ワンオペ育児は変わるか? WAW!国際女性会議で話し合われたこと

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 イバンカ・トランプ米大統領補佐官の演説などで注目された政府主催の国際女性会議(WAW!)が、11月1~3日に開催されました。そこで関心を呼んだのは、「無償労働の分配」、つまり家事や育児といった報酬を伴わない家庭内労働の分担です。世界屈指の「ワンオペ育児」で知られる日本が変わるために何が必要なのか、参加した読売新聞調査研究本部の榊原智子主任研究員が報告します。

夫婦の家事分担ギャップ、主要国ワーストは日本

 家事や育児など家庭内の「ケア労働」は、負担が女性に偏りがちです。でも、実は主要国で日本ほど男女のギャップが大きい国はありません。

 政府の調査によると、2016年に日本で6歳未満の子どもを持つ夫の一日の家事・育児時間は1時間23分。20年前より45分増えたものの、妻が担っているのは夫の5倍以上の7時間34分。フランスの夫は2時間30分、英国では2時間46分、スウェーデンは3時間21分で、夫婦のギャップはいずれも2~3倍にとどまっています。

 母親が子育てから炊事・洗濯まで1人で担って疲弊する「ワンオペ育児」という造語が生まれたのも、日本のこうした状況から。国連は、持続可能な開発目標(SDGs)の一つに「無償労働の認識と評価」を掲げており、今年のG7サミット(タオルミーナ)でも無償労働の分配を通して男女格差是正を目指すことが確認されました。家事や育児のシェアという家庭問題も、もはや「国内事情」や「日本の伝統」では済まされなくなってきているのです。

夫の年収が1千万円を切ると、家事労働は「愛情の搾取」に

 無償労働がテーマになった分科会のモデレーターを務めた関西学院大の大崎麻子客員教授は、ケア労働が「家族の生存に直結」し「次世代育成を通して国の経済基盤にも貢献」する重要な労働なのに、主に女性が無報酬で担ってきたと指摘。「夫の労働には経済価値が認められる一方、妻の労働は無償とされてきた」と問題提起しました。

 大和総研の是枝俊悟研究員は、テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で主人公が“契約結婚”するストーリーを踏まえ、家事労働の経済的価値を独自に分析した結果を披露。ドラマでは主婦の無償労働を「愛情の搾取」と呼んで話題を呼びましたが、実際、「夫の年収が1000万円を超えていないと、(家事時間全体の9割を担う)妻は正当な対価を受けられず、搾取された状態になる」と言います。

 しかし、年収1000万円超の男性は、子持ちの30、40歳代の男性のうち1%ほどしかいません。是枝氏は、ケア労働の価値を認め、「長時間労働や男性の働き方を改めて、父親に育児休暇取得を割り当てる『パパクオータ制』も検討すべきだ」と提言しました。

写真はイメージです

古い価値観や「見えない点」も問題に

 女性営業職を応援する一般社団法人「営業部女子課の会」を主宰する太田彩子さんは、地方では家父長的な価値観が残っていると指摘しつつ、「女性も変わらないといけない。『無償労働を当たり前と思いやってきた。何を今さら』と言う女性もいる」。太田さん自身がそうした壁にぶつかった時は、「それって古いよね」と言って、意識の転換を促しているという経験談を語りました。

 ケア労働が偏るのは、タイムカードや業務一覧があるわけでもなく、労働の中身が家族内で共有されず、「見えない」点にも問題があります。グーグル・ジャパンのブランド・マーケティング・マネージャーの山本裕介さんは、WEB上の「家族カレンダー」で子どもの予定や保育園の行事日程などを共有した場合の夫婦の調査結果をあげ、妻のストレスが軽減され、夫の家事時間と満足度がどちらも上昇したと紹介しました。

 世界経済フォーラムの男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」の最新結果で、世界144か国のうち114位だった日本。一方、5位だったスウェーデンでもケア労働の偏りがあるそうです。スウェーデン人で国連児童基金(ユニセフ)フィリピン事務所のロッタ・シルワンダー代表は、「母国のスウェーデンは男女平等と言われるが、無償労働の分配には深刻な問題がある」。女性は男性の2倍のケア労働を担っていて、「育児より家事の分配は難しい。状況を改善するには(育休の義務化など)法整備も必要。さもないと改善には時間がかかる」と提起しました。

家事力は人生100年時代の「サバイバル能力」

 この分科会に参加した一人として、私からは「ケア労働の分担が男性にもメリットがあることを知らせる必要がある」と提案しました。特に、平均寿命が83・7歳と世界最長の日本では、男性も家事や育児、介護の力をつけることが、長い老後を幸せに生きるための“サバイバル能力”になると感じていたからです。

 家族から「粗大ゴミ」などと後ろ指をさされず、有力な家庭内戦力として期待されるよう、学校教育の段階から男女ともにケア労働のスキルを学ぶことが、これまで以上に大事になっているように思います。政府の「人生100年時代構想会議」でも、ぜひ議論してほしいと願っています。

 ちなみに、昨年訪れたフィンランドでは、男性も家事や育児を分担する「イクメン」が若い世代では普通になっていました。「それは男性にとっても幸せなことか」とあえて質問すると、若いパパたちは「フィンランドでは男性の自殺が減った」と胸を張って説明してくれました。「仕事オンリー」から「仕事も家事・育児も」に変わることは、男性の自殺が多い日本においても、かなりメリットがあるのではと気づかされました。

 ケア労働の分配には、「家庭内のシェア」だけでなく「家庭と社会のシェア」も大事です。介護は、介護保険制度ができて社会化が進み、ホームヘルパーの派遣やショートステイの宿泊滞在など社会的支援が整備されました。育児でも、家事を助けるホームヘルパー派遣や、子どもがお泊まりでも過ごせる夜間保育所などが整備されたら、「ワンオペ」状態の改善につながるのではないでしょうか。少子化の克服には、そうしたことも検討すべき段階にきているのではないか――、そう考えさせられました。

(調査研究本部主任研究員 榊原智子)