衆院選、女性候補者に立ちはだかった厚い壁

スパイス小町

 先の衆院選は、よくも悪くも女性がクローズアップされた選挙でした。希望の党代表の小池百合子・東京都知事が語った「鉄の天井」という敗戦の弁も話題になっています。そして、さらに繰り返し報道されたのは、女性の立候補者たちの「女の闘い」です。

 先日、欧州のある大使館の方と「なぜ日本の女性の議員が少ないのか?」という話をしていたら、その方はふいに「おかしいよね。なぜ女性議員が立候補したところに、女性の対立候補を立てるの? どうして女と女の対決にしたがるのだろう?」という素朴な疑問をぶつけてきました。

 確かにそう。そして、この疑問に対する答えは、男性議員が「女性に活躍してほしいけれど、男性の既得権益を侵さないように活躍してほしい」と考えているから、ではないでしょうか。女性候補が擁立された選挙区は、あえて男性候補を降ろさなくてもいいようなところが多かったように思います。そこには「男性の席を減らさない」という願望が透けてみえます。欧州の一部の国が導入しているクオータ制(一定比率の女性候補者を立てなければいけない制度)は、日本では夢のまた夢でしょう。

「レア」ゆえに厳しい社会の目

 3選を果たした山尾志桜里氏は9月に週刊誌で不倫疑惑を報じられ、「我が子を置いて」と、母親としての自覚を問われました。ところが、子どもを持つ男性議員が不倫をしても「子どもを置いて……」という批判はまず聞こえてきません。不倫を擁護するわけではありませんが、「男性の性」は「女性の性」よりも甘く扱われていると思うのです。それでも山尾氏が当選したのは、彼女の「仕事」への評価だと思いました。

 秘書への暴言・暴行疑惑が致命傷となって落選した豊田真由子氏。録音されていた暴言のインパクトがあまりに強く、パワハラの典型例として彼女には同情できないのが正直なところです。しかし、そんな豊田氏に対して、自民党の河村建夫氏が「ちょっとかわいそうだ。あんな男の代議士はいっぱいいる」と述べて、すぐに撤回するという出来事がありました。そう聞くと、議員の個人事務所という密室の中では、暴言や暴力などは日常茶飯事なのかもしれません。豊田氏が糾弾されて、態度を改めた男性議員も多いのでは……。

 とにかく、政治分野では、女性の存在はまだ「レア(希少)」であり、レアであるがゆえに、目立って話題になりやすく、社会の目が厳しい。女性議員の数が少なく、男女のジェンダーギャップ指数が111位という日本の現実を変えるためには、あえて女性議員を応援したり、少なくとも足をひっぱらないことも必要なのではないかと思います。日本より女性の政治参加が進んでいる欧州の人に会うたびに、私は「女性だけ依怙えこ贔屓ひいきしてもいいのか?」と聞くのですが、必ず返ってくる答えは「それは平等になってから言ってほしい。今はマイナスから戻しているところだから」と言うのです。

身近にもある「男女の壁」

 発言小町でも「男女の壁」が話題になったトピがありました。小さな娘さんからの、テレビに登場する博士が男性ばかりという素朴な疑問を投稿した「どうして博士は男の人ばかりなの?」。このトピに対して、学校で「女の子らしい職業を」と指導され、「科学者になりたい」という本人の希望に「薬剤師になれば」と教師からアドバイスされたといった事例を投稿した人がいました。

 女性議員についても同じようなことがあるのかもしれません。地方の若手の女性市議会議員から「年配の女性たちに『政治は男の人に任せておけばいいのよ』と言われてしまうんです」という嘆きを聞いたことがあります。

大臣職と双子の子育てを両立

 先日、スウェーデン大使館で「働き方の未来と男女平等」と題するシンポジウムが開かれ、同国の労働担当大臣であるイルヴァ・ヨハンソンさんが出席しました。女性大臣であるヨハンソンさんの、その時のスピーチが印象的でした。

 政治活動歴33年の彼女ですが、初めて閣僚に指名されたときは、双子の子どもが生まれたばかり。閣僚の仕事と子育てを両立させるのは困難と考え、就任を断ろうとしました。しかし、「誰もが子どもを育てながら仕事もしやすい社会に、あなたが権力を行使して変えていってください」と説得されて、重責を引き受けることにしたそうです。

 私は「権力ってそういうふうに使うものなんだ……」と思わず感心してしまいました。

 妊娠しただけで「公務がおろそかになる」とか、子どもを公用車に乗せて保育園に行くだけで批判される日本とはあまりに違います。

 スウェーデンでは今、誰が政権トップになろうと、閣僚の女性比率は5割と決まっています。不思議なことに、スウェーデンの男性たちに「逆差別じゃないですか? 不公平じゃないですか?」と聞くと、誰もがけげんそうな顔で「だって女性に働いてもらわないと国が困るでしょう」と言うのです。

上にも下にも女性がいれば、男性は変わる

 ヨハンソンさんの話を聞いた後に、日本にも事例があることを知りました。

 現役最年少市長として今年1月、28歳で大阪府四條畷市長に就任した東修平さん。民間の求人サイトで副市長を公募し、元リクルート社員で子育て中のママでもある37歳の林有理さんを選んだのです。副市長にあえて女性を選んだわけは「多様性」だと、東さんは言います。幹部職員が男性で占められていた同市の組織改革を目指す東さんは「女性が副市長になれば、上にも下にも女性がいて、男性職員たちも変わらざるを得ないでしょう」と、あるインタビューで語っています。これも「権力の正しい使い方」なのに違いありません。

 

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白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大学客員教授、昭和女子大学女性文化研究所客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「『婚活』時代」(山田昌弘共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(齊藤英和共著、講談社+α新書)、「女子と就活」(常見陽平共著、中公新書ラクレ)、「産むと働くの教科書」(齊藤英和共著、講談社)、「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ともにポプラ新書)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」を大学等で行っている。

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