連れていったら、周りの人に『子どもがかわいそう』と白い目で見られた」。レスに目立つのは「なぜネットスーパーとかを使わないの?」「ここの宅配の定期便がおすすめ」といった、女性同士の知恵の共有です。

 それはそれで素晴らしいのですが、「パパがちょっと買い物して、帰ってきてくれたらいいのにね」という話は出てきません。育児も家事も、そして買い物すら、「パパ」という存在はスルーされています。こうした状態が続くと、ママたちは「家庭外家族」のような仲間を作って、パパ抜きで家庭を運営していくようになります。

 じゃあ、パパたちは何をしているのか? それは一生懸命、仕事をしているのです。炎上の背景にあるモヤモヤは、「女性は子どもができたら生活が変わるのが当たり前」「男性は変わらなくていい」という不公平感ではないでしょうか?

変えるべき本当の“ラスボス”

 パパたちが変わらない、変われないのは会社のせいでもあります。もし今回の炎上騒動に「#オレ日本の会社だから」というタグができたら、どうだったかしら? 「オレ、日本の会社だから、女性の両立応援するよ。育休も時短も、法律よりも長く取れるよ。でも男の働き方は変えられない」「オレ、日本の会社だから、女性の活躍を応援するよ。管理職になってほしい。でもパパの働き方は変えられない」。そんなフレーズが並ぶのではないでしょうか。

 もし女性が「パパにも子育てをしてほしい」と思ったら、本当に変えなければいけないのは「パパの上司」の意識なんですね。女性が社会で活躍するために、変えるべき本当の“ラスボス”は「女性の意識」なんかじゃない。「パパの上司」が本当の“ラスボス”なんです。

 子育てをしている女性と、していない女性、している男性だけの世界で、「あたしおかあさんだから」の炎上騒動は起きました。でも本当に変わらなきゃいけないのは「子育ての外の世界」なんです。

発言小町のトピはこちら↓ 
「あたしおかあさんだから」論争

白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大学客員教授、昭和女子大学女性文化研究所客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「『婚活』時代」(山田昌弘共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(齊藤英和共著、講談社+α新書)、「女子と就活」(常見陽平共著、中公新書ラクレ)、「産むと働くの教科書」(齊藤英和共著、講談社)、「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ともにポプラ新書)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」(PHP新書)、「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」(是枝俊悟共著、毎日新聞出版)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」を大学等で行っている。

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