放置の傘を再活用 自販機で無料貸し出し

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 持ち主が現れない落とし物の傘や放置自転車などの生活用品を、地域で再活用(リユース)する動きが広がっている。十分に使える物の廃棄を防ぐのが狙いだ。企業が協力して無料レンタル事業を広域で展開するなど、効率的に取り組むために知恵を絞っている。

「急な雨の時に便利」 落とし物の傘をリユース

 6月下旬の雨の日、東京都板橋区の商店街で、通行人が自動販売機の横に並んだ傘を持って行く。傘を無料で貸し出しているのだ。地元の主婦(58)は「急な雨の時に便利。ビニール傘を買わずに済む」と歓迎する。

 これは、関東や関西、名古屋市の鉄道4社と飲料大手、ダイドードリンコ(大阪市)が6月から本格的に始めた「みんなのレンタルアンブレラ」というサービスだ。保管期間を過ぎた駅の落とし物の傘をリユースし、関西以東の12都道府県にある自販機約380台に備え付けた。貸し出し用を示すタグやステッカーを付け、利用者に返却を促す。

レンタル傘を設置した自販機横のボックス「みんなのレンタルアンブレラ」。傘はダイドーの社員が補充する(東京都板橋区で)

 傘の貸し出しサービスは珍しくないが、全国で自販機約28万台を持つダイドーの営業網により、広域できめ細かく展開できるのが強みだ。同社が鉄道各社提供の傘をとりまとめ、地域の利用状況を見ながら効率的に分配している。

 提供元の一つ、東京急行電鉄では、落とし物の傘が2016年度に約3万4000本あり、落とし主への返還率は2割にとどまっていた。現在は、2か月の保管期間を過ぎるとダイドー側に引き渡す。「従来は廃棄していた傘を有効活用できる」と東急電鉄。

放置自転車を修理して販売

 放置自転車のリユースも広がる。佐賀大学の学生団体「チャリさがさいせい」は09年以降、大学内で乗り捨てられた自転車を引き取り、パンクなどを修理して新入生や市民に販売している。価格は5000円前後で、預かり金500円が含まれている。卒業などで不要になった利用者が自転車を返却すると、500円が戻るので、新たな乗り捨て防止につながる。

 16年度は402台を回収、61台を再生した。副代表の伊藤海到かいとさん(21)は「メンバーの育成や確保が大変だが、市民の反応は良く、やりがいがある」と話す。

 15年の放置自転車数が全国市区町村で1位の横浜市では昨年、市内の放置自転車100台を熊本地震の被災地に送った。実施団体の一つ、横浜旭ロータリークラブは「安全な物を厳選し、被災者の生活の足に役立っている」と話す。

構内で回収した放置自転車を修理する「チャリさがさいせい」のメンバー(佐賀大学で)

 日用品のリユースには、まだ使える資源の安易な廃棄を防ぎ、環境負荷の軽減やゴミ減らしにつながるメリットがある。ただ、レンタル事業では、返却率の低さやコストなどで頓挫した例も出ている。

 千葉県市川市は今春、放置自転車を活用した無料のレンタル事業をやめた。市内観光をする人向けに06年から貸し出してきたが、「放置自転車が減る中、部品などの劣化が進み、安全で状態の良い物の確保が難しくなった」と市交通計画課。買い物目的に使うなど利用者のマナー悪化も、やめる一因になったという。

 ダイドーなどによる傘のレンタル事業も、繁華街などでは返却されず、在庫ゼロとなったボックスがある。今後、地域の人が返却しやすい場所への集約を検討するという。

 名古屋工業大学准教授の伊藤孝紀さん(都市デザイン)は「リユース品を効率的に循環させるには、活用の意義や利点について地域の関心を高める必要がある。色やデザインに統一感を持たせて認知しやすくするなどの策が有効。事故防止のため、安全性の確保も欠かせない」と指摘する。

増え続ける落とし物 返還率は4割弱

 警察に届く落とし物は増え続ける一方、持ち主への返還率は低迷している。2017年版警察白書によると、16年中の全国の拾得物(現金を除く)は2796万点で過去最高だったが、返還率は37・4%だった。

 安価な日用品ほど、返還されるケースは少なくなる。警察庁が14年の拾得物の返還率を調べたところ、運転免許証91・9%、預貯金通帳86・7%、携帯電話82・4%に対し、衣類・履物4・2%、ハンカチ1・6%、傘は1%だった。

 返還率を上げようと、今年4月、遺失物法の施行規則が改正され、落とし物の返還手続きが簡単になった。

 警察署に取りに行けない場合、従来は落とし物を送ってもらうよう依頼する書類が必要だったが、改正により、原則、電話1本で済むようになった。警察が遺失届などの情報をもとに落とし主だと確認できれば、着払いで2、3日程度で自宅に配送してもらえる。

 拾得物の情報は、各都道府県警の「落とし物検索サイト」で公表されている。警視庁の場合、現金や財布、傘、衣類・履物など26品目が対象。落とした日付や場所を選ぶと拾得物の一覧が表示される。

 保管期間は原則3か月だが、傘や衣類など安価な物は2週間で処分できる。警察や鉄道会社は保管の場所やコストの問題を抱えており、阪急電鉄(大阪市)は6月、傘の保管期間を3か月間から2週間に短縮した。こうした動きは広がる可能性があるので、問い合わせは早めに行いたい。

買い替え減らす

 ◎取材を終えて 急な雨の時、ついビニール傘を買ってしまう。300~500円程度と安価だからだが、いつしか玄関に何本も並ぶ。電車の中でなくしても「まあいいか」。物を大切にする気持ちが薄らいでいたことを反省した。

 一方で、ビニール傘をデコレーションシールでおしゃれに飾るなどして大切に使う人もいる。確かに、自分好みにアレンジすれば愛着が湧く。我が家でも、安易な買い替えをなくす工夫をしてみたい。(岩浅憲史)