湯あみ着OKの温泉増える 手術後や外国人に配慮

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混浴の屋上露天風呂で、湯あみ着を着て入浴する子ども連れの夫婦。裸では入浴できない。各地の温泉で、湯あみ着(入浴着)の利用が広がりつつある(長野県諏訪市の温泉旅館「萃SUI―諏訪湖」で)

 各地の温泉で、湯あみ着(入浴着)の利用が広がりつつある。ワンピースや半ズボンなどの形で、着たまま入浴できる。裸で混浴風呂に入ることに抵抗を感じる傾向が強まったほか、裸で公衆浴場に入浴する習慣のない訪日外国人が増えたことなどが、背景にあるようだ。

家族での入浴もOKに

 「裸でのご入浴は出来ません」

 長野県諏訪市の温泉旅館「萃SUI―諏訪湖」を訪ねると、屋上の混浴露天風呂の入り口に貼り紙があった。昨年のオープン時から、裸での入浴を禁止した。代わりに無料で湯あみ着を貸し出している。

 責任者の岡本尚子さんは「屋上露天風呂は広くて、諏訪湖を一望できるが、一つしかない。混浴には抵抗がある人も、気兼ねなく楽しめるようにした」と説明する。

 あらかじめ客室に設けられた風呂で、体を洗ってから露天風呂に入る。利用した女性(31)は「裸で混浴風呂には入りたくないが、湯あみ着があれば気にせず入れる」と話す。

 群馬県みなかみ町の温泉旅館「宝川温泉 汪泉閣」は、インターネットサイトなどで湯あみ着を貸してもらえることが広まり、今では外国人観光客が年間約1万人訪れる。社長の小野与志雄さんは「湯船につかる習慣はないが、日本の温泉を体験してみたいという外国人に好評」と話す。

 観光庁は昨年3月、温泉など入浴施設向けに訪日外国人への応対の事例集を作成した。入れ墨がある外国人への対応として、「衛生的な湯あみ着やシールなどで入れ墨部分を覆い、他の客に見えないようにする」といった内容を盛り込んだ。

 公衆浴場法や旅館業法では、不特定多数の人が入る温泉などの浴場について、都道府県や政令市などが具体的な風紀や衛生に関する条例を定めるよう求めている。統一した湯あみ着の規則はなく、対応は施設ごとに任されている。

 同庁は「文化や風習が異なる外国人への対応に施設側が困惑し、入浴を拒否してしまう例も多い。湯あみ着などの活用を」と呼びかける。

行政も理解呼びかけ

 手術痕などを人目に触れさせたくない人が湯あみ着を着るケースもある。

 がん患者支援団体「CSRプロジェクト」(東京)代表理事の桜井なおみさんは、乳がんを患い、右の乳房を全摘出した。「体に大きな傷がある人や、抗がん剤の影響で陰毛がない男性など、温泉に入りたいが我慢している患者は多い。湯あみ着を認めてくれれば、そうした人たちも抵抗なく温泉に入れる」と語る。

 岩手県は昨年、手術痕や傷痕をカバーするために湯あみ着を着る人への理解を呼びかける啓発ポスターを作成、配布した。こうした行政の動きは、各地に広がりつつある。

岩手県が作成した啓発ポスター。手術痕などをカバーする入浴着への理解を呼びかけている

 混浴の「ヒバ千人風呂」がある青森市の酸ヶ湯温泉には、若い男性から「湯あみ着はないのか」という問い合わせが増えた。担当者は「そうした要望に応えたい一方、混浴風呂に裸で入浴する文化を残すため湯あみ着は不要という声も依然多い」と打ち明ける。

 「温泉手帳」(東京書籍)などの著書がある松田忠徳さんは「裸で入浴したい人もいる。湯あみ着を使用したい人への配慮は必要だが、派手なデザインのものを導入すると、温泉の素朴な雰囲気を壊してしまいかねない」と指摘する。

 日本温泉協会長の大山正雄さんは「湯あみ着の有無など、より細やかな情報提供が施設に求められている。自分に合った温泉施設を選べるようになれば、みんなが楽しめるだろう」と話している。

腰巻き状やワンピース形

 湯あみ着を着て温泉に入浴したい場合、気を付けることは何だろうか。

 温泉評論家で日本温泉地域学会長の石川理夫さんは「まずは、入浴施設に湯あみ着を利用できるかどうかを事前に確認して」と助言する。

 その際には、施設に湯あみ着の用意があるかどうかも尋ね、なければ持参する。施設側が衛生面を考慮して、湯あみ着の持ち込みを禁じ、施設内で購入したものやレンタルしたものに限定していることもある。

 湯あみ着は、インターネットなどでも購入できる。半ズボンや腰巻き状、ワンピースのタイプなど、形状は様々。素材も速乾性に優れたものなど好みに応じて選べる。

男性用の腰巻き状(左)や、女性用のワンピース(右)など、湯あみ着のデザインは様々だ(インターネット通販サイトの温泉百貨店提供)

 乳がん患者に配慮した温泉旅館などの任意団体「ピンクリボンのお宿ネットワーク」は、ホームページ(http://www.ribbon-yadonet.jp/)で、患者にやさしい全国の施設や、温泉の楽しみ方を紹介している。施設の情報や施設で使えるクーポンが付いた無料冊子も毎年発行。希望者はホームページから申し込むことができる。送料無料で1部送ってもらえる。

素材などに改良の余地

 取材を終えて 取材した温泉旅館で、実際に湯あみ着を着て入浴してみた。湯の色は無色透明だが、湯あみ着があれば混浴でも入る勇気が出そうだ。温泉ならではの大浴槽や、自然の中での開放感も魅力だ。ただ、浴槽から出た後、湯を含んだ湯あみ着を重く感じた点は、少し気になった。素材などは改良の余地がありそうだ。取材で「温泉は心も体も癒やされる」と何度も耳にした。温泉愛好家の一人として、今後もみんなが楽しめる温泉のあり方を考えていきたい。(矢子奈穂)