「子連れ」は実現する?議員活動と育児との両立を考える

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 熊本市議の女性が11月、許可を得ずに0歳児の長男と共に議場に入り、トラブルになった。市議の行動には賛否が渦巻いているが、育児と議員活動の両立について考えることにもつながっている。

熊本市議で論議、子連れに賛否

 11月22日、熊本市議会の緒方夕佳市議(42)(1期目)が、生後7か月の長男を抱いて議場の自席に座った。議員や職員以外は傍聴人とみなし、傍聴人は議場に入れないとする規則に反すると指摘された。長男を友人に預けて1人で議場に戻ったが、開会が40分遅れた。市議会は緒方市議に厳重注意することを決めた。

 今回の行動の意図について、緒方市議は「育児と仕事の両立に苦しむ子育て世代の声を、私が赤ちゃんと議場に座ることで体現したかった」と説明した。

 市議会事務局には12月5日までに電話やメールなどで563件の声が寄せられた。「子どもを同伴できるよう規則を改正すべきだ」など行動を支持する意見が325件、「気持ちは分かるがやり方が間違っている」など不支持が231件、賛否不明7件だった。

 子育て中の議員が議会に出席する際は、育児しながら働く女性と同様に、保育園に預けたりベビーシッターを雇ったりするのが一般的だ。全国町村議会議長会などによると、子連れで議会に参加した例は「聞いたことがない」という。

 埼玉県越谷市の松田典子市議(39)(1期目)は、初当選した1年後の2016年3月に次男を出産、4月に議員活動を再開した。生後6週目から保育施設に通わせ、週末の仕事は夫らに子どもを任せてこなす。それでも、本会議の議案説明会にベビーカーを押して出席したり、控室まで子どもを伴ったりしたことがあるという。

議員控室で仕事をする松田市議。体調を崩した次男は保育園を休ませ、連れてきた。「一般質問の打ち合わせが必要なので。早めに終わらせないと」(埼玉県越谷市で)

 議場に連れて入ったことはないが、「子どもの首が据わる前で預け先がなく他に方法がなければ、連れて行ったかも」と話す。「私も産後うつや両立に悩んできたので、子育て世代の女性の抱える問題に気付いて解決に向けて動ける。当事者が議員として存在することは重要だ」と訴える。

 子育て中の議員が控室などに子どもを連れてくる例は増えつつある。衆議院は議員会館内に託児所があり、参議院では議員控室に子どもを連れてきた議員もいた。

 沖縄県北谷ちゃたん町議会では、女性町議の出産を機に、9月の定例議会から議員控室を保育スペースとして利用可能とした。女性町議はベビーシッターの手配などをした上で、議会の休憩時間に控室に戻り、授乳などをした。

 熊本市議会でも12月、緒方市議の要望を受け、本会議中に退席しての控室での授乳を認めた。授乳で議場にいない時に表決があれば、その前に連絡することも約束した。

 上智大学教授の三浦まりさん(政治学)によると、オーストラリアやニュージーランドなどの議会では、授乳のために議場への乳児の帯同を認めたところもある。

 三浦さんは「議場に子どもを連れてくることや授乳を認めるか否かは、議論の一部でしかない。議員の活動方法などを全般的に考え直すことが必要だ」と指摘する。海外では議員のワーク・ライフ・バランスに配慮した議会日程を組む国もあるという。子どもの夏休み期間中は議会休会、パートナーなどに育児を任せやすいよう開会は夕方以降といった配慮だ。

 京都女子大学特命副学長の竹安栄子ひでこさん(地域社会学)は「様々な意見を政策に反映するためには、多様な人が議会に参加できることが欠かせない。こうした点に、有権者はもっと関心を持ってほしい」と話す。

企業では子ども連れ仕事容認も

 企業の一部には、職場で子どもの面倒を見ながら仕事ができるところもある。熊本市議の行動を機に、こうした働き方についても、ソーシャル・ネットワーキング・サービスなどで議論が起きている。

 体験ギフト企画販売会社、ソウ・エクスペリエンス(東京)は2013年から、3歳までの子どもを連れて仕事をすることを認めている。現在、パート社員6人がこの働き方をしているという。

 「子連れ出勤できるからと応募してくる人も多い。見学に訪れた企業がその後に導入したという報告もあり、広がりを感じます」と同社。

 映画監督の紀里谷きりや和明さんは11月24日、自身のツイッターで、仕事相手が子連れで来ても構わないと表明した。「打ち合わせ、インタビュー、撮影、全く気にしません」

 一方、子連れ出勤に否定的な意見も少なくない。「自分の子どもなんか連れていったら、ヒヤヒヤして会議どころじゃなくなる」「目指すべき『子育てと仕事の両立』とは、そういうことではない」などの声がツイッターに上がる。

掲示板サイト「発言小町」では……

 読売新聞が運営するインターネット掲示板「発言小町」が意見を求めたところ、「職場の託児所などに連れてくるのはいいが、自席などのワークスペースに入れるのは反対」という声が目立った。発言小町が行ったツイッターのアンケート(1003人回答)でも、反対派が賛成派を大きく上回った。

 デザイナーという50代の女性は「職場に子どもの声が響き渡ると、周りに迷惑をかけ、母親も集中できない。職場によっては危険なこともある」とつづった。子連れ出勤よりも保育施設の整備や働き方の見直しを求める声もあった。

 明治大学教授の藤田結子さん(社会学)は「子育てや介護などの私的なことと仕事という公的なことは、男女・世代を問わず両立していかなければならない課題。熊本市議の行動を契機に、経営側も含めた誰もが、こうした課題を人ごとではなく『自分ごと』として考えてほしい」と話す。(内田淑子、野倉早奈恵)