世界初!? 肌着が奏でる癒やしの音楽、聞いてみた

 肌着が奏でる癒やしの音って……? やわらかな肌着用の繊維を弦楽器の弓に使って、聞いたことのない音を奏でるプロジェクトを「グンゼ」(本社・大阪市)が進めています。肌触りの良さを耳でも感じてもらう試み。むちゃぶりとも思えるこのプロジェクトに、弓製作者や京都フィルハーモニー室内合奏団といったプロが全面協力して、演奏会まで開かれました。どんな音色かを紹介します。

 弦楽器の弓に使うのは、グンゼが開発した女性用肌着「肌がよころぶスキンウェア KIREILABO(キレイラボ)」用の繊維。企画したのは、Njの名前でミュージシャンやDJとしても活動している、よみうりテレビの名物プロデューサー西田二郎さんです。「『すべすべする』とか、『着ていて気持ちいい』とか、肌着の魅力を言葉で表現するのは簡単ですが、実感として伝わってきませんよね。まったく違う用途で使って素材のよさを実感してもらうために、『音を出す』という発想が生まれました」

雑音を生まない角度を試行錯誤

 演奏会場は大阪市内のライブハウス。バイオリン4、ビオラ、チェンバロ、コントラバス各1の7人編成で、弓を作った弓製作者の三枝佳世さんもリハーサルに立ち会いました。三枝さんは、もちろん馬の尻尾の毛以外で弓を作るのは初めて。夏に依頼を受け、「イメージがすぐにわかなくて、『結果はどうなるかわかりませんが』とお断りした上で、お受けしました」。繊維は、縦、横、斜めと、引っ張る方向によって伸び方が違い、繊維の向きによっては、雑音を生むそう。最もきれいな音が出る角度を探し当てるのに苦労したと言います。「リハーサルで聞く限りは、しっかり音が出ているので安心しました。特に、チェロとコントラバスの低音部がいいですね」

弓を製作した三枝さん(左)、肌着のピンク色をした弓。表面の滑らかさがきれいな音のポイント(右)

 午後2時半に「究極の癒やしを奏でる演奏」と銘打った、お披露目の演奏会がスタート。「僕がインターネットで調べる限り、人毛で試してみた例はあっても、肌着ではヒットしませんでした。おそらく世界初の試みなのでは……」と、西田さんも緊張した面持ちです。

 最初の曲は、Nj作曲の「112」というメロディアスな1曲。初音を奏でたのは、ビオラ。続いて、バイオリン、チェロ、コントラバスの音が重なっていく。前もって弓の素材が違うと知っていないとわからないほど、音に違和感はありません。 

肌着から音が!開発者の驚き

 演奏会で披露されたのは、合わせて4曲。最後の1曲は、このためにNjが書き下ろした「癒やし」。「テーマを決めて曲を作ると窮屈になるので、なにも考えずに、音が天から降りてくるのを待ちつつ作曲をしています。今回は、試奏で音を聞いた瞬間に、すとんと音が降りてきたような感じで、すんなりと曲ができましたね」

 スタジオの客席には、KIREILABOの開発に携わったグンゼの関係者も。KIREILABO推進役の倉田承江さんは、「ほんとに音が出るのだろうか、もしかしたら出ないかもしれないと思っていたので、実際に音が出るだけでなく、ちゃんと音楽が奏でられていたのに驚かされました。衝撃でしたね。最初はどきどきしていましたが、じきにそれをも忘れ、とても癒やされました」

KIREILABO推進役の倉田承江さん(左)と仕掛け人の西田二郎さん

 KIREILABOは、完全無縫製というグンゼの特殊技術が駆使されており、名前からわかるように、縫い目がないのが最大の特長。布を貼り合わせて、縫い目をなくすのですが、貼りあわせる際の接着剤の配合や、布にかける温度の具合などに工夫が必要で、薄手のもので10年、厚手のものだと、さらに2年の開発期間がかかったといいます。「ずっと肌着の開発に携わっていたことで、肌着以外の使い方を考えつかないようになっていたようです。新たな視点を与えてもらったことで、これまでの枠にとらわれず、新しいことに挑戦したいと思うようになりました」

 今回の企画の立案から作曲、この日のMC役と大役を担った西田さんは、「もっととがった音かなと思っていましたが、実際の本番で聞いてみると、横幅のある、どこかノスタルジックな、蓄音機から流れてくるような音でしたね。今では、そのような音質を作るために、デジタルで音声加工をしているのですが、これだとそのままリアルに音が出る。『KIREILABO音』と呼んでいいかもしれません。実際に使ってみたいという奏者が出てくるかもしれませんね」と笑顔でした。

 演奏会で、最初の音を奏でたビオラの松田美奈子さんは、「力強い音で、命が吹き込まれたみたいでした。きょうからスタートだなという感じがした」。 弦楽器だけでない、管楽器や打楽器でも肌着を用いた、肌着の音源だけのコンサートが近い将来開かれるかも……。そう思わせる演奏会でした。(文・二居隆司)

 KIREILABOの音はこちらの動画で。