老いた愛犬にできること 「老犬ホーム」で安心の余生

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 寝たきりや認知症になる犬猫が増え、その介護が必要になるケースも目立ってきた。自らも老いるなど、様々な理由で飼いきれなくなる飼い主のため、死ぬまで犬の面倒を見る「老犬ホーム」が注目されている。

犬も長寿化 介護は重労働

 東京都大田区の女性(81)は、17歳のシバ犬「マリ」の介護を続けてきた。認知症で夜中に徘徊はいかいする老犬の世話は重労働だ。女性は抱き上げたり、かがんで餌を与えたりするうちに、腰をひどく痛めてしまった。

 それを見かねた妹(72)が、インターネットで探し出した老犬ホームを見学したり、施設スタッフに話を聞いたりし、昨年12月、大田区内にある「東京ペットホーム」と契約した。

 老犬ホームが注目されるのは、人間同様、犬も高齢化が問題になってきたからだ。ペット業界に詳しい中小企業コンサルタントの西川芳彦さん(59)は「2000年代に犬を飼うことがブームとなり、それらの犬が今、高齢化を迎えている。介護が必要なケースも増え、飼い主の負担になっている」と指摘する。

 医療の発達やペットフードの改良、室内飼育が増えたこともあり、犬の平均寿命は延びている。ペットフード協会の調べでは、16年現在、飼い犬の年齢は、人間で言えばほぼ65歳以上に当たる10歳以上が、全体の3分の1以上を占めた。

 これらの犬が飼い主側の事情で介護できなくなった時、頼られるのがホームだ。以前なら実家や親戚に預けたところだが、人間関係の希薄化で難しくなった。地方自治体も「殺処分ゼロ」を掲げるなど、犬猫を簡単には引き受けない。

 ホームに入るのは、寝たきりや認知症のほか、夜鳴き、徘徊などの症状を持つ犬が多い。また、飼い主自身が介護を必要とするようになったり、単純に親がペットを残して亡くなったりというケースでもホームが利用される。

 東京ペットホームはそれぞれ犬と猫の施設を持ち、犬は8匹、猫は18匹を預かっている。8月上旬、犬の施設「ドッグホーム」を訪れると、店長の高橋あゆみさん(45)が膝の上でマリをブラッシングしていた。おむつをしたマリは体も曲がり、痛々しい姿だが、優しく声をかけられてうれしそうに目を輝かせていた。

ホームスタッフに世話されて、うれしそうなマリ(手前のシバ犬)=東京都大田区の「ドッグホーム」で

 犬猫は原則、終生預かるが、契約は1年ごとに更新するのが普通。マリの場合は余命が短い可能性も考え、特別に3か月更新となった。介護料込みの費用は、最初の3か月で57万円、以降も年間で100万円以上。大きな額だが、かけがえのない家族が安心して余生を送れる環境づくりには代えられない。老人ホームと同じで、飼い主はいつでも預けた犬に会える。女性が自宅から通える距離にあったことも、この施設を選んだ一つの理由だ。

 こうしたホームはまだ広く知られていない。老犬・老猫ホームを運営する全国12社での協会設立を目指す会の発起人で「老犬ホーム トップ」(熊本県菊池市)社長の緒方こころさん(40)は「様々な業者や個人が参入し、今後に問題が起きる恐れもある。業界のルール作りを急ぎたい」と話していた。

施設選びは慎重に

 老犬・老猫ホームはどうやって探すか。

 全国約30施設と提携し、情報提供サイトを運営する「リブモ」社長の森野竜馬さん(47)によると、都市部にあるホームは、会いに行くことを考えれば、都市に住む人には便利だが、費用が高くなりがちだという。一方、郊外のホームはドッグランが併設されるなどペットの運動やストレス発散にはいい環境だ。ただ、飼育数が多くなり、飼い主の細かい要望に対応できないケースもある。「見学や面会ができなかったり、価格の説明があいまいだったりする施設は注意が必要です」と森野さん。

要介護の犬は餌を食べるのも人の手助けが必要だ

 費用は、死ぬまで面倒を見る「一生預かり」のサービスの場合、施設や犬の大きさなどで異なるが、リブモの調べでは、年間23万~162万円。平均56万円ほどだ。賃貸住宅の礼金や敷金に相当する別料金が必要になるケースもある。額が大きいだけに、預ける際は、実際に見学するなどして慎重に。森野さんは「ペットを飼うなら、介護が必要になった時に備え、施設を調べておくことが大事です」と呼びかけている。

 リブモでは、サイト「老犬ケア」のほか、フリーダイヤル(0120・732・303)などで相談窓口を設けている。

「最古の友」へ 最低限の礼儀

 取材を終えて 忠犬ハチ公をテーマに地域版で長期連載を担当したことがある。印象に残ったのは人と犬の深い絆。最古の家畜と言われる犬には、長年培った人への共感力があるという。今回、老犬ホームで世話される犬が、人を信頼しきっているように見えたのは気のせいだろうか。

 高齢化が進む日本の社会が、老犬の問題にどう取り組むか。最善を目指すことこそ、「最古の友人」に対する最低限の礼儀かもしれない。(宮沢輝夫)