子育て中の女性は大変だから…「無意識の偏見」を考える

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配慮が偏見につながる

 ダイバーシティー(多様性)の認識が広がり、女性やシニア、外国人、障害者など、誰もが活躍できる社会を目指して法律や制度が整ってきた。一方で、誰もが意識しないまま抱いている固定観念や思い込みが、意外な壁になっているという。「無意識の偏見」に気づき、本当の多様性を目指そうという動きが進んでいる。

企業の研修など拡大

 「フレッシュなアイデアが欲しいから若い社員を起用したい、などと言っていませんか。年配の人でもフレッシュなアイデアを持っている人はたくさんいる。年齢による偏見です」

 東京海上日動火災保険(東京)で昨年11月、グループ各社の社員が出席して「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」を学ぶ研修が行われた。無意識の偏見とは、「子育て中の女性社員は大変だから、責任の重い仕事を任せないようにしよう」などと一面的に考えること。あからさまな悪意や蔑視べっしではなく、「かわいそうだから配慮しよう」などと、よかれと思っているだけに気づきにくい。

 しかし、責任のある仕事を経験させてもらえず、昇進や昇格につながる機会も与えてもらえなければ、社員は意欲を失ってしまう。出席者による意見交換では、「子育て中の女性に配慮してきたつもりだったが、活躍の機会を失わせたのかも。本人の意向を確認すべきだった」などの声が上がった。

「無意識の偏見」について、気づかなかった経験や失敗を語り合う東京海上日動グループ各社の社員(東京都千代田区で)

 空調メーカーのダイキン工業(大阪)は、社員の聞き取り調査をもとに、「女性はしんどい仕事をする必要はない」といった管理職の無意識の先入観や苦手意識を把握。社員研修に盛り込んで意識変革を図っている。現在はグループ全体で障害者雇用の拡大をめざしていることから、研修などで理解を進めるとともに「障害があるからといって、対応は一律ではない」など、先入観に注意を促している。

 無意識の偏見を解消する重要性に多くの企業が気づき始めた背景には〈1〉グローバル化により外国人の従業員や海外の取引先とのコミュニケーションが必要になった〈2〉女性活躍推進法に基づく行動計画で女性登用の数値目標を設定した〈3〉障害者の法定雇用率が4月に引き上げられ、積極的な雇用が求められている――ことなどがある。

 「多様な人材を活用できることが企業の重要な経営戦略になった」と、人材育成支援会社「サイコム・ブレインズ」(東京)の専務、太田由紀さんは指摘する。無意識の偏見に関する企業研修の依頼は急増しており、「法律や人事制度などが整備されたのを受け、企業は社員の意識改革に取りかかり始めている」と感じているという。

 太田さんが懸念するのは、管理職が「個人的なことを尋ねることは、ハラスメント(いやがらせ)にあたるのでは」と警戒して、部下とのコミュニケーションを恐れることだ。「その人が求める配慮は何かを尋ねることなしに、固定観念や思い込みに基づいた、ありがた迷惑な行為になってしまう」と話す。

 定型化されたイメージを「ステレオタイプ」とも言い、人種や性別、年齢などから相手を分類する際に使われる。その影響を研究している立正大学教授(社会心理学)の上瀬由美子さんは、「ステレオタイプ自体は、素早い情報処理や、イメージの明確化に有効な面もある」と話す。しかし、それが実態とは異なる判断につながったり、相手を不快にさせたりしては問題だ。日本では血液型や県民性に基づく性格分類も根強いという。

 「自分の中に無意識の偏見や思いこみがあると気づくことが第一歩。絶えず意識し続けることで、『自動的な』判断を避けることができる。企業や組織は、研修などで働き手の理解を促していくことが大切です」と、上瀬さんは呼びかける。

「女性はピンクが好き」…思い込み排し、ヒット商品開発

 無意識の偏見にとらわれない発想で、ヒットにつながった商品開発の例もある。

 かばんメーカー「エース」(東京)が、20代から30代前半の女性を想定して開発したスーツケースのブランド「HaNT(ハント)」の「マイン」というシリーズは、定番色のピンクがない。発売3年目の昨年、限定色としてピンクベージュを発売したが、ありがちな鮮やかな桃色ではなく、ややくすんだ色合いだ。

 数年前にインターネットで広まった言葉で、「ダサピンク現象」というものがある。女性向けの商品を企業が開発する際、「女性はピンクが好き」という無意識の偏見にとらわれ、正確なニーズが把握できずに、女性消費者が「ダサい」「安直」と感じてしまいがちになるという。

「女性はピンクが好き」という思い込みを排し、女性向けスーツケースをヒットさせた開発チーム(東京都渋谷区のエース本社で)

 ハントの開発チームは、20~30代の女性社員6人。その一人で広報担当の森川泉さんは、「男性が女性に対して抱く一般的なイメージを加えず、私たちが本当に欲しいものを作ろうと思った」と話す。色はピンク、内部にはレースをあしらい、全体的に丸みのある形――。「そうしたものが好きな人もいる一方で、シンプルなものが好きな女性もいると考えました」

マインのシリーズは、紺色などシックなカラーをそろえている。「女性は他人に見せたくない持ち物も多い」として、内ポケットには一般的なメッシュ素材ではなく、普通の布を用いるなど工夫を凝らした。試作品に対し、男性の営業担当からは「もっと女性らしくしたほうがいいのでは」といった意見も出たが、売れ行きは好調で、定番ブランドに成長しているという。

 森川さんは「趣味や嗜好しこうは多様化している。偏見にとらわれず様々なニーズに応えた製品を生み出していきたい」と話す。

取材を終えて

 立正大学の上瀬さんに取材した帰りがけに「先生の研究室はきれいですね。大学の研究室は散らかっているものなのに」と、つい言ってしまい、「それも無意識の偏見ですよ」と笑われた。もちろん悪意はないが、先生に不快な思いをさせたかもしれない。多くない経験を一般化してしまうイメージの固定化が、少し怖くなった。(読売新聞生活部 福士由佳子)