異業種から転職して「後継ぎ」に、増える女性社長

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靴下メーカー「鈴木靴下」の鈴木さん(左)は父・和夫さん(右)について修業中だ(奈良県三宅町で)

客室乗務員から靴下メーカー、新ビジネス開拓

 中小企業などで後継者の確保が課題とされる中、「後継ぎ」として活躍する女性が目立ち始めた。異業種での経験などを生かし、経営や商品開発に取り組んでいる。

 靴下メーカー「鈴木靴下」(奈良県三宅町)の鈴木みどりさん(29)は、3代目社長候補として修業中だ。2人姉妹の長女の鈴木さんは大学卒業後、航空会社の客室乗務員として勤務。結婚などを機に退職し、2014年に同社へ入った。当初は苦労した。「一般的なビジネスマナーも靴下に関する知識も足りない。自分がもどかしかった」

 同社は、Jリーグチームが使う靴下の委託生産などを手がける。社長で父の和夫さん(59)はそれに満足せず、米ぬか成分を繊維に練り込んだ靴下など独自の商品開発に力を注いできた。夢中で取り組む父を学生時代から見てきたことが、後を継ぐ決意を後押しした。

 現在は和夫さんと二人三脚で営業活動や商品開発にあたる。「客室乗務員の経験を生かした製品を開発し、いずれ父を超える」ことが目標だ。

女性社長は8%、緩やかに増加

 帝国データバンクが17年に実施した調査では、対象企業(116万社)で女性が社長を務める割合は8%と、07年(6%)以降、緩やかに増加。16年以降に就任した社長は、「同族継承」が34%だった。

 早稲田大教授の長谷川博和さん(ファミリービジネス論)は「後継者として教育される男性は取引先や同業他社に就職するケースが多いのに比べ、女性は異業種で働くことが多い。経験や人脈などが新しいビジネスを生み出す力になりうる」と分析する。仕事と育児・家事の両立に積極的な傾向もあるという。

 「社員が気持ち良く働ける環境を作ることを心がけています」。工業用ヒーターを手がける「新熱工業」(茨城県ひたちなか市)社長の大谷直子さん(46)は話す。アパレル業界から家業に戻り、09年に社長に就任した。社員との対話を重視し、現在は「意見を言いやすい雰囲気が根付いてきた」と感じている。

「新熱工業」社長の大谷さんは、経営者を育成する研修で、後を継ぐ自覚が芽生えたという(茨城県ひたちなか市で)

 突っ張り棒などの収納用品メーカー「平安伸銅工業」(大阪市)社長の竹内香予子さん(35)は10年、当時社長だった父の体調が悪化したことをきっかけに新聞社を辞職して同社へ。ものづくりの難しさに直面し、苦闘した時期もあった。15年に社長に就任し、突っ張り棒の技術を活用したリフォーム用部品など新たな商品作りに挑んでいる。

廃業回避へ事業承継を助言

 女性後継者を支援する動きもある。大阪市の外郭団体「大阪市都市型産業振興センター」は、女性後継者の交流会を開催するほか、関西大などで後継者候補の学生が家業について考えるためのゼミを開いている。

商品について打ち合わせをする「平安伸銅工業」社長の竹内さん(中央)。「職場の雰囲気を明るくして社員のやる気を高めたい」(大阪市内で)

 長谷川さんは「経営者には従業員や伝統を『守る』、時代の変化に対応して『攻める』という二つの姿勢を両立するバランス感覚が大切。男女問わず優れた人が継ぐという考え方が定着すれば、さらに女性も増えるのでは」と話す。

 後継者難によって、中小企業が廃業に追い込まれるケースは少なくない。廃業は、雇用の減少など地域社会にダメージを与える。

 国は対策として、11年以降、各都道府県に「事業引継ぎ支援センター」を設置し、各センターを支援する本部を独立行政法人「中小企業基盤整備機構」(東京都)に設けた。センターは累計約2万件(17年9月時点)の相談を受け付け、親族や役員・従業員、第三者への事業承継の助言などをしている。

 さらに、神奈川県など一部のセンターは、「後継者人材バンク」の機能を持つ。商工会議所などが主催するセミナーなどを通じて登録した起業希望者と、後継者を探している事業者をマッチングする仕組みだ。同機構の宇野俊英さんは「経営のノウハウや、顧客や看板など無形の資産を引き継いでスタートできるのは大きな利点」と指摘する。

 人材バンクに登録する起業希望者は男性が多いものの、美容院やネイルサロン、花屋など女性向きの業種で承継を考える事業者は今後増える見通しという。(大郷秀爾)