休暇先で仕事「ワーケーション」に注目

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 ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた「ワーケーション」と呼ばれる働き方に注目が集まっている。帰省先でテレビ会議に参加したり、海外旅行中にプログラミングの仕事をしたり。旅先で仕事をすることに、どんな利点があるのだろうか。

長期の休み取得しやすく

 ワーケーションは、欧米で始まった新しい労働スタイル。IT技術者やビジネスマンらが、リゾート地などに一定期間滞在しながらノートパソコンなどを使って仕事をする。リフレッシュできる環境に身を置くことで、作業効率の向上や斬新な発想が生まれるメリットがあるとされる。

 日本航空は今年の夏から、ワーケーション制度を取り入れた。空港などでシフト勤務をする社員を除く約4000人が対象だ。

 休暇の取得促進に主な狙いがあり、ワーケーションとして認めるケースと、そうでないケースがある。例えば、3日間の休暇のうち、やむをえず2日目の午後だけを勤務にあてるのはOK。一方、連日午前中だけ休み、午後を仕事にあてるのは、勤務割合が多すぎるとして認めていない。

広島県の帰省先からテレビ会議に参加する中丸さん(8月)

 人事部門で研修などを担当する中丸亜珠香あすかさん(38)は今年8月、夏休みで広島県の夫の実家に帰省した際にワーケーションを利用した。自分が中心になって進めてきたプロジェクトの会議を、どうしても帰省中に設定せざるを得なかったからだ。

 7日間の休みのうち1日だけ勤務日にし、パソコンを通じてテレビ会議を行った。午後6時に仕事を終え、家族との時間に戻った。「夏休み全体をずらすことも検討したがワーケーションのおかげでほぼ予定通り休めた」と話す。

 日本人は仕事を優先して休暇の取得が後回しになりがちだ。旅行サイト「エクスペディア・ジャパン」が2016年に世界28か国、9424人に行った調査では、日本人の有給休暇消化率は最下位で、取得に罪悪感を感じる人の割合も高い。長時間労働の是正は、政府が進める「働き方改革」の柱であり、休暇の取得推進に知恵を絞っていく必要がある。

 ITサービス会社、ソニックガーデン(東京)の野本司さん(23)は今年7月、友人の結婚式に出席するために韓国へ行った際、ワーケーションを利用して11日間滞在した。

 土日は結婚式とパーティーに出席し、続く平日の5日間はパソコンに向かってプログラミングの仕事。次の土日は、現地の友人たちと休日を楽しんだ。「平日は友人も働いているので自分も仕事をした。長期滞在で交流を深められ、いい刺激になった」

滞在促す自治体も

 多くの人にワーケーションで滞在してもらおうとPRする自治体も出てきた。和歌山県は同県田辺市内にインターネット環境を整えた大規模施設を整備。熊野古道を修復するボランティア企画なども用意し、ワーケーションをする企業や個人を呼び込んでいる。

 同県が10月に開いた現地体験会に参加した旅行会社「阪急交通社」の人事課長、甲斐かい寛隆さんは「1週間休暇を取り、続く数日間はパソコンに向かって仕事のアイデアを練る、といったことができれば有休の取得促進になると感じた」と話す。

十分な休息が認定のカギ

 ワーケーションは、会社以外の場所で働く「テレワーク」を、旅行先などにも拡大した形ともいえる。ワーケーションの普及には、まずテレワークに慣れていることが前提となりそうだ。

 IT大手のグーグル日本法人が10月、全国の事務系正社員約5400人に行った調査で、「テレワークが認められている」と答えた人は18%だった。海外の働き方事情に詳しいツーリズム・プロデューサーの茶谷ちゃたに幸治さんは「日本の多くの労働者は、自分で働き方を決められる裁量が小さい。ワーケーションが広がるかというと疑問符がつく」と話す。

 ただ、政府はテレワークの導入企業を、2020年までに3割超とする目標を掲げており、今後増加していくとみられる。これに伴い、ワーケーションを導入する企業が広がる可能性はある。

 では、企業にワーケーションが導入された場合、どのような注意点があるだろうか。

 労働安全衛生総合研究所・上席研究員の久保智英さんは、個別の利用実態の把握が重要だと指摘する。例えば、予定していた休暇までに仕事が終わりそうにないのでワーケーションに変更したという場合は、仕事の「持ち出し」になっている可能性がある。これでは十分な休息は見込めない。久保さんは「社員が積極的にワーケーションを使ったのかどうか、上司はしっかり見極める必要がある」と話す。

難しい境界線 

 取材を終えて 今回の取材の中で「配偶者同伴の学会参加や、トランプ米大統領のゴルフ外交も趣味と仕事を兼ねているからワーケーションでは?」という見解を聞いた。一般の会社員ならば、休日に仕事のアイデアを考えることもある。必要に迫られて休日出勤する人も少なくないだろう。ワーケーションを導入するには、「ワーク」と「バケーション」の境界線をどう引いていくのかが、最初の関門だと感じた。(荒谷康平)