アラフォーで早期引退、アムロちゃんが教えてくれたこと

スパイス小町

 安室奈美恵さんが芸能生活25年で引退宣言!――。このニュースは、彼女と同じアラフォーの女性たちの心をざわつかせました。「同年代で私たちのアイコンだったアムロちゃんが引退。一方、私は? まだまだ頑張らなきゃいけない年齢なのに……」といったように。

時代を変えた「でき婚」のアイコン

 時代を象徴するスターは時に、その時代の「変化」を早回しに進めます。私にとって彼女は「でき婚」のアイコンです。安室さんは今からちょうど20年前、人気絶頂だった20歳の時に、人気ダンス音楽ユニット「TRF」のダンサー・SAMさんと結婚。スラリとした足が見えるバーバリーのミニスカート姿で記者会見を開いた彼女は、喜びに満ちあふれた表情で母になることを報告しました。

 あの一瞬で、それまではちょっと後ろめたかった「できちゃった婚」が、喜びと誇りに満ちたものに変わったのです。それは「時代が変わる」ことを鮮やかに見せてくれた瞬間でもありました。

 翌年の出産。その後の芸能界復帰。そして、電撃結婚から約5年後、安室さんとSAMさんは離婚しました。

 彼女が離婚した時に、私は女性誌にこんな記事を書いています。

 「山口百恵は結婚して引退を貫き専業主婦、松田聖子は結婚、離婚を繰り返し、女として母としてプロとして頑張っています。安室奈美恵は20歳のできちゃった結婚で産休の後、復帰。NHKの復帰ドキュメンタリーで『休んでいる間、どうやって復帰しよう、どうすればいいかとずっと考えていた』と語る彼女の顔は『結婚引退』など全く頭になく、キャリアを継続していこうという厳しいプロの顔でした。この原稿を書いている最中に安室奈美恵は離婚しました」

引退で示したプロとしての誇り

 結婚しても、子どもを産んでも、プロとして立っていく。今、一般の会社員女性もやっと歩めるようになった道を指し示した彼女が、今度は「早期引退」です。会社員として仕事をしている多くの女性たちにとって早期引退は現実的かどうか……ではありますが、安室さんはまた、新しい女性の生き方の選択肢を示してくれたのです。

 そういえば以前、ワーキングママさんたちに何歳まで働きたいかをインタビューしたところ、「50歳まで」という人が多かったのでした。今は仕事と子育てで精いっぱい。でも子育てが一段落したら、自分のやりたいことをやりたい。そんな願望があるのだと、彼女たちは口々に語ってくれました。

 また会社員という形にこだわらない人も目立ってきています。副業、兼業が珍しくなくなった世の中だからかもしれません。友人の一人は40代で会社役員を辞め、アジアの手仕事による雑貨を扱う小さな雑貨店のオーナーになりました。しかし、これがただの雑貨店ではありません。友人は、会社員時代の人材育成の経験を生かして、事業を通じてアジアの女性たちが手仕事でフェアな対価をもらい、自立できるように支援したり、日本の地方に住む女性たちの活性化を応援したりしているのです。

 これまでの知識・経験を生かしてフリーランスとして働きたい個人を応援する人材サービス会社の担当者は、「今、フリーになりたい女性は増えている」と言います。芸能界からフリーになるアムロちゃんも、ひょっとしたら、また違う形で私たちの前に現れるかもしれません。

 掲示板「発言小町」にも、幅広い世代が「アムロちゃん、ありがとう」というメッセージを寄せています。

 「アラフォー世代だと、ファッションもメイクも真似したし、歌も大好き、という人が多い、まさにどストライク世代ですよね。憧れだけでなく、自分を彼女に同一視した、という人も多いでしょう」「彼女以前にはあまりにもデキ婚の印象が悪かったのが、安室ちゃん以降、授かり婚として、印象がかなり向上した、というのも、これも彼女が社会に与えた影響で大きかったです」などと、安室さんへの熱い思いを語り合っています。

SNSの普及が芸能人の引退を決断させる?

 来年の安室さんの引退まで、インターネット動画サイトの「Hulu」が毎月、ドキュメンタリー映像を配信することも発表されました。それも一回限りのドキュメンタリーではなく、毎月違うコンテンツが配信されるという贅沢さです。テレビの歌番組からライブ活動へと軸足を移していた安室さんが、アーティストとしての最後の日々の伴走者に、ネット配信という新しい形を選んだのも、時代を切り開いてきた彼女らしい選択かもしれません。

 一方で、インターネットには負の影響もあるように思います。安室さんだけでなく、今年は、人気の女性芸能人の引退発表が相次ぎました。アイドルグループ・乃木坂46の橋本奈々未さん、「カントリー・ガールズ」などで活躍した「ももち」こと嗣永桃子さん、そして、数々の映画、テレビドラマで主演を務めた女優・堀北真希さん……。

 いまは、動画でさえ誰もが気軽にSNSにアップでき、ニュースやゴシップの発信者になれる時代です。実際、店の従業員が「有名人の○○が来店した」などと書き込んで、プライバシーの侵害だと批判が巻き起こるケースも後を絶ちません。

 SNSの普及によって、プライバシーを守ることがどんどん至難の業になっています。そんな時代の変化が、「普通の生活」を望む芸能人がきっぱり引退することを決断する一因になっているのかもしれません。

 

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白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大学客員教授、昭和女子大学女性文化研究所客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「『婚活』時代」(山田昌弘共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(齊藤英和共著、講談社+α新書)、「女子と就活」(常見陽平共著、中公新書ラクレ)、「産むと働くの教科書」(齊藤英和共著、講談社)、「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ともにポプラ新書)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」を大学等で行っている。

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