視聴習慣を変えた!?元SMAP「72時間ホンネテレビ」

スパイス小町

「GQ メンオブザイヤー2017」の授賞式に出席した元SMAPの(左から)草彅剛さん、稲垣吾郎さん、香取慎吾さん(11月22日)

 インターネットテレビ局Abema(アベマ)TVが先日放映した「72時間ホンネテレビ」が、3日間で7400万視聴という同局の歴代最高記録を打ち立てて、話題となりましたね。出演した元SMAPの稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんにとって、この番組は新しい挑戦。長い間、自分が主演したドラマや映画の画像でさえ、ネット上での公開がタブーだった3人が、自分たちでネットに映像を上げまくる。さらに、ファンが撮った画像や動画もネットに「どんどん上げてください」とアピール。ファンにとっては、これだけでも非常に新鮮なことでした。

スマホを手にライブを楽しんだファン

 72時間のラストを飾ったのは「72曲ライブ」。残念ながらSMAPの曲はありませんでしたが、彼らがかつて「SMAP×SMAP」で共演した様々なアーティストの名曲を集大成したようなライブでした。ライブ会場にいるファンたちが手にスマートフォンをかざしているのを見ていると、感慨深いものがありました。昨今、海外のライブでは「どんどん撮ってネットに上げて」というスタンスなので、「うわっ、日本にもついにこういう時代がきたか」と思いました。

 7400万視聴というのは7400万人が見たという意味ではなく、視聴回数の合計であり、ピーク時の視聴者数は100万~200万人程度だったのではないかとの分析がありました。

 何よりもすごかったのは、1996年にSMAPを脱退したオートレーサーの森且行さんが番組に登場し、「森くん」というワードがツイッターのトレンドで世界一になったのをはじめ、番組関連のワード107件がトレンド入りしたことです。また、3人のツイッター、インスタグラム、YouTube、ブログでは「いいね」の数がうなぎ登り。中でも、香取さんのインスタ・フォロワーは100万人を超えました。3人のツイートには、今も10万前後の「いいね」があっという間に集まります。長年、トップアイドルを張ってきた彼らの知名度と、忠実なファンの層の厚さがうかがえます。

ファンとの共同作業で打ち立てた記録

 昨年、SMAP 解散の話が持ち上がって以来、ファンは、クラウドファンディングで調達した資金で新聞にメッセージ広告を掲載したり、CDの購買行動に出るなどして、「彼らを何とか応援したい」という気持ちを示してきました。しかし、ファンはそれらを、「SMAPの迷惑にならないのだろうか?」と心配しながらやってきたのです。

 ここにきてやっと、元SMAPの3人から「これをやってほしい」という明確な「応援依頼」がありました。これでファンが張り切らないわけはありません。いわば、72時間ホンネテレビが打ち立てた記録は、相思相愛の元SMAP3人とファンによる共同作業の結果なのです。

 この記録は大きなニュースだと思うのですが、放映翌日、地上波テレビ局のワイドショーが取り上げなかったのも、非常に興味深いことでした。芸能界の裏事情を知り尽くしたテレビ業界の「忖度」が働いたのでしょうか。とは言え、芸能界のビジネスに、地上波テレビだけではない「新しい別の窓」(72時間ホンネテレビで披露された草彅剛作詞・作曲の楽曲のタイトル)を開いたことは確かでしょう。

「72時間」でSNS使いこなせるように

 今回の「72時間」という放送時間は、今までテレビしか知らなかった人が「ネット視聴」に慣れてしまうには充分な時間でした。私は最初、「なぜ、わざわざ72時間もやるのか」と思っていました。しかし、72時間ホンネテレビでなされたのは、家族の誰かがつけたテレビを「ながら」観るという従来の視聴習慣を変える操作だったのです。

