定年退職の年齢を男女とも65歳に引き上げる企業が増えてきました。でも、少し前まで、「女の定年は50歳」とした会社があったのです。
「え?? 何これ? 男性の定年年齢は55歳で、女性の定年年齢が50歳だった時代があったの? 衝撃……!」。 私が法律の勉強を真面目にするようになって、ある判例を知ったときの感想です。私は、今と比べて定年年齢が早いことに驚いたわけではありません。男性と女性の定年年齢が5歳も違うことに驚いたのです。
この判例は、1969年1月に満50歳になろうとしていた会社員の女性が、勤務先から68年12月で退職するよう言い渡されたというもの。そこで、この女性は、男女別定年制は民法90条の公序良俗違反で無効である、すなわち自分は50歳で定年退職をすることはないとして、会社を訴えたわけです。
「男女別定年制」無効判決まで10年超の歳月
ここで、原告女性の置かれた立場を考えてみると、この裁判がいかに困難なものであったか、想像に難くありません。68年当時、一人の女性社員が会社を訴えることのハードルの高さを思うと、私は胸が痛みました。気が遠くなりました。気が遠くなると言えば、この裁判にかかった時間もそうです。最高裁で判決が出たのは81年3月24日。最終的な判断が下されるまで、実に10年以上の歳月を要したわけです。
最高裁はこのように述べています。「会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効であると解するのが相当である」
読んでみてどう思われましたか? 私は「当たり前やん」って思いました。当たり前の判決が出るまで10年以上……っていうことです。
しかし、当時これが本当に「当たり前」だったのかどうか? 多くの人は、女性だけが早く定年を迎えることに違和感を持っていなかったのではないか?と想像しています。だって、この事件が起こる20年ちょっと前までは、女性には参政権すらなかったわけですから。
時代は変わります。「当たり前」も変わります。今の「当たり前」に風穴をあけた先輩たちの努力の上に、私たちの暮らしがあるような気がします。
「当たり前」を疑ってみませんか? 「当たり前」に縛られて身動きがとれなくなっていませんか? そんなことを、弁護士の立場から一緒に考えていきたいと思います。
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