 SMAPファンには、それほどネットに明るくない世代も多く、SNSをやっていない人も少なくありません。ところが、そんな人たちが番組を見るため、必要なアプリをダウンロードし、SNSアカウントを作り、番組を見ながらSNSを使い続けたのです。そうした作業にすっかり慣れてしまうのが、72時間(3日)という時間でした。この72時間で一体どのぐらいの人が、SNSデビューしたのでしょうか。元SMAP3人もSNSに慣れていない40代でしたが、彼らはこの3日間で鮮やかにSNSを使いこなせるようになり、ファンにも同じことが起きたわけです。

 かつて、「冬のソナタ」が大ヒットして韓流ドラマのブームが始まったとき、多くの中高年女性が「ヨンさま」のためにDVDレコーダーの操作を覚え、CS放送の韓流チャンネルに加入し、韓国の“聖地巡礼”の際にはデジカメの操作を覚えた。そのことをちょっと思い出しました。

テレビの視聴習慣がない若者たち

 今の若者世代はもともと「テレビの視聴習慣がない」世代です。スマホでコンテンツを観るのは当たり前。「テレビよりもYouTube」です。学生に聞くと、家にテレビがない人も多いようです。

 掲示板「発言小町」にも「テレビをどれくらい観ますか?」と題するトピがありました。その問いかけに対し、「子どもが見なくなると、見ませんね。友人たちも、こんなものです。ニュースはネットからという人が多いです」「昔のように、観てないのにテレビが点いてることはないです」「誰もが同じドラマを見て話題にしたり、流行りのギャグに笑ったりする時代は終わったということでしょう」といった声が多く寄せられています。

 それでは、地上波テレビのコンテンツは、魅力を失ってしまったのでしょうか。決して、そうではありません。現に72時間ホンネテレビだって、その内容は「どっきり」「運動会」「懐かしい人との再会」など、従来のテレビ番組の手法です。でも、72時間ホンネテレビは、舞台裏も含めて、編集せずに番組を流し続けたところが新鮮でした。

 「テレビの時代が終わった」「これからはネットの時代だ」といった声も聞かれますが、そんな単純な問題ではないと思います。要は、「視聴習慣が変わった」ということです。家族がつけていたテレビをなんとなく観るという時代が終ったので、そうした「視聴習慣」に頼っていた番組は観られなくなるというだけです。

「観たいコンテンツ」を作れるか

 放送開始から21年以上続いたフジテレビの人気バラエティー番組「めちゃ×2イケてるッ!(めちゃイケ)」が来春で終わることを告知する回で、めちゃイケメンバーである鈴木紗理奈さんもめちゃイケを観ていないことが判明。しかし、彼女によれば、テレビのゴールデンタイムは「ワーキングマザーが一番忙しい時間」なのですね。時代とともにお茶の間の風景も変わり、テクノロジーが視聴習慣を変えていくことに、テレビ業界の上の人は気づいているのでしょうか?

 今は視聴者が自由に「観るツール」を選ぶことができる時代です。地上波テレビにせよネットテレビにせよ、番組の制作サイドにとって今後重要になるのは、録画してでも観たい、有料でも観たいと思わせるコンテンツを作れるかどうかでしょう。

 話を稲垣さん、草彅さん、香取さんの3人に戻しましょう。72時間ホンネテレビが放送されている間、3人が終始、楽しそうだったのが何よりも印象的でした。彼らは何から解き放たれて、あの笑顔だったのか? そして視聴者は、彼らにどんな想いを重ね、何に共感したのか? 今後も元SMAPとそのスタッフ、ファンが切り開いていく「新しい地図」から目が離せません。

発言小町のトピはこちら↓ 
テレビをどれくらい観ますか?

白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大学客員教授、昭和女子大学女性文化研究所客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「『婚活』時代」(山田昌弘共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(齊藤英和共著、講談社+α新書)、「女子と就活」(常見陽平共著、中公新書ラクレ)、「産むと働くの教科書」(齊藤英和共著、講談社)、「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ともにポプラ新書)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」(PHP新書)、「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」(是枝俊悟共著、毎日新聞出版)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」を大学等で行っている。

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